春の木漏れ日降り注ぐ、薔薇園の東屋あずまや

 白いテーブルの上には、高貴な香りのストレートティーと、クリームたっぷりの苺のショートケーキが乗っていて。


「さあ殿下、あーんして下さいな」


「ばか、ケーキくらい、自分で食べられるわよ」


「だめ、私が食べさせて差し上げたいんです♪」


 仕方なく、口を開けてあげる。


 口に広がるふわふわのクリームは、しつこくない甘さがほど良くて、つい頬が緩んでしまう美味しさだ。


「ふふ、美味しいですか?」


「ま、まあ、悪くはないわ」


 そんな強がりも、きっと見透かされてる。

 柔和な笑顔で、ロザリアは何のてらいもなく言う。


「お気に召したら、嬉しいですわ。愛情を、たっぷり込めましたもの」


「……あ」


 そんな戯言ざれごと不潔よと、言葉を返そうとしたのに。

 代わりにぽろりと涙が頬を伝った。


「で、殿下!?」


 ロザリアも驚いているが、ミアリスはそれ以上に戸惑っていた。


(な、何で……?)


 こんなに胸が熱いのは何故。

 濡れる目元をごしごしと拭きながら、ミアリスは思い出す。


(そうだ、この味。母様みたいなんだ)


 忘れていた、いえ、忘れようとしていた。

 無私の愛情が込められた味。こんなの、いつぶりだったろう。


 「娼婦の娘」と貴族達には蔑まれ、第三皇女ゆえに平民出身の人々も踏み込んでこない。


 そんな心の扉が、こじ開けられてしまう。


(やめて、私なんか、ほんとに何も無いのだから)


 心が裸にされる。

 さらけ出されてしまう。


「殿下、大丈夫ですか?」


「か、勘違いしないでよね。これは風で眼にごみが入っただけなんだから!」


 ……ああ、きっとこの強がりも見透かされてる。


 ほら、その証拠にロザリアは。


「ふふ、ではそういうことにしておきますね」


 優しく笑って。


「ほら、殿下。ほっぺにクリーム付いてますわ」


 ……ちゅっ。頬に甘い接吻くちづけ。クリームを舐め取られても。

  不思議とミアリスは、拒絶しようと思わなかった。

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