第4話 未来への采配



『修也様っ!不思議です!こんなにもアズールが活気づいているの私、初めてみます!!凄いですね!!クミアイ・・・それに・・・あ!そうそう・・・ガッコウ!!』


シェイリーは楽しそうに窓の外を見ていた。


『それにこんな建物をたった1ヶ月で建ててしまうなんて・・・んーっもうっ!!修也様のお知恵は本当に凄いですねっ!!』


シェイリーの興奮はまだまだおさまりそうにない。

まあ、それも仕方ないかもしれないな。



俺がこのアズール村の領主になって1ヶ月。

なにもかもを思い付く限り新しい政策に取り組んできた。


今、俺とシェイリーがいるこの建物の建設もそのひとつだ。


『俺はリフォーム屋・・・いや、元々あった家の修理をしたり、増築して新しい部屋を作ったりする会社に居たんだ。まぁ、俺は技術屋じゃなくて営業マンだったから知識しかなかったんだけど、その話をしてたらアズールの職人たちが興奮して話を聞いてくれてさ。ぜひ、ニホンの家を造ってみたいって。』


しかし、本当に1ヶ月で建ててしまうなんて俺も正直ビックリした。



だってここに今建っているのは昔ながらの『日本家屋』なんだから。



『領主である修也様の住まい・・・つまりお城ですね!ちょっと小さいしお城っぽくはないですが、でもニホンカオク、凄くカッコいいです!!』


『お城か・・・ははっ、まあそんなたいしたもんじゃないよ。それにここはアズール村の政治と防衛の中心にもなる。これを1ヶ月で本当に建ててしまうなんて、アズールの職人はほんとうに素晴らしいよな!!な!!』


実際には魔法のおかげなんだけどね。

職人の中に生成魔法が得意な人がいて、素材さえ集めれば、建築材料はすぐに作り出すことが出来た。

俺が作った設計図も、熟練の職人には簡単な説明だけですぐに内容が伝わった。

木材の切り出しや運搬などは『ドライアド化』したオリーブが進んで手伝ってくれた。


さすが異世界。

仕事が早いはずだ。


『・・・ここから始まるんですね。新しいアズールの未来、エイトフィールド国の未来が。』


『そうだな、俺達にこの国の未来がかかってる。だからこそ俺達は、選択肢を間違えることも、魔王軍に負けることも許されない。』


『そう・・・ですね。』


シェイリーは少し暗い顔をしていた。

村を守れなかった悔しさ、申し訳ないという思いでまだ自分を責めているようだ。


『シェイリー、こっちに来いよ。』




あれはお前のせいじゃない。

お前はよく頑張った。



シェイリーは今、そんな言葉は欲しくないだろう。

むしろ、余計に責任感を感じてしまうかもしれない。


━━━だから。


『ずっとそばにいて、俺のフォローをしてくれよ。俺が、間違った選択肢をしてしまわないように。それが、俺が最初に選んだ選択肢だ。』


『修也様が魔王を倒し、元の世界に帰るまで・・・ですか?』


『そう・・・だね。』


慰めるつもりだったんだが、シェイリーは辛そうな顔をしているようだ。


そしてたぶん、それは俺も。




『なーに見つめ合っちゃってるんですかねー。シェイリーさぁん、抜け駆けはよくないですよ?💢』


『そうだよー、シェイリーお姉ちゃん!領主様は私とケッコンするんだからっ!』



ドアが開いた音に俺達は気付かなかったらしい、そこには一仕事終えたオリーブとシイナが立っていた。


『オリーブさん、シイナちゃん!!いつからそこに居たんですか!?///』


『お二人が見つめ合って、今にもキスしそうな時からですわぁ。領主様も寵愛は均等にしていただかないと、いつか謀反が起きましてよ、ねぇー、シイナちゃん。』


『ほぇ?謀反ってなにー?』



いつも穏やかなオリーブが穏やかに怒っている。


し、シンプルに怖いっ!!


『お、オリーブ、シイナもよく来てくれたね。あれ、アシュリーはドコカナー?いないみたいだけど・・・』


『アシュリーお姉ちゃんならあそこだよー?』


シイナが指差した先はドアの奥。

アシュリーは両腕を組み、柱に体重を預けていた。

その顔は心なしか怒っているように見える。


『アシュリーさんも嫉妬しているのですわぁ。起こしちゃいましょうか、一緒にム・ホ・ン。』



ストレートに怖ええええっ!!!!


