Ⅳ
新しい朝。新しい日々が始まる。
翌日、第三皇女の私室にて。
朝には牢を出されたロザリアは、湯浴みを済ませ、清潔な侍女服に袖を通して、再びミアリス姫の前に立っていた。
「……あの、殿下? 何だか、すごく遠いですわ」
名高い白薔薇宮の、まして皇族の部屋。
ちょっとはしたない腕組み姿で椅子に座る姫とは、少し走らないと側に寄れない距離。
「……いいから、半径50リュー(帝国で使われる長さの単位の一つ。大人二人が両手を広げた程度)以内に入らないでよね、この変態」
……少し傷付く。
それでも。今まで、秘めた嗜好を知られる度に周囲から向けられた、あの視線とは違って。
(多分、勝手にキスしようとしたのを怒ってらっしゃるだけ)
そう安堵できた。
「あの、昨日の事は謝りますね。だけど……」
指を組んで。あの甘美な出逢いを思い出し、陶酔しながら。
「殿下みたいな可愛い方、初めて会ったのです。そしたら、身体が止まらなくなって」
「ば、ばかっ。何を言ってるの? 私なんかが、その」
可愛いはずない。そう本気で思っている様子に。
……む。少しだけ、かちんと来た。可愛いものは、可愛いのだ。つい、真顔で。
「いいえ、殿下は可愛いです。すごく、すっごく、見ててどきどきしますの」
みるみる内に、茹でたように赤くなるミアリス姫。
「そ、そんなこと言わないでよ。不潔よ!」
あ、この反応すごく好み。
きゅんとなる胸に支配され、思わず皇女に歩み寄り、頭を撫で撫で。
「こら、近寄るなって言ったじゃない!?」
「貴女がどう思おうと、事実は変わりません。……殿下は、可愛いです」
もし。もしもだけど。この天使のような女の子が、本気で、自分を可愛いと思ってないなら。
……自分を、好きでないなら。
私が幾度でも伝えよう。貴女の、宝石のような輝きを。貴女自身へ。
(……どうしましょう。襲いたくなってきてしまいました)
羞恥の余り、涙目になっている皇女殿下に触れていると。
ああ、もっと触りたい。その柔らかそうな肢体のあちこちへ、キスしてしまいたい。
そんな、いけない想いが……。
「……いつまで撫でてるのよ」
「ひゃわぁっ!?」
子供扱いしないで、と言いたげな眼に、急に我に返って、自分の物と思えないような奇声を発してしまった。
「さ、さて。お仕事しないといけませんよね。お掃除、そう、お掃除から始めますわ!」
「ちゃんとやりなさいよね。だめな働きぶりだったら、故郷へ帰してやるんだから!」
照れ隠しに言うその台詞は。童話の意地悪な
この姫君を、喜ばせてあげたいと思った。
「……ふふ」
自分に出来る最高の笑顔で。ウインクして。
「もちろんですわ。私をお呼びしたこと、後悔なんて、させませんから♪」
そして、伯爵家の才媛にして敏腕メイド、ロザリアの活躍が始まった。
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