悲しみ
ピッ
「まずまずだな」
梅子は一〇〇メートルを風となって駆け抜けた。
先生が、ストップウォッチでタイムを計っていた。
「先生! 走るの気持ちいいね!」
「そうだろう、梅子は走るのが好きか」
「うん! 大好き!」
「お前には才能がある、走るのを続けてくれ、先生との約束な」
「うん、約束するね」
先生と梅子は指切りをした。
その約束は守られることはなかった。
一年の冬、アキレス腱を切った。
ぶちん! と聞いたことのないような音がなった。
私の脚はあられもない姿になった。
「梅子! 梅子!」
脚を押さえている、私に先生が呼びかけていたのを朧氣ながら覚えている。
手術を終えて、歩けるようになったが、もとのように走ることは無理そうだった。
私は、前みたいな明るい性格の生徒ではなくなっていた。
ある放課後、夕暮れが学校の教室を染め上げていた。
一人、教室で座っていた。
窓の外、グラウンドで活動をする人々を見つめていた。
がらがらと教室のドアが開く。
私はそちらにじろりと目を向けた。
「梅子」
先生だった。
近づいてくる。
私は、立ち上がって鞄を持った。
「待ってくれ梅子」
その先生の言葉に「ごめん先生」
といって教室を後にした。
一人、帰り道を歩く。
そろそろ、二年生の夏が終わる。
受験勉強でもしよっかな、時間できたし。
「梅子」
振り向くと先生がいた。
肩を弾ませている。
走ってきたのだろう。
「先生しつこいよ」
私は先生に冷たくした。
もう、私に近づいてきて欲しくなかったから。
「ごめんな、梅子!」
先生は頭を下げた。
私は、言葉がでなかった。
「……なんで先生が謝るのよ……なにも悪いことしてないのに」
先生は頭を上げた。
「いや、先生の監督不足だ。俺がもっとしっかりしどうしていればお前の脚は……お前には才能があった、誰よりも」
下唇をかんだ。
「先生、私……走るのあきらめなきゃいけないの、悔しい、もっと走っていたかった!!」
大きな声でいった。
「ごめんな!」
先生も負けじと大きな声だった。
「もっと、沢山走れると思ってた! なんで私なの! なんで私の脚なの!」
先生はぼろぼろと泣いている。
「先生、約束守れなくてごめんなさい」
私も涙を流していた。
今は、スポーツのトレーナーになるため勉強をがんばっている。
私みたいな人間を増やさないために、みんなにもっとスポーツを楽しんでもらうために。
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