「……天にまします我らが神よ、汝の子羊たるアレストリアの子らを、憐れみたまえ」


 日曜、安息日。アルフェン大聖堂の厳粛なる空間に、司教の祈りが重々しく響き渡る。

 高い天井の薔薇窓の上、ステンドグラスから差す神聖な光の中に、第三皇女ミアリスと、その侍女ロザリアの主従もいた。

 古くから続く皇室の行事、日曜礼拝。

 社交界へのデビューもまだのミアリス姫にとって唯一、公式に皇家の一員として参加する定例行事だ。


(あの方が、殿下のお兄様。アレストリアの皇帝陛下……)


 主の隣で祈りを捧げながらロザリアはちらりと片目を開けて、最前列、大司教のすぐ前にひざまづく青年を盗み見る。


 神聖アレストリア帝国第十六代皇帝、アルフォンス。

 彼の他にもこの広い礼拝堂に集っているのは、皇族と、ごく近くに仕える近臣-ロザリアのような-人々ばかりである。


 ここアルフェン大聖堂は、建築開始から実に200年以上の月日を経ながら未だに未完成という、途方もない規模の建物である。当時の人類社会において、周囲の庭園を含めれば最大の面積を誇る白薔薇宮に対し、その天を衝く尖塔群は、最高の高さを誇っていた。

 しかも、一番高い部分は建設中。完成まで更に数十年を要するのは、歴史の知る通りである。


 流石にここまでの規模ではないが、白薔薇宮の中にも立派な礼拝堂がある。なぜそこを使わず、毎週日曜は大聖堂に来るのか。ロザリアは昨日、素朴な疑問をミアリスへぶつけてみた。その回答は、

「帝国皇帝は、教会の第一の騎士よ。仕える君主の元へこちらから出向くのは、当然でしょう?」

 とのこと。


 つまり、少なくとも建前としては、教会が上の立場ということを表す。

 初代の「騎士皇帝」が誓いを立てた、アレストリアの君主は教会の剣、民衆の盾となるとの精神は、こうした行事を通して脈々と受け継がれている。


 ……さて、長い礼拝が終わった。

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