「ふふ、いかがですか、殿下?」


 勉強や習い事を終えて自室へ戻ってみれば。

 完璧に清掃され、空気まできらきら輝くよう。


「……ま、まあ、やるじゃない」


「ええ、どういたしまして」


 にこっと微笑むロザリア。

 素直になれないミアリスも、認めない訳にはいかなかった。


 単に掃除をしただけではない。

 雑然としていた小物は整理され、カーテンも春風に似合う明るい色へ模様替え。

 どこから用意したのか、花瓶に差した品の良い薔薇ばらも、昨日までは無かったものだ。


「せっかく、これから殿下とご一緒の日々を過ごすのですもの。二人の愛の巣に相応ふさわしい部屋にしたくて♪」


 両手で頬を押さえ身体をくねらせるロザリアへ、


「ばかっ、愛の巣だなんて……」


 不潔よ。そう抗議しようとして、気が付く。


「クローゼットだけ、乱れてるけど?」


「はい、これから殿下の身辺をお世話するのですもの」


 花のほころぶような笑顔で。


「殿下の下着の好みは、把握しておかねばと思いまして。枚数から、色に素材に触り心地まで、ぜんぶチェックしてましたの♪」


「な、何してくれてるのよ!?」


 思わず絶叫。ロザリアは意にも介さず。


「この、黒いレースのパンツ。殿下ったら、こんな大人っぽいのも穿かれるのですね。でも私は、こちらの純白でふりふりの方が、可愛くて殿下にぴったりと思いますわ♪」


 ……こんな綺麗な女の人が、自分のパンツを持って楽しそうにしてる。

 受け入れがたい現実に、ミアリスは叫ぶしかなかった。


「で、出てけ、変態!?」


 ※ ※ ※


 ……黙ってれば、すごく美人なのに。

 日を追うごとにミアリスは、この専属侍女へ対するその思いを強くする。


 そう、黙ってさえいれば、ロザリアは文句無しに優秀で、誰もが憧れるような女の子だった。


 伯爵家という、けして低くない家格の貴族出身なのに。

 皇女の周りだけでなく、他の平民出の侍女達を手伝い、宮殿中の掃除と洗濯も。

 宮廷お抱えの庭師に混じり、薔薇咲き乱れる庭園をお世話。

 かと思えば年配の女官達、料理人らと共に宮廷人の食事の用意まで。

 勿論、専属侍女としての秘書などの仕事もこなしながらである。


 気さくで働き者な伯爵令嬢、皇女の専任侍女は、わずか数日で、白薔薇宮の人気者になっていた。


「……なによ、ほんとは、あんな変態なのに」


 第三皇女という肩書の他、何の取り柄も価値も無い自分と違って。

 きらきら輝いて見えるその存在は、ミアリスをひどくみじめな気持ちにさせた。

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