第93話 たくましいJSズと見苦しいJKズ

 落ち着いた雰囲気の喫茶店で、バチバチ口論を繰り広げていた乃亜&えみり組と神楽坂&姫芽組。


 しかし、琥珀の一言で風向きが変わる。


「仲直りできた良い子たちには特別に、こっちのお兄さん2人が好きなスイーツを何でも奢ってあげよう」


 少女たちは、通路を挟んで隣のテーブルに座る梶野へ、真偽を問うような熱い視線を送る。

 戸惑いながら梶野は、応えた。


「まぁ、奢るくらいは別に」

「っすよねー!みんなの仲直りのためならねー!」

「そう言うと現金だけどさ……」


 了承が取れたところで、JK&JSたちはぶつぶつと独り言を始める。


「一番安いケーキでも、1500円……?」

「こんな値段、自分じゃ絶対無理……」

「でも、スイーツでなびくなんて……」

「くそっ……なんて大人たちだ……」


 琥珀は愉快そうにそれを眺める。


「あっはーー、目に見えて葛藤し始めましたねぇ。プライドかスイーツか、民はどちらを選ぶのか」

「民とか言うな。暴君かおまえは」


 そんな琥珀の茶々もあってか、少女たちは徐々にプライド維持方向へ傾き始める。


「ダメ!やっぱりケーキごときじゃ……」

「そ、そうだ!アタシらはそんなに安い民じゃない!」


 だか、あろうことか暴君が更なる追撃を加える。


「あ、すみません店員さーん!この『数量限定、旬のフルーツたっぷりタルト』って、あといくつありますかー?」

「!?」

「こちら残り5つとなっております」

「!!!?」


 少女たちに激震が走る。


 梨にイチジクに巨峰にシャインマスカット。旬の果物がこれでもかと敷き詰められたタルト。

 2500円と、一介のJK&JSには手が出ないお値段。しかも数量限定。


「あ、じゃあそれひとつくださーい」

「いやアンタも食うんかい!」


 あっさり告げる琥珀に、少女らは大ブーイングである。


「え、うん。だって美味しそうじゃん」

「琥珀ちゃんひどい!あと4つになっちゃったじゃん!」

「じゃあ早く仲直りしなきゃねー」

「最低だ!あいつ最低の大人だ!」


 しかしただ1人、騒がず神妙な面持ちで戦況を見つめるJSがいた。


「……幕上」


 えみりはじっと、姫芽の目を見つめる。


「私、幕上が私に言いたいこと、心当たりあるんだ」

「え……」

「久々にクラス一緒になったのに、よそよそしくしちゃってるからでしょ?」


 姫芽は唇をキュッと結びながらも、小さく頷いた。

 えみりは、続ける。


「実は私、クラス替えがあった春頃、精神的に少し疲れてたの。今年は受験だし、また学級委員長になっちゃったし、家では弟の世話して……余裕なかったんだ」

「…………」

「そんな精神状態の上に……幕上はさ、学年でも常に成績を競い合ってる相手で、私と同じ学校受けるライバルじゃん?だからなんか、身構えちゃってたんだ」

「……そうなんだ」

「でも最近は、了くんちでタクトと遊ぶようになって、心は落ち着いて……でも幕上に対しては、春頃にああいう態度を取っちゃった手前、後に引けなくなってさ」


 えみりは情けなさそうに笑いながら、告げた。


「だから、ごめん。私はまた――姫芽と仲良くしたいな」


 姫芽は何度も頷いてみせると、彼女も告白する。


「私も、梶野が大変そうなのは知ってたけど……冷たい態度を取られてムカついて、意固地になってた……」

「……ん」

「だから私も、ごめん。また一緒に遊んだり、勉強して高め合おう――えみり」


 そうして2人は見つめ合い、照れ臭そうに笑い合った。

 その瞬間――琥珀が叫ぶ。


「はい仲直り成功!!!!!」

「よっしゃ!すみませーんっ、旬のフルーツたっぷりタルトを!!」

「2つ!2つくださーい!!」

「「おぉぉぉい!!!」」


 しんみりした空気から一変、琥珀の合図と共にえみりと姫芽は元気いっぱいでタルトを注文。

 それには乃亜と神楽坂も声を上げる。


「良いのか!?おまえらそれで良いのかJSズ!?」

「タルトに釣られて仲直りしたみたいになっちゃったよ!?」

「それの何が悪いの?」

「むしろタルトのおかげで仲直りできたようなものだよね」

「くそぅ!」

「何も言えない!」


 華麗な仲直り劇を見せた小学生2人には、大人たちも賛辞を送る。


「あっはーー、小学生たちの方がたくましいねぇ」

「まぁ要は、タルトひとつで仲直りできるくらい些細なすれ違いだったわけだよね」

「んじゃJSズはこっちのテーブル来ようか。プライド鬼高ぇお姉さんたちを2人きりにしてあげよう」

「「はーい」」


 えみりと姫芽は梶野と琥珀のテーブルに移動。そうしてバトルフィールドには、意地っ張りな女子高生2人が取り残された。


「くぅ……」

「むぅ……」


 悔しそうな声を漏らす2人。

 視線が合うと、同時に言い放った。


「絶対に!」「私からは!」

「「謝らないから!!!」」


 さもしい宣言をする高校生2人に、小学生2人とアラサー2人は呆れ顔。


 この見苦しい争いは、果たしてどんな決着を迎えるのか。



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