第12話 女の子道はやっぱり大変で


 女の子になって初めてのお風呂をなんとかこなして上がってきたら、洗面所でママが待ち構えていた。


「さあ、お風呂上がりにやらなきゃいけない事、教えるわね」


 そう言ってママがバスタオルを持って、ボクの身体を丸ごと包み込む。

 風呂上がりにやるのはお肌のお手入れらしい。女の子の肌は男よりも薄いので水分が逃げやすくて痛みやすいとか。

 だからまだお肌に水分が残っているうちに保湿して、それから髪を乾かすっていう順番でやるのだそう。


「ここは時間との勝負なの。手早くやらないとお肌から水分が逃げちゃうからね」


 最初のバスタオルも肌をこすらないように、タオルで肌を押さえるように水分をざっくりと取るだけ。

 それが終わったら続いてパンツだけ履かされて、長い髪をタオルでまとめてしまう。

 見た目ターバンみたいで面白いなーなんてのほほんとしてたら、ママの手が顔面を覆ってきた。そのままぺたぺたと水みたいな物を顔に塗り広げていく。

 あんまり力は入っていないようで、肌の表面をスルスルとなでている感じ。


「やり方覚えてもらわないといけないから、ゆうきちゃんも化粧水やってみて?」


 そう言うとママは化粧水を少しだけ手のひらに落としてくれたので、自分でもやってみる。


 両手の指に化粧水を伸ばして、ママにやってもらった感じでぺたぺた。

 全体にムラが出ないように伸ばして、しっとりしたらオーケーらしいけど。

 ちょくちょくママの手がチェックに入って、ここが足りないあそこが足りないとダメ出しが入った。


 なんとかママの合格が出ると、ボクが触っても分かるほど顔の肌にしっとり吸い付き感があるのが分かる。

 なんかすごいなーと思ってたら、最後の仕上げは乳液。

 これは簡単だからと最初からボクが自分でやってみることに。

 化粧水のおかげでしっとりしてる肌は、乳液もツルツルと伸びて、化粧水の時より手早く終わってしまった。


 夏場とか、首回りの露出が多い季節はそういうところも乾燥するので、気がついたら早めに同じようなケアをしないといけないと教えてくれる。

 まだ若いからって手を抜くと、大人になってから泣くよと脅かされてしまった。



 そして、ようやくといった感じで髪を乾かす順番になったけど、これもまたなかなか大変だった。


 髪を洗う時も四苦八苦してたけど、長いせいで取り回しが難しい。

 首に巻き付くし絡まっちゃうし引っ張られて痛いしで、良いところがなにもない。


 ドライヤーを使う時も、空いてる手でガシガシ髪の毛を散らすのは良くないと言われて、ドライヤーの風で髪束を大きく吹き飛ばすように当てると教わる。

 長さのせいもあってなかなか乾かなくて、乾いたと思ったらもっこもこになってしまった。


 このままだと髪が熱を持っててブラッシングで整える時に傷むので、最後は冷風で冷ますのと教えられる。


 そして絡んだ髪を無理に引っ張らないように気をつけながら、仕上げのブラッシング。

 これだけ長いと朝起きた時もブラッシングしないと絡んじゃって大変だよと、ママは言う。


 

 全ての行程が終わると、そこにはお肌つやつや、髪もつやつやのボクが鏡に映っていた。

 なんだかちょっと感動してしまう。

 この感動のために女の子は皆がんばってるのかなー、なんてたわいもない事を考えてみたりして。



 そして脱衣カゴの縁に畳んであったパジャマを着たら、洗面所を追い出されてしまった。

 居間にやってきて時計を見ると、お風呂に入ってからたっぷり1時間以上かかってた。

 たぶんそのうちの半分以上はお風呂上がりのケアとドライヤーのような気がする。


 女の子をやるのはとっても大変だなぁと、居間のソファーに座ってため息が出てしまった。


 お肌のケアはともかくとしても、髪を乾かすのが毎回これでは時間が掛かり過ぎちゃってかなわない。

 髪を短くしてもいいか明日、ママに尋ねてみようと思った。



§



 眠れない。


 和室に敷いたお客様用の布団に潜り込んだまま、1時間以上も目は冴えたまま。


 今日はあまりにも色々なことが起こりすぎて、身体は疲れているはずなのに頭の整理が追いつかなくて、眠気が湧いてこない。

 生成神さんのこと、自分の体のこと、破壊神としての存在のこと、ゆうきちゃんのこと、そしてパパとママのこと。


 ボクの不思議な力、これはまさしく神の力の片鱗なんだろう。そこは揺るぎないと思う。

 でもボクには破壊神としての記憶は全然ない。その割に、色々な力を使うときにサポートが効いてるみたいに自然に使えているけど。

 身体そのものはゆうきちゃんの物。力は破壊神の物。それじゃ元々のボク、優樹の物ってなんなんだろう……。


 この15年間の記憶は優樹の物で、今こうやって考えているのもその繋がりのままの優樹。優樹は今日でおしまい、なんて言っちゃったけれど、ゆうきちゃんの記憶なんて持ち合わせてないし、スイッチを切り替えるみたいにできる訳なんかない。

 だから記憶と思考はやっぱり優樹の物。

 その源になるのは心というか、魂というか。


 ゆうきちゃんの身体に破壊神ユウキの力、そして優樹の心。

 三人がかりでなんとか一人。そう考えると少しおもしろい。


 なによりも、パパとママがなんの警戒心もなくボクの事を受け入れてくれた。その事実はボクにものすごく大きな勇気を与えてくれている。

 明日からはもっと甘えても良いんだろうか。ゆうきちゃんの15年間の分まで。


 それから、生成神さんのことはどうしたらいいんだろう。あれから何も接触はないし、どこにいるのかも分からない。

 確か『この星の住民になりすまして』と言っていた。そうならば、ボクみたいにどこかの家庭の一員として暮らしているんだろう。それに彼女は元から女の子、夜は家から出してもらえないのかもしれない。

 もっともそのへんは神の力を使えばどうとでもなってしまいそうだけど。


 そんな事をつらつらと考えていたら、いつの間にか眠りに落ちてしまっていた。

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