幕間 帝国の成り立ち

 神聖アレストリア帝国。

 この国の成り立ちは、およそ千年前にさかのぼる。


 現在の帝国領東部に広がる、小スマウラ山脈に割拠した、山間の小王国がその始まり。

 長い中世期には幾人か著名な人物を輩出するも、歴史の大きな流れに関わるでもなく、ありふれた、素朴で平和な一王国として数百年の時を過ごしていた。


 その国が帝国の名を冠したのは、聖暦1400年台、中世末期の六十年戦争の時代からである。

 中世も末期には、大陸を支配していた教会の権威も弱まり、各地の諸侯が領土拡大のため争う、群雄割拠の相を呈していた。


 その戦乱の最中にあって、教会を守護する騎士として多大な尽力をなしたのが、後の初代皇帝「騎士皇帝」シグルド王である。

 この若きアレストリア王の功績を讃えるため、教会より授けられたのが、遥か古代の諸王の王の称号、皇帝の位である。


 こうしてこの小さな国は、帝国という、大陸で唯一の国号を用いることとなる。


 とはいえ当時はあくまで名誉の称号であり、大陸全土を支配した古代の皇帝とは並ぶべくもない、実態は非力な小領主でしかなかった。


 それが、稀代の英雄の誕生で一変する。

 第三代皇帝「大帝」ワグナー。


 強大な指導力と合理的思考で、近代国家を創り上げ、中世の闇を打ち払った大英雄。

 他国の歴史書では「征服帝」と記される彼は、常備軍の編成、鉄砲の大量導入、及びそれらを可能とする貨幣経済への転換などを成し遂げ、騎士の時代を終わらせて、アレストリアを帝国の名に相応しい大国へと変貌させる。


 この偉大なる皇帝は最期戦場に斃れるが、後継者たちは平和路線に転換し国をよく治め、ここから帝国の輝かしい歴史が始まった。


 それから、約三百年の月日が流れていた。

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