『わ、私は別に寵愛など受けなくても・・・修也殿さえ幸せならゴニョゴニョ・・・でも、謀反には協力してしまうかもだが・・・』



お前もかよっ!?

まったく、こっちの世界の女の子の嫉妬は恐ろしいなぁ・・・


『コホン、みなさんお集まり頂いてありがとうございます!ちょ、寵愛の話はさておき、修也様・・・さっそく例の話を。』


『そそそ、そうだね!みんな、とりあえず席についてくれないか。』


三人共『ジト目』で俺をみながら席に座る。


『実は、今度、新しくこの村の防衛軍を創ろうと思う。』


『『『防衛軍ですかっ!?』』』


三人共驚いた様子だが、たぶんシイナだけがソレがなんなのかわかっていない。


あの顔はきっと・・・わかってない。


『あぁそうだ。シェイリー、説明してやってくれ。』


『はい、ではコチラを・・・。』




シェイリーは一生懸命説明を始めている。

俺は敢えてこういう会議でシェイリーに発言させるようにしている。


それは、シェイリーに領主である俺の付き人であり、アズールのNo.2であることを自覚させるためだ。


そして、それは同時に回りの人間にシェイリーをこの村の指導者として納得させるためでもある。


そして、防衛軍の創設指導はその第一歩でもある。



『シェイリー、説明ありがとう。で、この防衛軍の指揮官だが・・・軍隊長にはアシュリー、お前を任命したいと思っているんだ。勇敢な戦士のケンタウルスに聖獣化するお前なら安心してこの村の防衛を任せられる。冷静な判断が出来るお前だからこそ、俺の直属の軍隊長として活躍して貰いたいんだ!!』


『私が軍隊長!?修也殿直属の・・・』


アシュリーは顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせている。


よーし、もう一歩だ。


『アシュリー、信頼できるお前だからこそ、俺の村を任せたいんだ。ずっと俺の側で、俺と一緒にこの村を守ってほしい。』


『ひゃっひゃいっ!!よ、喜んでその大役、ちゅ、ちゅとめさせて頂きみゃすぅ!!』



やはり、チョロかったか(ニヤリ

体をくねくねさせながらずっとニヤけている。


『修也様ったら、私にガッコウの先生を任せられるときも、お前にしか出来ないんだーとかいってましたわね。本当に女性を口説くのが上手な罪なお方ですわぁ。』


『そうかなぁ、俺はニホンでは全然モテなかったんだよ。だからこうしてみんなが慕ってくれて正直ちょっと戸惑ってるんだよね。』



もちろん、これはホンネだ。

でも、そのお陰でこの年頃の女の子たちは扱いやすい。


『あーっ!!そう言えばシイナのときも、オリーブお姉ちゃんのガッコウで野菜の作り方教えてって言われたとき、お前のうまい野菜を毎日食べられるようにしたいからって言ってた!!』


『修也殿、そうかみんなに言ってるんだなァ。』


まてまてアシュリー、みんなもなんか殺気だってるよ!?


『あぁもう!わかった、わかったよ。俺はここにいるお前らが全員大好きで、全員大切なんだ!!だから、その・・・1番とかは決められないけど、みんな俺の側に居ろっ!!これは主としてのお前たち奴隷への命令だっ!!!シェイリー、後でお前も俺と奴隷契約だっ!!不公平はいつか不幸を招くからな!!!!』



あれっ?俺何言って・・・

今、俺トンデモないこと言ったんじゃ!?


