第4話 ユウキ、空に逃げる
ユウキが鎌から伸びた黒いリボンにぐるぐるに包まれてしまってから、もうかなり時間が経ってしまった。
ワタシの目の前にあるその真っ黒な玉は微動だにせずそこに浮いたまま。中で何が起きてるのかは分からない。
さすがにこれだけ長い時間を待っていると、気の長いワタシでも少し焦りといらつきが心に浮かんでくる。
そんな事を考えていたら、空中に浮いたままだった鎌に変化が現れた。
鎌はその刀身を光らせると、破壊神の鎌へと変化する。
そしてその場でくるりと反転したかと思えば、そのまま玉の表面を縦にざっくりと切り開いてしまった。
「あっ」
突然のことに驚いたワタシは思わず声を上げた。
そして切り開かれた玉の表面から光が湧き出す。
玉はどんどん
それとともに玉を形作っていたリボンが解けてユウキの身体に改めて巻き付いていく。
巻き付いたリボンは頭に近い方から変形して行って、ワタシも見覚えのあるシルエットを形作っていく。
どんどん解けてはユウキに巻き付き、形を変えていくリボン。
すっかり解けて光の放出も止んだあとには、黒を基調にした破壊神の衣装に身を包んだユウキが宙に残された。
「……破壊神……やっと、やっと本当に……」
そして、目をつむったまま宙に浮いている破壊神の胸に、ワタシは飛び込んだ。
むにゅ。
「むにゅ?」
目の前にはさっきと変わらないユウキの顔……。
でもワタシの胸に当たるこの感触は……。
おそるおそる視線を落とすと、ワタシとユウキの間に挟まれて、二つの大きな肉玉が潰れていた。
§
「なななななな、なによこれーーーーーーっ!!」
眼前から放たれた絶叫とも怒号とも取れない叫び声に、ボクは意識を取り戻した。
目の前には生成神さんがいて、ボクの両肩をしっかりと掴んでる。
そしてその顔はこれ以上はないっていうくらい情けない表情で、視線はボクの胸元に集まっていた。
「あの? 生成神、さん?」
ボクの言葉に気づいたのか、彼女の見上げる目線がボクを睨む。
そしてその顔はどんどん怒りを含んだ表情になっていって、とうとう本当に怒り出した。
「アナタ! 本当は女だったの!? よくもワタシを騙してくれたわね!」
その怒りの勢いに、ボクはただ焦ることしかできなくて。
でもなんとか言葉にして返す。
「ぼ、ボクは男ですよっ! リボンに包まれたらこんなになっただけでっ!」
彼女の手が肩から離れて、少し距離が開いた。
「そんなかわいい声出してるヤツが男の訳あるかっ! そこに直りなさいっ! 輪廻に還してあげる!」
彼女はそう言うと右手を頭上高く持ち上げる。
手の中にハンマーのようなモノが現れて、そのまま振り下ろされてボクの頭に。
思わずしゃがみ込んだけど、避けられそうにはなかった。
コーーーン。
堅い木を打ったような打撃音のあと、二人の周囲から物が壊れる音が響き渡る。
目を開けると、額の前でクロスしたボクの腕の前に鎌が割り込んで、振り下ろされたハンマーの衝撃を受け止めていた。
でも衝撃波は周囲にばらまかれたようで、フェンスは跡形もないし出入り口の扉も半分吹き飛んでいた。
そんな事にはお構いなく、彼女が再びハンマーを振り下ろす。
ボクはとっさに鎌を握りしめ、今度は自分の意志で鎌を盾にしてハンマーをブロックする。
再び巻き起こる衝撃波。
残ったドアも今の一撃で完全に吹き飛んだ。
今は校舎の屋上で、周りに建物がないのが唯一幸いだった。
でもこのまま戦っていては周りが全部ムチャクチャになってしまう。
それに彼女が本気を出したら街ぐらい軽く吹っ飛ぶかもしれない。
頭はフル回転してこの場から逃げる事を考える。
でもどうやって?
出入り口から逃げては被害が校舎の中まで及ぶだろうし、瞬間移動が使える彼女の事だから、あっという間に追いつかれそうだ。防戦は鎌のおかげでできているので、とにかく
そんな事を考えていてふと足元を見ると、自分がまだ宙に浮いてる事に気がついた。
なんだ、飛んでるじゃん。
視界の端から襲いかかる彼女のハンマーをみたび鎌で受け止めると、ボクは上空へと意識を向ける。
そして、飛ぶ、と意志を持つ。
一瞬で、ではないけれど、それでも相当な速度でボクは校舎から遙かな高空へ飛び出した。
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