「……追い出されて、しまいました」


 皇女の寝室の隣、すぐに廊下ではなく、小さな控えの部屋で。


 ロザリアは寝間着ねまき姿のまま、絨毯じゅうたんに座り込む。

 壁に寄り掛かり、これだけは持ってきた枕を抱き締める。


「少し、大胆過ぎたかしら?」


 ベッドに忍び込むのは、我ながら攻め過ぎだったかも。

 でも、


「ふふ、びっくりする殿下も、とっても可愛いですわ」


 思い出して、ついくすくすと、笑みが零れる。


 まだ、姫君との距離は掴めない。でも心は確かに近付けてる。

 そう信じている。


「……ええ。やっぱり私には、このやり方しかないわ」


 臆病に、繊細に、互いに傷付かないよう、そっと手を伸ばすより。

 体当たりで良い。素直な心で、ありのままの私でぶつかりたい。


(そうよ、これが東部流。いいえ、帝国流なのだから)


 やってることは、殿下に抱き着いてみたり、ベッドに潜り込んでみたりだけど。


 主となる人と、もっと仲良くなりたい、触れ合いたいと願う想いに、偽りは無く。


 ああ、だからその行為には、帝国貴族の矜持きょうじ、高潔な魂すら宿るだろう。


「……ええ、間違ってない」


 そう信じよう。


(殿下、貴女の笑顔を見るまでは)


 勇気を出してぶつかっていくと。

 森の薔薇園で出会ったあの日、誓ったから。


(貴女の心に、私は住んでますか?)


 仕えることになった理由は、父伯爵の命令、貴族達の要請に応えただけ。

 けれど、出逢いは偶然でも、共に歩んだ道は運命に出来るから。


 そんな関係を、築きたいと思った。


「ふふ、覚悟して下さいね♪」


 もっと、ぶつかっていくんだから。

 愛しの皇女を思い浮かべながら、ロザリアは眠気に負け、そのまま床で寝てしまった。


 ※ ※ ※


「なんて所で寝てるのよ、もう」


 ややあって。ミアリスが扉を開けてみれば、控えの間で絨毯の上、安らかな寝息を立てるロザリアの姿。


 聞き耳を立てたりしてないだろうかと、確認してみればこのありさま。


 またベッドへ誘ってあげなくもないのだけど。非力なミアリスには、運べなそう。


 仕方無く、自分の毛布を掛けてあげる。


「ふふ、殿下の匂い♪」


「……ばか」


 幸せそうな寝言に、照れながら応えた。

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