『修也殿がそう・・・言うなら///』


『これ以上、修也様の寵愛を受ける女の子は要りませんわよ///』


『始めて好きになった人だもんね///』


『修也様の、どどど、奴隷・・・私なにされちゃうのかな///!?』



あ、やっぱり。

いや、美女に囲まれて嬉しいはずなんだけどね。


『ならば、いっそ4人とも嫁に貰われては如何でしょうか。領主様。』


『ジルクさん!!お体は大丈夫なんですか!?』


『えぇまあ、お陰様で。それよりみんな来ておりますぞ。通しても良いでしょうか。』


『あ、はい!どうぞ皆さん入ってください。』


ジルクさんに案内されると村の生産者のクミアイの代表者たちが部屋に入ってきた。

その中にはベルム農家のアシュリーの親父さん、"ドルトさん"も入っている。


『私も領主様ならば、例え一夫多妻だったとしても、娘たちを平等に愛してくださると思います。娘が幸せなら私はそれで構わない。』


『ちょっとお父様!なに言って///』


もう!といった感じでアシュリーはまた顔を真っ赤にして黙りこんでしまった。


『まぁまぁ、冗談はこれくらいにして、ジルクさん、ドルトさん、村のみんなの様子はいかがですか?』


『はい、領主様。お陰さまで村の農産物の生産は順調、新しく始めたガッコウなる施設も順調に稼働しております。』


『領主様の新しく出された人事、万事すべてうまくいっております。ただ・・・。』


『ただ・・・なんでしょう?ドルトさん。』


『はい、シェイリー様。農産物は作っても、アズール村内での消費のみ、村の外は魔王の手のモノによって取り引きが出来ない状況で、村の収益にはほとんどなっておりません。それに、村の者たちもいつ来るかわからない魔王の攻撃を恐れる毎日で・・・。』



なるほど、やっぱりな。

俺だって、村民が困っている状況はちゃんと把握している。

しかし、誰も困っていることを俺のところに訴えに来ない。


なぜなら、唯一"アズール村を守る力を持った俺を他所に送り出して死なせたくない"からだ。


でもそれでは根本的な問題の解決にはならない。

やはり、この状況を終わらせるには魔王とその配下たちを討伐するしか道はないんだ。


だから、俺は"民衆を導くための精神的誘導作戦"を考えた。


『そのことなら、大丈夫ですよ!な、アシュリー?』


『ハッ!たった今、修也殿・・・いや、ご領主より防衛軍創設のご命令の為、軍隊長に拝命されました。付きましては、すぐに募集や声かけなどをして人を集め、このアズールを守る守り神として屈強なる軍隊を構成するつもりです。お父様・・・ぜひ、お許しください。』


『防衛軍・・・戦争の為の軍ではなく、アズールを守る為の軍か。アシュリー・・・。』


『はい、お父様。』


『領主様のご期待に応えたいのだろう?ならば、やりなさいな。一度助けてもらったその命、想い人の為に燃やしなさいっ!!』


『んきゅー・・・///ヒャイ!頑張りまひゅう~。』


きっとこいつの心臓はもたないな。

キュン死というやつをしそうだw


『修也様、作戦、上手くいきそうですねっ。』


シェイリーは俺に小さく耳打ちすると、この場を取り仕切る為、みんなを席に案内する。



そう、俺達がいるこの部屋は大広間になっているのだ。


俺の席が1番窓側にあり、上座になっていて、両サイドに5人ずつ、計11人が座れる大きなテーブルが部屋の真ん中にドドーンと置いてあるのだ。


『皆さん、本日が初会議です。ご自分の役職と名前が書かれているお席にお付きください。・・・それでは改めまして、今回進行役を務めさせて頂きますシェイリー=ハイヤードです。領主様の命により、首席補佐官としてお勤めさせて頂きます。では、アシュリーさんから順に役職名と簡単な自己紹介をお願いいたします。』


シェイリーはそう言ってアシュリーに番を回すと、緊張が少しほぐれたかのように席に着いた。


続いて、緊張した様子のアシュリーが立ち上がり、自己紹介を始める。


『た、たった今では有りますがアズールの防衛軍、軍隊長を拝命されたアシュリー=エインゼルです。まだ軍はありませんが、アズールの民を魔王軍から守り抜く、立派な軍神となれるよう、誠心誠意尽くさせて頂きます!』


アシュリーが席に着き、すぐにオリーブが立ち上がる。


『では、次は私ですね。私はオリーブ=ジュノーと申します。先日より領主様の創設された"ガッコウ"で教師という者をしております。肩書きは"文化教育大臣"という大役を頂いて、ガッコウでは読み書きなどの基本教育はもちろん、魔法の基礎を教え込み未来の魔法士たちを育てています。』


『ありがとう、オリーブ。シイナ、自己紹介出来るか?』


オリーブが席に着き、シイナにそう促すと、


『うーん、私、役職ってよくわかんないけど、オリーブお姉ちゃんのガッコウでお野菜の作り方をみんなに教えてますっ!シイナだってまだ子供だから、どちらかっていうとみんなと一緒にお勉強してるって感じだけど・・・///へへへ。』


『ありがとう、シイナ。シイナにはガッコウに何かがあった際に、オリーブと協力して『聖獣化』の力でみんなを守ってもらう意味もあるからな。よろしく頼むよ。』


シイナは『はいっ!』と元気よく返事をするとキラキラな笑顔でこの場の空気を和らげてくれる。


『ならば、次は私ですな。ジルク=ハイヤードだ。このアズールの元村長じゃが、みなそのことはもう忘れてくれ。今はそこにおるオリーブとガッコウの経営をして、コウチョウという者をしておる。魔法教育大臣を拝命され、子供たちに魔法の使い方を教えておるんじゃ。』


