Ⅴ
「ふふ、いかがですか、殿下?」
勉強や習い事を終えて自室へ戻ってみれば。
完璧に清掃され、空気まできらきら輝くよう。
「……ま、まあ、やるじゃない」
「ええ、どういたしまして」
にこっと微笑むロザリア。
素直になれないミアリスも、認めない訳にはいかなかった。
単に掃除をしただけではない。
雑然としていた小物は整理され、カーテンも春風に似合う明るい色へ模様替え。
どこから用意したのか、花瓶に差した品の良い
「せっかく、これから殿下とご一緒の日々を過ごすのですもの。二人の愛の巣に
両手で頬を押さえ身体をくねらせるロザリアへ、
「ばかっ、愛の巣だなんて……」
不潔よ。そう抗議しようとして、気が付く。
「クローゼットだけ、乱れてるけど?」
「はい、これから殿下の身辺をお世話するのですもの」
花の
「殿下の下着の好みは、把握しておかねばと思いまして。枚数から、色に素材に触り心地まで、ぜんぶチェックしてましたの♪」
「な、何してくれてるのよ!?」
思わず絶叫。ロザリアは意にも介さず。
「この、黒いレースのパンツ。殿下ったら、こんな大人っぽいのも穿かれるのですね。でも私は、こちらの純白でふりふりの方が、可愛くて殿下にぴったりと思いますわ♪」
……こんな綺麗な女の人が、自分のパンツを持って楽しそうにしてる。
受け入れがたい現実に、ミアリスは叫ぶしかなかった。
「で、出てけ、変態!?」
※ ※ ※
……黙ってれば、すごく美人なのに。
日を追うごとにミアリスは、この専属侍女へ対するその思いを強くする。
そう、黙ってさえいれば、ロザリアは文句無しに優秀で、誰もが憧れるような女の子だった。
伯爵家という、けして低くない家格の貴族出身なのに。
皇女の周りだけでなく、他の平民出の侍女達を手伝い、宮殿中の掃除と洗濯も。
宮廷お抱えの庭師に混じり、薔薇咲き乱れる庭園をお世話。
かと思えば年配の女官達、料理人らと共に宮廷人の食事の用意まで。
勿論、専属侍女としての秘書などの仕事もこなしながらである。
気さくで働き者な伯爵令嬢、皇女の専任侍女は、わずか数日で、白薔薇宮の人気者になっていた。
「……なによ、ほんとは、あんな変態なのに」
第三皇女という肩書の他、何の取り柄も価値も無い自分と違って。
きらきら輝いて見えるその存在は、ミアリスをひどくみじめな気持ちにさせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます