Ⅺ
「私、日曜礼拝にご一緒するのは初めてですけど」
ロザリアは、隣の皇女ミアリスへ話し掛ける。
「やはり皇帝陛下ご臨席ですと、緊張しますわね」
「こら、その陛下へ、これからご挨拶するのよ。私語は慎みなさい」
礼拝が済んで今は、アルフェン大司教をはじめとする高位聖職者達が、改めて皇帝へ挨拶しているところ。
聖職者の特権も容赦無く剥ぎ取ろうと望む現皇帝アルフォンスと、彼等は政敵同士ではあるが、この場では友好的な態度を崩さず、儀礼的に対話を切り上げる。
この後、皇族、貴族の順に皇帝へ挨拶し、彼の退席後、ようやく散会となる流れだ。
「……
次はミアリスが兄皇帝へ挨拶する番。
近くにいたせいでロザリアも、皇帝のこぼした溜め息を聞いてしまう。
そう、この場には、いるべき帝国の貴顕が一人、いや二人足りない。先帝レオンハルトの皇妃フィオリナと、その子、2歳のユーシス皇子。
ともあれ、ミアリスが兄皇帝の前に立つ。ロザリアは伯爵家令嬢と言えど、この場では皇女の一侍女。
数段離れて
「……陛下、ご機嫌麗しゅう」
兄妹といえど、公式の場でお兄様などと呼んではならない。
「……ああ、お前も」
それだけ。兄妹の会話はそれだけで終わってしまった。
(あまり仲がおよろしくない、とは聞いてましたけど)
ロザリアは噂が事実であることを知った。
「家庭の事情に、口を挟まないで」
先日ミアリスにさりげなく聞いてみた時は、そう言われ、そっぽを向かれたりも。
特段複雑な事情ではない。二人は腹違いの兄妹なのだ。
アルフォンス皇帝が4歳の時に母后妃は亡くなり、ミアリスは再婚相手との娘。
それにしても。
「初めてお近くでご尊顔を拝見しましたけれど」
皇帝の御前を退がり、列の後ろへ下がったミアリスへ。
「やはり殿下のお兄様だけあって、見目麗しい方ですね♪」
耳元へ唇を寄せて囁いた。
「不謹慎よ、貴女。兄様は、アレストリアの皇帝陛下なんだからね」
そうたしなめつつ、さほど責める口調ではなかった。言われ慣れてるのかもしれない。
兄妹としては、あまり似ていなかった。二人とも母親似らしいが、異母兄妹だから。
それでもアルフォンス皇帝が美男子である事に、異議のある者はまずいるまい。
豊かに波打つプラチナの髪に、線の細い、優美な曲線を描く顔立ち。
「ちょっと冷たそうな印象ですけど、それも皇帝陛下の威厳という感じで、素敵ですわ」
「……ふん。そんなに兄様が気に入ったなら、兄様の侍女になれば?」
(ふふ、やきもちを妬く殿下も、可愛い)
そう、これを言わせたかっただけ。
「ご心配無く。私は、殿下一筋ですわ♪」
吐息と共に耳元へ囁けば、ミアリスの頬はみるみる真っ赤に。厳粛な大聖堂で大声で言い返す訳にもいかず、羞恥の顔のまま無言で睨み返すしか出来ないところが、また可愛らしい。
別にロザリアは男嫌いではないが。やっぱり、天使のような美少女は何にも優る至高の存在だと再確認した。
何より、少し暗い顔をしていた姫君がいつもの調子に戻っただけで、ロザリア大勝利と誇ろう。
と、大聖堂礼拝ホールの扉が開かれ、
「あら、もうお祈りは終わってしまったのね。夕べは遅くまで舞踏会でしたから、部屋で休んでいたのだけれど」
大勢の供を引き連れ、豪奢な美女が現れる。先帝レオンハルトの皇后、フィオリナ妃殿下。人呼んで……「赤字夫人」。
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