Ⅸ
「……追い出されて、しまいました」
皇女の寝室の隣、すぐに廊下ではなく、小さな控えの部屋で。
ロザリアは
壁に寄り掛かり、これだけは持ってきた枕を抱き締める。
「少し、大胆過ぎたかしら?」
ベッドに忍び込むのは、我ながら攻め過ぎだったかも。
でも、
「ふふ、びっくりする殿下も、とっても可愛いですわ」
思い出して、ついくすくすと、笑みが零れる。
まだ、姫君との距離は掴めない。でも心は確かに近付けてる。
そう信じている。
「……ええ。やっぱり私には、このやり方しかないわ」
臆病に、繊細に、互いに傷付かないよう、そっと手を伸ばすより。
体当たりで良い。素直な心で、ありのままの私でぶつかりたい。
(そうよ、これが東部流。いいえ、帝国流なのだから)
やってることは、殿下に抱き着いてみたり、ベッドに潜り込んでみたりだけど。
主となる人と、もっと仲良くなりたい、触れ合いたいと願う想いに、偽りは無く。
ああ、だからその行為には、帝国貴族の
「……ええ、間違ってない」
そう信じよう。
(殿下、貴女の笑顔を見るまでは)
勇気を出してぶつかっていくと。
森の薔薇園で出会ったあの日、誓ったから。
(貴女の心に、私は住んでますか?)
仕えることになった理由は、父伯爵の命令、貴族達の要請に応えただけ。
けれど、出逢いは偶然でも、共に歩んだ道は運命に出来るから。
そんな関係を、築きたいと思った。
「ふふ、覚悟して下さいね♪」
もっと、ぶつかっていくんだから。
愛しの皇女を思い浮かべながら、ロザリアは眠気に負け、そのまま床で寝てしまった。
※ ※ ※
「なんて所で寝てるのよ、もう」
ややあって。ミアリスが扉を開けてみれば、控えの間で絨毯の上、安らかな寝息を立てるロザリアの姿。
聞き耳を立てたりしてないだろうかと、確認してみればこのありさま。
またベッドへ誘ってあげなくもないのだけど。非力なミアリスには、運べなそう。
仕方無く、自分の毛布を掛けてあげる。
「ふふ、殿下の匂い♪」
「……ばか」
幸せそうな寝言に、照れながら応えた。
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