帽子

今日は、あの人と待ち合わせだった。


街中の雑踏。


人だらけの交差点。


駅前の大きな時計台の前で待ち合わせをしていた。


太陽が上に昇って、良い天気だった。空が青い。


あの人らしき人が、近づいて来るのが見えた。


白の大きなつば付帽子。


彼女のトレードマークといってもいいかもしれない。


目立つ帽子だった。


彼女を探す目印。


休みの日はランニングをするようにしていた。


早朝の誰もいない時間を走るのは気持ちが良かった。


いつも、同じ時間に白い帽子をかぶった、綺麗な女の人を見かけていた。


こんな時間に珍しいなと思った。


あ、今日もいる。


朝の散歩が日課だろうか。


知らず知らずのうちに目で追いかけるようになっていた。


なんて、清楚な人なんだろう。


透き通るような、そんな言葉が似合う人だと思っていた。


ある日、すれ違う時に少しだけ目が合った。


あの人は少し笑いかけてくれたように感じた。


僕は、彼女を少し行きすぎてから立ち止まって振り向いた。


白い帽子が遠ざかっていく。


唾を飲み込んだ。


来た道を戻った。


「あの」


「はい?」


あの日、勇気をだして話かけて良かったと思った。


それがきっかけで、彼女と話すようになった。


イメージ通りの素敵な人だった。


笑顔が可愛らしかった。


それで、今日、僕は彼女と初めてのデートをするのである。


始めての待ち合わせ。


緊張するなと思った。


目印に、お互いに帽子をかっぶてこようという話をした。


僕は、赤い帽子。


彼女は白い帽子。


オムライスの美味しい店にいって、


街を二人で歩いて、


彼女は久しぶりに街に行くと言っていた。


約束した日から楽しみにしていた。


今日なんて、朝の四時に起きて準備したくらいだ。


車が行き交う。


交差点の信号が赤から青に変わる。


人々が行き交う。


その中に僕の目印。


白い帽子の人が近づいてきた。


彼女と同じ帽子をかぶったババアだった。






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