第九幕
「親父、もう大丈夫になったのか?」
「まあなんとかな。いつまでも店閉じとくわけにはいかないしな」
「誰も待ってねーよ。この店のことなんて」
「言ってくれるじゃねーか。しかしお前も暇だな。こんな明るい時間に」
「ああ、そうだ。親父に用事があって来たんだった」
と言い、ポケットの中から一枚のコインを取り出した。
「なんだそれ?おぉ、懐かしい。1クワチャじゃねえか。それどうしたんだ?」
「さすが、親父。そして俺。マラウイ って書いてあったから何か知ってるかな?って思ったんだ。これさ、美少女が交番に届けに来たんだよ」
「美少女?なんだそりゃ。それより交番に届けに来たものをお前が勝手に持ち出して良いのかよ」
「ん、あ〜…。まあ良くはないけど、特別っていうか…。ま、とにかく、これよく見てくれよ。ほらこの傷」
「傷?」
最近老眼になってきた山本は顔から遠ざけてコインを見る。
「アルファベットのYみたいな傷があるだろう?これって、人為的だよな?」
「そうだなあ、そう見える」
「そもそもマラウイの硬貨が近所に落ちていただけで珍しいのに、それに何かしら人為的なマークが付けられてるって、なんか奇妙じゃないか?奇妙っていうか、何か意味があるんじゃないか?っていうか」
「まあ、そうだな。日本でマラウイと関係のある人間なんて、大していないし、ましてやここいらで関係しているっていやあ、俺か…、まあ三枝木くらいか」
「さえき?ん?さえき…。なんだっけ?わかんねーな、まあいいや。さえきって誰?」
「ん?言ってなかったか?俺がマラウイで医者やってたときにユニセフからの職員で働いてた三枝木ってやつがいてさ。随分若かったけど、大したやつだったんだよ。地元のやつらとも仲良くしてたし、子ども達にも人気あったしな」
「ん〜、でもこれはYだからなあ。さえきさんとは関係ないかあ。ってか親父、俺ら山本じゃねえか。山本のY。ほら、親父が金に名前書いたとかじゃねえの?」
「馬鹿か。金に名前なんて書いてどうすんだよ」
「まあそうだよな〜。う〜ん。ま、いいや。いずれにしろ、俺が持っててもなんの価値もないし、拾得物表記入するの忘れちゃったやつだし…」
「おい、おまえ。忘れちゃったって、それ問題だろ。まったくどうしょもねえな。親の顔が見たいわ」
「しょうもな…。ともかく、俺が持っててもしょうがないから、親父預かっててくれよ」
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