第2章 女の子、がんばる
第11話 懐かしくて新しくて
時刻はもう夜の9時を回っていた。
遅い夕食。
三人で食事をするには少し小さいテーブルだったけど、イスも一人分は他から持ってきたけど、それでも親子三人の水入らず。
ボクにとっては昨日までの食卓と見かけは同じだけど、今までと違う親子関係の食卓。そしてパパとママにとってはまったく新しい親子関係の食卓。
冷凍してあった肉団子をママが野菜と一緒にトマトソースで軽く煮込んだものと、それからスーパーで買ってきていたポテトサラダ。
あとはご飯と、ワカメのお味噌汁。
晩ご飯の味付けは、いつもと変わらないママの味だった。でもなんとなく懐かしくて、ホッとする味。
食事をしながらも話は弾んで。パパとママがボクの物を色々買い揃えないとね、なんて嬉しそうに話してる。
夕食を食べ終えて、居間のソファーでくつろぐ。
本当は洗い物を手伝うよってママに言ったのだけど、今日のゆうきちゃんは一日大変だったんだからとやんわり断られてしまった。だから今はパパと並んでテレビを見てる。
壁の時計はもう10時半過ぎ。
そのうちにお風呂の用意ができたと音声が聞こえてきた。
明日も仕事があるから申し訳ないと言いながら、パパが一番でお風呂に行った。
その間にボクとママで、ボクの寝具の支度をする。
ボクの使っていた二階の部屋はパパの書斎になっていて、もう一つの広い部屋は以前と変わらず両親の寝室に、三つ目の奥の部屋は物置みたいになっていた。
そんな訳だから、ボクの寝る部屋は一階の和室に落ち着いた。今日のところは。
押し入れから布団を取り出して、ママと手分けしてカバーを掛けていく。案外力のいる作業だけど、二人で手助けし合いながらやっていけば、思ったよりも簡単にできた。
お風呂上がりに着るパジャマや下着は、サイズの事もあってママの物を使うことになった。女物だけど女の子の身体だし、たぶん大丈夫だよね?
サイズを確かめる時にママと並んで姿見で見てみたけど、背の高さはほぼ同じ。どうやら似たような体型みたいだ。足は少しだけボクの方が長いみたいで羨ましがられたけどね。
やっぱり親子だわと、ママがすごく嬉しがっていたのが印象に残った。
パパがお風呂から上がって、次はボクの番になった。
今着ている衣服はリボンが変化したもので、脱ぐ事ができるのか少し不安だったけど、それは問題ないみたいで。
でも、下着はパンツすら履いていなかった事に今初めて気がついた。さすがにこれはまずいので、今後衣装を替える時はもうちょっとしっかりイメージしないといけない、と強く思った。
脱衣場兼用の洗面室で、全ての衣服を脱いだボクは裸のまま鏡の前に立つ。
基本的な顔の作りは優樹だった頃とそれほど変わらないけど、なんとなく優しい感じになった気がする。少なくとも目元に関しては睫毛がすごく長いのがよく分かる。
髪は結わえていたのを解くと、腰まで伸びるさらさらストレート。
元々華奢だった体つきはさらに華奢になって、首も腕も以前よりずっと細く。胸は破壊神に初めて変身した時よりも小さいけど、それでもくっきりと丸みを帯びてそれなりのサイズ。
胸元には鎌のペンダントが鈍く光ってる。
ウエストも当然男の子時代より二回りは細くて、そもそも全てのラインから角が消えたイメージになった。
おへそから下は当然女の子で、華奢な上半身と比べるとやや肉付き感のあるヒップ周り。そして男の子にあるべき物はあの真っ暗空間で感じた通りに影も形もなくなっていた。
この容姿をしっかりと覚えておかないといけない、と思った。
これから先、ボクは
お風呂に入る前、ママから気をつけてと言われてたことを思い出す。
髪が長いので、身体を洗う時と湯船に浸かる時にはキャップを被って髪を収めること。それから、トリートメントを丁寧に髪全体になじませること。シャンプーとトリートメントの後は当然地肌までしっかりすすぐこと、洗顔は石けんでなく洗顔料を使うこと、などなど。男の子の時には想像もしなかった注意がいっぱいで、ボクはお風呂に入る前から少々ぐったりした気分だったのだけど。
ものすごく時間をかけて、女の子になって初めてのお風呂をなんとかこなして上がってきたら、洗面所でママが待ち構えていた。
「さあ、お風呂上がりにやらなきゃいけない事、教えるわね」
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