第14話 探検!ボクの知らない自分のおうち
そして、ボクはこの家で一人お留守番タイム本番に突入した。
そういえばまだパジャマ姿だったから、ボクは着替えることにした。
和室に向かうと布団はきれいに畳まれていて、その上に着替えが用意してあった。
用意してあったのは灰色のワンピースと、ベージュ色のソックス。それから薄手で薄いブルーのカーディガン。
カーディガンは寒ければ羽織るのだろう。今日のこの気温だといらないかも知れなかったけれど。
ボクはパジャマを上下とも脱いでしまうと、ワンピースを持ち上げて広げてみる。
ワンピースの裏表を見回して、どうやって着たら良いのか考えた。
見た感じ裾の方から被るように着たら良さそうだけど、胸の当たるところにはスポンジみたいなのが入ってる。
「こっちが前だから、こう持って……」
とりあえず前後ろだけ注意して、ずぼっと被る。思いの外ボリュームがあって、よじよじと布をたぐり寄せて襟を頭の方へ持って行く。
「むむむ……」
襟口の場所が分からなくなって、頭がなかなか通らない。男の時にこういう着方をするのはTシャツかトレーナーくらいものだったから、もっとサクッと着れていたんだけど。
丈が長いってだけでこんなに苦労するとは思ってもみなかった。
なんとか頭を通して、一つ結びの長い髪も外に出して、腕も両方袖から出した。でも胸のスポンジが自分の膨らんだ胸の上に乗っかってしまっておかしな事になってる。
スポンジは胸の当たると思われるところがえぐれた形なので、たぶんここに自分の胸の膨らみを収めるんだろう。
実際にそうやって収めてみると胸が下からサポートされて、身体を動かしても胸のたぷたぷが気にならなくなった。
「すごい。うまいことできてる」
胸元はぴたっとした着心地で、そこから下はルーズそのもの。
試しにくるっとその場で一回転すると、裾が少しだけど広がって、これは新鮮だ。
Tシャツをそのままずどーんと伸ばしたような形なので、お姫様のドレスみたいに大きく広がるわけじゃなかったけれど。
それで、やっぱり脚、というか太ももの内側あたりが風通しの良い感覚なのと、太もも同士多少こすれる感覚があるので気にはなる。
風通しの割には足を前に出した時に布がまとわりつくので微妙に歩きづらかったりもする。
「これも慣れるのかな」
とか思ったけど、やっぱりズボンがなんとなく恋しい。
ただ、風通しの良い感覚の割に寒くは感じないのが不思議だった。
§
そんなこんなで着替えも終えて、脱いだパジャマを洗濯機にとりあえず放り込んだらやる事がなくなった。
時間は10時を回ったところで、お昼まではまだまだ時間がある。
外に出るわけにも行かず、かといって家のお掃除とかはまだちょっと勝手の分からないところもあるし。
洗濯物を取り込むには早いし、本当にやる事がない。
そんな事を考えていたら、ふとお仏壇に目が合った。
とことこ歩いてお仏壇の前に立つ。
飾られた小さな写真の向こうには、赤とピンクのおくるみに包まれた赤ちゃんの笑顔。
そこに映った顔は、ボクが男の子の優樹だった時にアルバムで見た、赤ちゃんの頃の自分と同じ顔。
「これ、ゆうきちゃん。だけどボクでもあるんだよね……」
写真の隣には小さな花瓶に季節の花が一輪飾られて、ほこりもきれいに払われている。パパとママが毎日手入れを欠かさない様子が見て取れる。
しばらくそのまま見ていたけど、そのうち自然に手を合わせて目をつぶってた。
自分が自分にお祈りするのって、よく考えてみるとちょっと変だけど、本当のゆうきちゃんの魂はいなくなって、そのゆうきちゃんの身体を借りたからボクがいるわけで。
そういう意味では優樹からゆうきちゃんへ感謝の祈りと、それから引き継いでボクががんばりますっていう決意のようなものをご報告しておくのも悪くないかなと。
この家にいる間だけでもゆうきちゃんへの祈りとお礼は欠かさないでおこうと決めた。
リビングの窓から外を覗き見る。
天気は晴れ。この場所にいると少し暑いくらいに感じる日差し。
ボクの知っている家とどれくらい違うのか、少し家の中を探検してみようと思った。
一階についてはお仏壇があって食卓が小さいくらいで、見てわかる違いはほとんどない。
階段を昇って二階に上がる。
間取り自体はボクの知っている家と同じ。一番大きな部屋をパパとママが寝室に使っているのも同じ。一番の違いは、ボクのだった部屋が今はパパの書斎部屋になってること。
二階の廊下の突き当たり。そこがパパの部屋。
ドアのレバーに手を掛けると、軽くきしむ音がしてドアが開いた。
最初に見えたのはドアに向かって置かれたデスクだ。
真ん中にはパソコンの液晶画面の裏面が見えている。その向こうには立派な背もたれの黒いチェア。チェアの向こうにはカーテンの閉まった窓。
「なんだか社長さんとか、そんな感じの部屋だね」
そんな事を考えながら、一歩部屋に踏み込んで驚いた。
壁一面の書棚。
誰もが知っている昔の文学作品のタイトルが見える。そうかと思えばすごく専門的な内容を思い浮かべさせるような、難しいタイトル。
文学だけじゃなくて、それこそ色々なジャンルの本がそこには収められていて。
「パパって、こんなに本好きだったっけ……?」
そんな疑問を浮かべながら書棚を追いかけていくと……一番端っこにマンガの単行本かな?
書棚のガラス扉を開けて、そのマンガに見えたいくつかの中から一冊を抜き取ると、それはカラフルで美しいイラストで表紙が飾られた小説だった。
「これって、ライトノベル、だよね」
どちらかといえばお堅い内容の本ばかりの中に、数冊のライトノベルが混ざっているのはどう見ても違和感しかなくて。
そして良く見てみるとその数冊はどれも同じタイトルの続き物だった。
ぱらぱらとめくって斜め読み。
女の子が病気で死んじゃって、異世界で魔法使いに転生して色々な国を、街を巡っていく物語。
そしてその女の子の名前は『ゆうき』。
「名前がボクと同じで、病気で死んじゃうのもおんなじで、なんだかボクのお話みたいだね」
なぜだかすごくその物語が気になったボクは、立派なデスクチェアに身体を預けて最初から読み始めた。
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