第59話 まぁ仕方ないよね日菜子さん!
どうも皆さん、おはようございます。
花野日菜子、24歳です。
梶野さんを取り合っている乃亜ちゃんとこのまま仲良くしていて良いのか本格的に悩み始めた私ぃ!!!
そこでこの時間は友達としてでなく、恋敵として接することに決めた私ぃ!!!
どうなる私ぃ!!!
以上、前回までのあらすじでした!!
「乃亜ちゃん、今日は何してたの?」
現在、眩しすぎる高1の夏休みを満喫中の乃亜ちゃん。
どんな日々を送っているのでしょうか。
「今日は家で映画観てたよ。ゾンビ映画」
「好きだねぇホント」
乃亜ちゃんはギャルのくせにインドアです。
まぁ偏見を言い出してしまえば、友達が少ないのも微妙にヘタレなのもギャルっぽくはないのですが。
さて。ではここで、ひとつマウントを取ってみます。
私だって梶野さんと悪くない関係なのですから。
仲良しなんですから。たぶん。
乃亜ちゃんに羨ましがられることくらい、お手の物だってところを見せてやりますよ。
「ゾンビ映画といえば、去年話題になったヤツあるでしょ」
「ええっと、どれだろう……」
「梶野さんがBDでソレを見たらしいんだけど、怖すぎて最後まで見れなかったんだって。思わず『可愛いー』って言っちゃったら、梶野さん顔赤くして『そういうこと言わないの』って言ってさ。可愛いよね」
この距離感ですよ。
分かりますか、このただの上司部下でない感じ。
分からなくても分かってくださいよ!!(強要)
さあ、この親密エピソードに、乃亜ちゃんはどんな反応をするでしょうか。
「あ、それアタシと一緒に見たヤツだ」
「……んん?」
「1ヶ月くらい前に、2人で一緒に見たんだー。確かに怖がってるカジさん、ちょー可愛かった!」
「……フーン、仲良シダネェ」
こんなことってあります??
得意げに繰り出したら、凄まじいカウンターが飛んできました。
嫉妬で燃え上がる感情を、氷をボリボリ噛み砕いて必死に抑えます。
「氷おいしい?」
「……うん、おいちい」
再び、今日何をしていたかという話に戻します。
「日菜子さんと会う直前までは、水着を買いに行ってたんだ。今週着るヤツ」
乃亜ちゃんは晴れやかな表情で、ショップの袋を見せてきます。
「へー、どんなの買ったの?見せてよ」
「えー、うーん、良いけど…」
乃亜ちゃんはどこか恥ずかしそうに、袋を手渡します。
そこに入っていたものは……。
「なっ……これを着ちゃうの?」
「ちょっと大胆かもだけど……カジさんの反応を見てみたくてさ」
どう形容すべきか。
それは、刺激的で挑発的で情熱的で猟奇的なビキニ。
これを、梶野さんの前で着るのか。
恐ろしい。こんな祟りの前触れのようなビキニを着るなんて、このJKもしかして鬼の末裔じゃないか?
若いって、すごい。
「日菜子さんの水着姿も見たかったなぁ。日菜子さんセンスいいから、水着姿もカッコいいんだろうなぁ」
はいこれ皮肉ですねー。
私の水着姿を嘲笑おうとしてるんですねー。
そもそも何故みんなと温泉テーマパークに行かないか、事情も知らないくせに。
言っておきますけどね、地方の友達が来るとか真っ赤なウソですから。
なーんにも予定ないですから。
絶対に行きたくないから、ウソついたのです。
なんで行きたくないかって?
体作るのしんどいからに決まってるでしょうが!!!
突然、1〜2週間後に梶野さんにも見せられる水着姿を作ってきて、なんて言われても無理に決まってるでしょうが!!!
24歳ぞ私!
アンタらみたいな眩しい10代じゃないんだぞ!
ほぼ毎日第3のビール飲んでるんじゃい!
明日なんか友達とシュラスコに行って腹いっぱい牛の肉を食うんじゃい!
