第92話 バトル&バトル&スイーツ
とある喫茶店。
3連休の最終日とあって客は多く見られながらも、落ち着いた雰囲気の店とあって穏やかな空気が流れている。
ただ、その内のひとつのテーブルには、穏やかでない沈黙が流れていた。
「「「「……………………」」」」
乃亜・えみりと神楽坂・姫芽が並んで着座。全員が居心地悪そうな、そしてどこか憤りを抱えた表情をしている。
ちなみに、そんな一触即発なテーブルの通路を挟んで隣のテーブルはというと……。
「いやー良い喫茶店ですねぇ了センパイ、大正浪漫って感じで。ずっと来たかったんですよ」
「うん、コーヒーも美味しいな」
「何より、店員さんの制服が良いですよね。レトロ風のメイド服。資料用に写真撮ろうかなぁ」
「通報されるからやめとけ」
梶野&琥珀の先輩後輩コンビは、呑気に店の雰囲気ごと楽しんでいた。
そんな2人にヤジが飛ぶ。
「ちょっとカジさん、琥珀ちゃん!何2人だけ穏やかに茶シバいてんすか!」
「そ、そうでしゅよ!」
「状況を説明して」
「な、なんで私たち呼び出されたのよ!」
昨日、神楽坂と姫芽と密会していた梶野は、乃亜とえみりに秒でバレた。
問い詰められ寝室に立てこもったところ、やってきたのは琥珀。
そうして梶野と琥珀は2人で話し合った結果、渦中の4人をこのように呼び出すことにした。
その意図を、琥珀が告げる――。
「もう面倒くさいから、4人で話し合ってよ」
「投げやり!!?」
大人2人は、シンプルかつ投げっぱなしな解決策をひっさげてきたのだった。
「梶野しゃん!もしかして昨日相談したこと、もうバラしたんですか!?」
「最低!約束したのに!」
「うぅ……」
「コラやめろーイケメン&ツインテ!了センパイをいじめるな!この人は2人との約束を守るために、1時間も寝室に立てこもっていたんだぞー!」
「それはそれでどうなんですか……」
「他に方法あったでしょ……」
梶野を叱責する神楽坂と姫芽に対し、今度は乃亜とえみりが反発する。
「おら神楽坂、何カジさんに突っかかってんだ!何を相談したか知らないけど、どーでもいいことにカジさん巻き込むなよ!」
「どーでもいくない!」
「幕上、神楽坂ちゃんと了くんを巻き込んで何してんの?」
「う、うるさいわね!梶野には関係ないでしょ!」
「関係あるから呼び出されたんでしょ……てか大声出さないでよ、恥ずかしい」
乃亜と神楽坂、えみりと姫芽。
向かい合う2組は、やはりというべきかバチバチに口論を始めた。
「なぁ琥珀、本当に大丈夫なのかこれで……」
「さあ?でもこういうのって古今東西、本人同士が直接言い合う方が解決しやすいじゃないですか」
「うーん……拗れそうな気もするけど……」
「そもそも、なんで神楽坂ちゃんとひめめちゃんは2人に怒ってるんですか?」
その質問に対し、梶野は隣のテーブルの4人に聞かれないようコソコソと答える。
神楽坂が怒っている理由は、乃亜の自分への扱いだけ雑だから。親友のはずなのに、大事にされていないから。
最近新しい友達ができ、その子らへの乃亜の態度を見てより強く思うようになったのだ。
姫芽が怒っている理由は、えみりが冷たくなったから。久々にクラスが一緒になったのに、えみりは姫芽にだけ何故かぶっきらぼうな態度を取るようになったのだ。
「なるほどなるほどー。女の友情も一筋縄ではいかないですからねぇ」
「ていうか琥珀、おまえそれも知らないくせに4人をかき回したのか?」
「かき回してなんかいません!僕はただ、神楽坂ちゃんとひめめちゃんが似たような負の感情を持ってる気がしたから、引き合わせたらどうなるか実験しただけです!」
「実験ってワードに罪悪感を持つんだよ、普通は」
「そしたらこんな面白いことになるんだから、最高ですよね!あっはーーーー!」
「相変わらず性格悪くて俺は嬉しいよ」
梶野が琥珀に説明している間も、隣のテーブルでは女子たちのバトルが続いていた。
「神楽坂ちゃんも幕上も、言いたいことあるなら言えばいいじゃん。2人して徒党を組んで、イヤな感じだよ」
「えみり先生の言う通りだ!トトー組むなトトーを!」
「徒党の意味分かってないでしょ」
「これだからギャルビッチは……」
ため息をつく姫芽を見て、乃亜は標的を彼女に変える。
「お?なんだチビひめめ、やんのか?今ここで身体測定してやろうか?」
「あぁん?ならアンタのも測ろうか?ギャルビッチのBMI推移を自由研究のテーマにして学校に提出してあげるわ」
「おいやめろ!アタシのBMIで内申点を稼ぐな!」
「なんでこの2人は争ってるの……?」
「本能的な敵対関係にあるんだよ、この2人はもはや」
乃亜vs神楽坂、えみりvs姫芽だけでなく、乃亜vs姫芽まで巻き起こり、収集がつかなくなってきた頃、琥珀が動き出した。
「はいはい、くだらない諍いはやめなさい。皆さんがアホで先生は悲しいです」
「誰がアホだ!」
「そして誰が先生だ!」
「うーん、反抗期ですねぇ。どうしましょう校長」
「僕に振るな。校長でもない」
「あ、そうだこうしよう!」
琥珀は無邪気な笑顔で提案する。
「仲直りできた良い子たちには特別に、こっちのお兄さん2人が好きなスイーツを何でも奢ってあげよう」
完全に物で釣っていた。
「ね、良いでしょ教頭?」
「なんで校長からワンランク下がったんだよ。いやそれより、そんな現金な条件でみんなが揺れるわけ……」
梶野はチラリと隣のテーブルを確認。
「「「「……ゴクリ」」」」
「え、揺れるの?」
うら若き乙女4人組の視線は、メニューに書かれた季節限定スイーツにのみ注がれていた。
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