第47話 僕のアタシの水着回

 お盆前、最後の日曜日。

 天気は快晴。


 JK2人とJS、そしてアラサー男という不思議な組み合わせの4人組。特に女子3人は高揚感を抱えながらバスに揺られていた。


「僕まで来なくても……3人で良かったんじゃない?」


 梶野の言葉に、乃亜は陽気に答える。


「保護者ですよ、保護者!」

「保護者なら花野さんでも良かったんじゃ……」

「それが日菜子さん、頑なに来れないって言っててさ。用事があるとかなんとか」

「日菜子さん来れないの、ほんと残念だなぁ」

「大人にも色々あるんだよ」


 乃亜・神楽坂・えみりの3人は、ため息をつくように日菜子不在を嘆いた。


「まぁここまで来たら、ちゃんと保護者しますか……神楽坂ちゃんのお母さんにも頼まれたし」

 

 梶野のこの発言に、乃亜は仰天。


「えっ、カジさんと神楽坂んちの親、連絡とってるの!?」

「そりゃ取るよ……」

「梶野しゃんちにもたまに行ってるし、親に報告くらいはするよ。私がお母さんと歩いている時、タクトくんの散歩してる梶野しゃんと偶然会ったこともあるしね」

「顔似てるよね。身長の低い神楽坂ちゃんって感じだった」


 意外な交流を聞き、乃亜は口をあんぐりと開けていた。


「えー何それめんどくさー……」

「いやそれが普通だよ乃亜ちゃん……」


 えみりの反応に梶野も呼応する。


「そうだよ。そろそろ乃亜ちゃんのお母さんともちゃんと話しないと……」

「あーあーウチは大丈夫でーす。アタシのことなんて気にしてないんでー」


 母親が絡むと、途端に話題を断とうとする乃亜であった。


 そんなことを話しているうちに、目的地に到着。乗客の大半がここを目指していたようで、ぞろぞろと下車していく。


「おぉ〜でっかい!」


 その外観を見た途端、乃亜は感嘆の声を漏らした。


 都の郊外にできた大型温泉テーマパーク。モダンなデザインの巨大施設の中へ、人々が吸い込まれるように入っていく。

 隣接する駐車場は、一番端に停められている車が米粒に見えるほど広い。


 入場すると、早速4人は男女に分かれて更衣室へ。


「流石に、どこもかしこもキレイだなぁ」

「ね、だから出来たばかりのところって良いでしょ?」

「なに自分の手柄みたいに言ってんだ神楽坂。とっとと着替えろ。脱げ、ほら脱げ」

「ひぃ〜っ、くすぐったい〜!やめれ〜!」

「ちょっと乳さわんなや!金取るぞ!」

「仲良しだなぁ……」


 すでに着替え終わったえみりは、乃亜と神楽坂のじゃれ合いを見ながら呆れるように笑っていた。


 更衣室から温泉ゾーンに足を踏み入れると、3人は目を輝かせた。


「うわーすごい!超広いじゃん!」

「ほぼプールって感じだね。屋外にはスライダーとかアトラクションもあるし」

「でもあっちにはワイン風呂とかチョコレート風呂もあるって!あとで行こ!」


 ひとまずは梶野との合流が最優先。

 ただ更衣室からの出口付近は、同様の目的を持った人々で溢れかえっていた。


「了くんの着替えが私たちより遅い訳ないし、この辺にいるんじゃないかな」

「でも人が多すぎて分からんなぁ。歩き回ってみようか」


 3人は周囲に目を配りながら歩き回る。


「しかし神楽坂、改めてなんだその水着は」

「え、可愛いでしょ」


 神楽坂が着ているのは上にも下にもフリルが付いたビキニ。

 今年の流行とのことで、似たような水着を着た女性はこの場に何人もいる。


「歩くたび、視界の端でフリフリが目につくんだよなぁ。引きちぎって良い?」

「良い訳ないでしょ!」

「ていうかアンタ、無駄に高身長でスタイル良いんだから、もっとスタイリッシュな水着の方が良かったんじゃないの?」

「良いじゃん別に〜。普段は身長のせいで着れる服が限られるんだから、水着くらいこういうの着たかったの」

「マインドが乙女だねぇ」


 そんな理由で可愛い系の水着を着ている神楽坂だが、顔の王子感は拭えないせいか、周囲にいる女子の一部は彼女に見惚れているようだった。


「えみり先生のは可愛いね」

「年相応って言いたいのー?」

「いやいや、色が落ち着いているから2〜3歳上に見えるよ。えみり先生は黒似合うね」


 えみりの水着は黒を基調としたワンピースタイプ。えみりの落ち着いた雰囲気もあって、小学生にはまるで見えなかった。


「それで言ったら乃亜も……攻めたねぇ〜、この白ギャルは」

「ふふ〜ん!伊達にギャルやってないからね、アタシ!ニューエラ!!」


 乃亜の水着は三角ビキニ。

 布面積こそ小さくはないが、谷間はハッキリと強調されている。

 派手な髪色と白い肌が映える、真夏の戦闘服にふさわしい代物だ。


 さらに頭には、サングラスを乗せている。


「屋内なのにサングラス!まったくもってギャルだね〜乃亜は!」

「ふふふ、そうだろうそうだろう」

「しかもここプールじゃなくて温泉なのにね。ほんとアホ……ギャルだねぇ」

「アホって言ったな?えみり先生いまアホって言ったな?」


 ただこのサングラスには、オシャレ以外の意味があるらしい。


 ナンパ対策だ。


「これかけていれば多少、声かけづらくなるでしょ?要は高嶺の花アピールですよ」

「あー確かに、関わったらヤバそうな雰囲気は出てるね」

「うん、そうだけどなんか言い方が気になるな?さてはえみり先生、さっきからずっとアタシをバカにしているな?」

「でもさー、それだと余計に目立って、ナンパされやすそうな気がするけど……」

「まぁもしそんなヤツとエンカウントしたら、カジさんに助けてもらうし〜!これぞギャル名物、ダブスタですよ!」

「ギャルの人たちに謝れ」

「ダブスタの意味分かってる?」


 その時だ。

 神楽坂が「あっ……」とどこか気まずそうな声を漏らす。


「梶野さん、いた……」

「え、どこ?」


 乃亜は、神楽坂と同じ方向に目を向ける。

 直後、言葉を失った。


 十数メートル先に、確かにいた、梶野。

 彼は水着姿の女子数名に、囲まれていた。


 その状況、言葉にするならこうだ。


「了くん、ナンパされてる……」


 数秒間、その光景を黙って見つめていた乃亜。その後の第一声は……。


「あ゛あ゛!?」


 ドスがきいていた。



 つづく

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