そんな自堕落な体、梶野さんに見せられるかい!!!
「はぁ……乃亜ちゃんが羨ましいよ」
「え、なんで?」
「聞かないでぇ…」
ついには言葉に出てしまいました。
敗北宣言です。
あぁ羨ましいなぁ。
梶野さんに甘えられて、いつでも水着姿を見せられる乃亜ちゃんが羨ましいなぁ。
私も梶野さんちでごはん食べたいし、一緒に映画見たいなぁ。
水着でイチャイチャしたいなぁ。
私と梶野さんはただの会社の先輩と後輩。
それでは叶わないのです。これが、私と乃亜ちゃんとの大きな差なのです。
かくなる上はエマ先輩の姪のように……乃亜ちゃんがいじめるのだと梶野さんに相談して、流れでヤっちゃえば!(それができれば苦労しない)
「でも……アタシは日菜子さんが羨ましいっす」
思いもよらぬ発言に「へぇ?」と間抜けな声が出てしまいました。
何そのシリアスな表情。
嫌味じゃないの?マジなの?
どうしよう、じゃあ私と乃亜ちゃんが流れでヤっちゃえばいいの?(大混乱)
「カジさんと日菜子さんってさ、話しているのを見てるだけで、信頼し合ってる感じがすごく分かるんだ。なんかオトナ同士の雰囲気が出てて……羨まの民」
「そ、そう?自分じゃよく分からないけど……でも乃亜ちゃんだって、梶野さんに気にかけられてるでしょ」
「でもさ、たぶんカジさんはアタシのこと、子供としてしか見てないんだ」
乃亜ちゃんはまつ毛の影を頰に落とし、ポツポツと吐露します。
「カジさんにとってアタシはまだまだ子供で、どうしたって彼女候補にもなれない。だから、アタシも日菜子さんみたいになりたい。早くオトナになって、カジさんに信頼されて……好きって言っても誰にも文句言われないようになりたい」
「……そっか」
「あと普通に、一緒に出張行くの羨ましすぎる……!」
「いやだから、2人きりじゃないからね」
隣の芝はなんとやら。
梶野さんと行楽へ行ける乃亜ちゃんを羨む私と、梶野さんと出張へ行ける私を羨む乃亜ちゃん。
私にはすべてが輝いて見える関係でも、そこには乃亜ちゃんにしか分からない苦悩や葛藤がある。
子供だからできることもあれば、子供だからできないこともあるというわけです。
そしてそれは、オトナでも同じことが言えます。
「……私は、乃亜ちゃんが羨ましいって思うよ」
「え……」
「一緒にごはん食べて、映画を見て、笑い合える。四六時中、好きな人のことを考えられる。まっさらな気持ちで、この人が好きなんだって思える。それって実はすごく尊くて、誰にでもできることじゃない。オトナは、特に難しい」
「そうなの?」
「そうだよ。会社の先輩である梶野さんに好きって言う、ただそれだけのために私は、色々な問題をクリアしなきゃいけない。もしかしたら何かを諦めなきゃいけないかもしれないんだ」
想像もしていなかったのでしょう。
オトナの世界を垣間見た乃亜ちゃんは、驚きで声も出ないようです。目をまん丸くさせていました。
「まぁそれでもいつか絶対に、何がなんでも、梶野さんに想いを告げるけどね」
なのでとびきり好戦的な目を向けてやりました。
乃亜ちゃんは一瞬ひるみましたが、即座に返答します。
「ア、アタシだって!絶対負けないし!」
ほらやっぱり、戦争ですよ。
避けては通れないのです、この戦いは。
2人が狙うお宝は、とあるアラサーさんの心。
これは、仁義なき戦いなのです。
でもまぁ……とりあえず今だけは、こんないびつで奇妙な友情を、楽しんでもいいかもしれませんね。
安穏と、そう思ってしまう私なのでした。
「かかってこいや、くそがきめ」
「なんだと!この……お洒落ヘアー!」
褒められちゃったよ。
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