『3大魔法士のひとり、ジルクさんに小さいうちから魔法を教えてもらえれば、きっと上達が早いと思うんです。強い魔法士をたくさん産み出して、より防衛力の高い国を作る。よろしくお願いいたします、ジルクさん。』


ジルクさんには頑張って貰わなければいけない。

もう魔法は決して使えないかも知れないが、偉大な魔法士の指導は必ずこの国に明るい未来をもたらす。


『続いてドルトさん、お願いします。』


『はい。私はそこにいるアシュリーと妻と3人でアズール村特産のベルムの農家をしております。たまたま1番広く農地をもった農家でしたので、ベルムをはじめ、全ての農家のクミアイを設立、そのクミアイ長というお立場を頂いてます。生産から取り引き、販売までを今まで以上に圧倒的に効率的に行うことが可能になりました。向かいの席に座るのはクミアイの幹部をしてくれる、オルドさんとミレーナさんです。』


『『よろしくお願いいたします。』』


紹介されたふたりが挨拶をする。




『皆さん、ありがとうございます。皆さんが新しいアズール村の各分野のリーダーになります。そしてこれから、領主様より、まだ村の人たちには話していない重要な発表をされます。修也様、お願いいたします。』


『わかった。シェイリー、よく頑張ったな。上手に進行役出来てたじゃないか。』


こういうの、あんまり得意じゃないだろうに。

本当にシェイリーはよくやってくれている。



『皆さん、自己紹介ありがとうございました。これで、俺がアズール村に居なくてもなんとかなりますね!!』



『『『『『!!!!!!?????』』』』


みんな、とても驚いた顔をしている。

とたんに、アシュリーやオリーブ、他のみんなも不安げな顔だ。


シェイリーだけが落ち着いている。


『あ、違うんです皆さん!修也様は"水の都リーテ"に行き、うちの領土にしたいとお考えでいらっしゃるんです。その間、村を任せるものたちを作りたかったんですよ。』


『リーテを!?まさか私欲の為にリーテを制圧するおつもりですか!?』


ドルトさんは立ち上がり抗議の怒声をあげる。


『ちょっと待ってください!決してご領主はそのような方ではありませんっ!なにか訳があるのでしょう。そうでしょう修也殿!?』


『もちろんです、アシュリーさん。ドルトさん、皆さんも落ち着いてください!』


『シェイリー、ありがとう。すまない、俺の口数が少なかったな。』


俺は静かに立ち上がると、別室に待機してもらっていた人物を呼びに行く。



そこに居たのは、バイロンによって町の殆どの人間を魔獣化された"水の都リーテ"の若きリーダー、クロノスだった。


『クロノスじゃないか!ダンテさんはどうした?一緒じゃないのか!?まさかっ!?』



ジルクさんはクロノスをしっているらしい。

それもそのはずだ。

クロノスは"水の都リーテの町長、ダンテさんの息子だった。


『ジルク様、お久しぶりでございます。・・・お察しの通り父は・・・父はバイロンに殺されてしまいました。』


うなだれたクロノスの言葉を聞いた瞬間、いつも穏やかなジルクさんの表情が一変し、見たことのない怒りの感情を剥き出しにする。


『そうか・・・ダンテさんまでもが・・・』




ブチィッ・・・




『おのれェェバイロンめ!!!我が村の民だけでなく美しきリーテまでもォォ!!私に力が有ればすぐさま息の根を止めてやるものをォォォォォォ!!!!!』


『お爺ちゃんっ!?』

『ジルク様っ!!』


『老いていても、魔力を失っても、私はエイトフィールド国王に仕える三大魔法士がひとり、ジルク=ハイヤード・・・この国の痛みは・・・悲しみは・・・私の苦しみだ!!』



『ジルク様・・・そんなにも我が町を、父を想っていてくださるとは・・・父に代わって感謝致します。・・・なっ、なにより!!父、ダンテ亡き後、私が民衆を率いて応戦したのですが、若い私の力では民衆をまとめることかなわず、ついには修也様にまでご迷惑をかけることになるとは・・・ジルク様、本っとうに申し訳ありませんっ!!!』


