ハンカチ

「これ、あげる」


彼女はそういって、白いハンカチをくれた。


この前、マラソンの授業の時に転んだ。


膝から血がでていた。


いてえ、と思って地べたに座っていると


彼女が声をかけた。


「大丈夫?」


「うん、大丈夫」


「血、でてるよ」


彼女はポケットからハンカチをとりだして、僕の血の出ている膝にハンカチを巻き付けた。


「ハンカチに血がついちゃうよ」


僕は申し訳なさそうにいった。


「あげる」


「いいの?」


「うごけそう?」


「ちょっと痛いかな」


そう言いながら立ってみるが、まだ膝がじんじんとして


ちゃんと走れそうにはなかった。


「もう、戻ってもいいと思うよ」


「そうする」


走るのは好きじゃなかった。


「わたし、いくね」


彼女は、また走り出した。


彼女が見えなくなるまで、後ろ姿を見ていた。


家に帰ってから、ハンカチをがんばって手洗いした。


血はなかなか落ちるものではなかった。


綺麗血を落として、乾燥機に入れてから、アイロンをかけた。


母親がやってやろうかと言ってきたが


「自分でやる」


と言って、断った。


次の日、彼女にハンカチを返そうとした。


「え、いらない」


「なんで?」


「太郎君の血ついたのとか汚い」


「そうだよね!」


僕はやにわに、ハンカチをポケットに押し込んだ。


僕はそのハンカチを今でも持ち歩いている。




あ、転んだ


少し先を走っていた太郎君が転んでいた。


どんくさいなと思った。


大丈夫であろうか。


クラスでとなりの席だし、一応心配でもしとくかと


声をかけた。


「大丈夫?」


皮膚がやぶけて、膝から血がでていた。


汚い


見たくなかった


私は、赤いばっちい箇所を持っていた白いハンカチで覆い隠した。


もうこのハンカチは使い物にならないなと思った。


返されても汚いし、あげると言った。


もう、そろそろいいだろうと思って


私はまた走り出した。


なんだか、後ろから見られている気がして氣持ち悪かった。


次の日、彼はハンカチを返すといってきた。


いらないと思った。


めいわくだなと思った。


あげるっていったのに。


彼は最初耳をあかくさせていたが、


いらないと言うと、すこししょんぼりしたようすになっていた。


なんで、そんな顔するの?


その後、彼は私があげたハンカチを使っているのを見かけるようになった。


太郎は私のいうことを聞く犬になった。






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