第五幕

わたしは悪くないのに!


掃除の時間、けいごくんがホウキを振り回していたから注意をした。そしたらけいごくんが「うるせーな!」って言ってホウキを振りかぶった。そしたらロッカーの上に飾っていたみんなの図工の作品に当たって、落ちて、バラバラに壊れてしまった。


「どうしたんですか?」

みんなが騒いだから、山本先生が教室に入ってきて聞いた。そしたら、けいごくんは「さえきさんがやりました」って。ゆかちゃんだって、他の友達だって、全部見てたはずなのに、誰も本当のことを言ってくれない。わたしは驚きすぎて何も言えなくって、山本先生が「三枝木さんがやったんですか?」って聞いてきたけど、何も答えられなくて…。

「黙っていてはわかりませんよ?それじゃあ三枝木さん、放課後先生と一緒に元に戻しましょう。はい、みなさん、掃除の続きをしてください」

あまりに悲しくて、泣いてしまった…。


何も言わず図工の作品を元に戻している私に、「もしあなたがやったのなら、素直に謝った方がすっきりしますよ?明日、先生と一緒にみんなに謝りましょう?」と一緒に片付けている山本先生は言った。

わたしは悪くないんです。って言えたらどんなに良いだろう?

でも、山本先生は信じてくれるだろうか?嘘つきだと思われないだろうか?


結局何も言えず、うつむいたまま学校をあとにした。

まっすぐ家に帰りたくなくて、ちょっとだけ寄り道をした。いつもなら友達と楽しく遊んでいる公園だが、今日はなんだかとても静かで心を落ち着かせてくれる場所な気がした。

公園の真ん中に、ぞうの遊具が見える。

ブランコに乗ったら少しはすっきりするかなあと、ぞうとは反対側へ視線を向ける。大人の女の人がブランコに乗っているのが見えた。


女の人は、ブランコを漕ぎながら空を見ていた。

女の人は、泣いている気がした。


迷ったけど、少し近づいてみた。そしたら女の人が前を向き、目と目が合った。

女の人は足を着き、ブランコの勢いを止めた。ブランコから降りて、こっちへ近づいて来る。

女の人は、肌が黒っぽかった。焦げ茶色で、隣のクラスのメアリーちゃんと同じ感じだった。


「こんにちは」

女の人が声をかけてきた。

「こんにちは」

小さな声で答えた。

「私はマラウイからきたマワです。あなたにお願いがあります」

「あ…、わ、わたしはさえきあすかです」

「さえきあすかさん。私のお願い聞いてください」

知らない人と話すのは怖かったけど、この人、マワさんは、とても一生懸命に、勇気を出して、何か大事なことを伝えようとしているように見えた。

けいごくんや、ゆかちゃん、山本先生のことをちょっと思い出した。

「わたしにできることなら…、やります」



コインを手渡された。不思議なコインだ。日本のお金とは違う。片方には鳥が描いてあって、片方にはライオンが2頭描かれている。

このコインがなんなのかは良くわからないけれど、マワさんに頼まれたように交番へと向かった。

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