クロノスは深々と頭を下げ・・・いや、そのまま頭を下げ続けた。

ジルクさんに向ける顔がないのだろう。


『頭を上げんかバカものがっ!!お前の顔は完全に敗北者の顔をしておるっ!!お前はなにしにここに来たっ!!?ただ、領主様に助けを求めに来ただけかっ!!!!』


『じ、ジルクさん、落ち着いてください、クロノスだって考えがあって来たんです。な、クロノス?』


『俺だって・・・俺だって、己の力でこの町のみんなを守りたい・・・魔獣化したみんなを元の生活に戻してやりたい。俺は、誰よりもリーテの町を愛した町長の息子・・・もちろん、俺も父と同様、このリーテを愛している。ジルク様、いくらジルク様でも今の言葉は取り消して頂きたぁいっっ!!!』


『『『!!!!!!』』』


『こらっ!ジルク様に向かってなんと無礼な!!』


あーあ、クロノスまで興奮してしまったよ。

でも、よく言った。嫌いじゃねーよ、お前。



お前の目はまだ死んじゃいない。



助けてやりたいじゃないか。

この若きリーダーの足掻きを、苦しみを。



『と、言うことはリーテの町を救いに行くのですね、ご領主?』


『そうだアシュリー。ただし、リーテに向かうのは俺とシェイリー・・・そして、シイナ!お前だ。』


『あわわっ!私ですかっ!?』


シイナはイスをひっくり返して驚いている。

まさか自分が選ばれるとは思わなかったようだ。


『なぜまだ幼いシイナを!?なぜ、私を連れていってはくれないのですかっ!!私はあなたがたった今この村を守る為に任命してくださった軍隊長ですよっ!!?』


『そうです修也様、ぜひ我が娘アシュリーを連れていってください!きっと戦力にたつはずです!!』


『それにたった三人でなんて、いくらなんでも・・・私も行きます!!』


アシュリーならそう言うと思ってた。

オリーブの心配ももっともだ。



だけど、それじゃいけない。



『俺はこのアズールの領主だ!!リーテを救う為に、アズールを空にして危険に晒すわけにはいけない。・・・わかるな、アシュリー、オリーブ。自分たちに与えられた使命をお前たちにはまっとうしてほしい。それに・・・シイナはまだ幼いが、聖獣化すれば戦力になる。みんなわかってほしいんだけど、全てはアズールとリーテ、どちらも救う為の俺の判断なんだ!!!』



━━ 一瞬、みんなが静まり返った。

でも、その場にいた全員の目に力が入ったのが俺にはわかった。


『軍隊長アシュリー!ご領主のご命令とあらば、命にかえてもアズールの民をお守り致します!!』


『わたくしも、修也様が無事でお戻りになるまで、ご命令を全う致します!!』



『領主様、留守の間はこの老いぼれにお任せくだされ。アシュリーとオリーブ、それにドルトさんたちと必ずや守り抜いてみせますぞ。・・・その変わり、そこの青二才とリーテを私から呉々もお願いいたします。』


ジルクさんはまわりの目を気にせず、深々と頭を下げてくれている。

やはり、このジルクという男はエイトフィールド国の誇り高き戦士なんだ。


『ジルクさん、お願いいたします。』


『領主様の初めてのご命令、このジルク、しかと承知致しました。』


『シイナ、お役に立てるんだね!修也様とみんなの為になれるなら、シイナなんだってやるよっ!!』


シイナはイスから降りて俺の隣に駆け寄る。

その顔に緊張はあるものの、自分が頼られているという高揚感に満ち溢れていた。


『すまない、シイナ。よろしく頼むな!』


『ご領主様のご命令、シイナがドーンと承りましたっ!!』


シイナが胸をたたく素振りをして見せると、心配していたみんなの顔が少し和らいだ。


『アズールの領主様!ジルク様・・・それに皆さんも・・・我が町リーテの為に、かたじけない。それに、シェイリー様!俺の願いを聞き入れてくださって、本当にありがとうございました!!!』


『私はエイトフィールド国の三大魔法士でもあります。困っている国民の方を見過ごすわけにはいきません。私では戦力にはならないかもしれませんが、きっと修也様ならばリーテの方たちを救うことが出来ますっ!!クロノスさん、共に戦いましょう!!』




こうして、俺たちは"水の都リーテ"を救出するというミッションに取りかかる準備を始めた。



俺の"民衆を導くための精神的誘導作戦"


それは、民衆の代表者を決め、それぞれに大事な役割を与えることによって、民衆自らが自分たちの為に動くこと。




『話術の勇者』らしい、俺の作戦は見事にはまっているようだ。




















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