第6話 姿形は変えられるけど


 そして下の方も一応確認してみたのだけれど……


「……こっちは、ないんだね……」


 男のシンボルの方は戻ってこなかった。


 カタチは似せられるけれど、性別はどうにもならないみたいだ。

 ここまでできるのならカタチだけでも戻して欲しかったけれど。

 そこら辺は今後の努力課題ということにして、今は見かけだけでも元の姿になったことに感謝した。



「次はこの鎌、どうにかできないかな」



 ボクの身長より長くてグネグネと折れ曲がった黒い柄と、ボクの身長の半分ぐらいの刃渡りがある鎌。


 さすがにこんなモノを持って街を歩いたら警察案件まっしぐらだ。

 どうしたら良いか少し考えてみる。


 小さくして、ポケットに入れるというのを最初に考えたけど、どこかで落としてしまうとすごくマズい。

 鞄かなにかに入れるのも、これは常に肌身離さず持っていないと、生成神の彼女に襲われたときに困る。

 小さくするのは決定としても、それをどうやって持ち運べば良いか……。



 そうだ、と思いついた。


 ペンダントにして首にぶら下げておけば、落とすことはないし常に持ち歩ける。

 校則に引っかかるかも知れないけど、その時はその時だろう。



「鎌を、ペンダントに」



 シュッと勢いよく小さくなった鎌が、ボクの右掌に落ちてきた。


 鎌の形はそのままに、柄の長さが4センチくらいの小さな姿になって、柄のおしりには細いチェーンが付いた、銀細工のようなネックレスだった。

 ボクはそれをTシャツの下に隠すように首からぶら下げる。



「よし、これでいいかな」



 なんとか家に帰る準備は整った。

 ボクはここから街へ降りることにした。


 境内らしき広場で指差し確認。


「えーと、祠がこっちで鳥居があっちだから、鳥居の向こうに降り口があるはずだよね」


 てくてくと鳥居の向こうまで歩いて行くと、思った通り石段が続いていた。

 でも草が生い茂っていて、まともに歩くのは辛そうだ。


「なんだか歩きづらいなぁ……。すこーしだけ浮いて進もうかな」


 さっきの飛行でだいぶ要領を掴んだ気がしていた。


 地上50センチくらいに浮いて、そのまま石段の傾斜に沿って滑るように飛んでみる。

 思っていた以上に簡単にできてしまった。

 人目に付くとこれでもマズい気はするけど、人気ひとけはないから大丈夫と信じて、草のないところまでそのまま降りていった。


 最後の数段はちゃんと歩いて降りる。

 少し警戒しすぎかも知れないけど、ここまで降りてくると急に人が来るかも知れないし。

 そしてそ知らぬ様子で、自宅の前まで歩いて帰ってきた。


 玄関のドアは当然鍵が掛かっていて、まだ母さんは帰ってきていないようだ。

 そこで気がついたけど、ボクは今家の鍵を持っていなかった。鍵は学校の鞄の中だ。

 


 さて、これは困ってしまった。

 荷物を取りに学校に戻りたいけど、時間が分からないと学校がまだ開いているかどうか分からない。

 そして、腕時計もスマホも持っていないので、今の時刻が分からない。

 居間の掛け時計を見ようにも、カーテンが閉まってるから見えないし。

 だからここでも正攻法で押し切ることにした。


 玄関ドアの鍵穴を指で触れて、お願いしてみる。



「鍵を、開けて」



 すると鍵穴の奥でカチャン、と音がした。おそるおそるドアノブを引いてみると、いつも通りスムーズに開く。

 もう、なんでもありだった。


 玄関で靴を脱いで、居間へと進む。


 部屋の様子に少しばかり違和感があったけど、急ぎでもあったからそこは気にせずに、壁に掛かった時計を見る。

 時刻はもう午後4時ちょっと前になっていた。案外時間が経っていて驚きだ。学校の方はもう放課になっている頃合いのはず。

 鞄とか弁当箱とかを取りに戻る必要はあるし、午後を欠席してしまったことを先生に報告する必要もあるだろう。


 その一方でまだ生成神さんは学校にいるかもしれない。

 でもこちらも彼女の攻撃を受けるだけの力はあるし、他の生徒や先生のいる前で仕掛けては来ないだろうと考えた。


 あとはこの衣装だけ制服に着替えなければならないけど、本物の制服もどこに行ってしまったか分からないので、さっき私服に替えたときと同じように、制服に替えることにした。



「制服に、着替えたい」



 そう言葉を発しながら、今朝着ていった制服のイメージをできるだけ詳しく思い出す。

 今着ている普段着がほどけて、制服の形になった。

 念のため洗面所の鏡で点検してみたけど、容姿も服もちゃんと財部優樹たからべゆうきそのものになっていた。


「へへ、これなら問題ないね」


 っと、ちょっと声のトーンが高い感じで女の子の声みたいになっている。少し発声練習をして、いつもと同じくらいの低さで出してみる。


「あ~~~」


 なんか喉をだいぶ開いてる感じで、あんまり声を出すと辛そうだ。でも喋るのは先生の前だけでだろうし、それくらいならどうにかなるかな。

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