第三幕

「これ、落ちてたの」

小学2年生くらいだろうか。ランドセルを背負った女の子が、落とし物を届けにきた。


「届けに来てくれたんだね。どうもありがとう」

子どもは特別に好きなわけではないが、愛らしいとは思う。職業柄、怖がられないようにというのもあるけれど、優しく強いお巡りさんでありたいという気持ちもある。


「どこに落ちてたの?」

「ぞうさん公園の、滑り台の近くです」

「そうか、ぞうさん公園ね。そうだ、お嬢ちゃんお名前は?」

「あすか。さえきあすかです」

「あすかちゃん、学校から帰ってくる途中に、ぞうさん公園で拾ったんだね?」

緊張した面持ちであすかはうなずく。

「ほんとは、寄り道しちゃいけないの。…でも、ちょっとだけ公園に行ったら、これが落ちてたの」

なるほど、学校のルールでまっすぐ帰らないといけないところを、公園に寄り道してしまったんだな。

「そっか、じゃあ、公園に行ったことはお巡りさんとあすかちゃんの秘密にしよう」

あすかはほっとしたように笑顔になった。

「それじゃ、これはお巡りさんが預かっておくから、落とした人が見つかるといいね。あすかちゃんどうもありがとうございました」

しゃがんだままあすかちゃんに敬礼する。あすかちゃんはさようならとお辞儀をし、交番を出て行った。



さて、どうしたものか。預かったものは、コインのようなものだった。

一見おもちゃか何かかと思ったが、金属でできていて、持ち重りがする。

片面には鷲か鷹かわからないが猛禽類が獲物を捕まえようとしているような姿と、2012という数字。これは西暦だろうか?もう片面にはライオンのような動物が2頭、オスとメスに見える。その2頭が何か盾のような、トロフィーのようなものを掲げている。その上には植物のようなものが斜め上に伸び、間に鶏のような鳥が座っている。かなりかすれているが、unity and freedomと英語で記されている。

鳥の面にはONE KWACHAと書いてあり、ライオンの面にはMALAWIと書いてある。

そして、何か堅いもので引っ掻いて書いたように、『Y』と記されている。


初め読めなかったが、スマホで調べるとMALAWIというのはマラウイというアフリカの国の名前らしい。つまり、これはマラウイの硬貨ということだろうか。

いったい誰が、聞いたことあるけど場所はわからないくらいのマイナーな国の硬貨を持ち、しかもそれを公園に落としたのだろうか?



しばらく考えていたが、少しも良いアイデアは浮かばなかった。



そうこうするうちにパトロールの時間になり、すっかりコインのことを忘れてしまった。

そして、次の朝、当番交代時間の少し前に、母から電話がかかってきた。

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