第37話 頼りになるね日菜子さん!
どうも皆さん、おはようございます。
花野日菜子、24歳です。
求められるのって嫌いじゃないんです、私。
人に会いたいとか、相談に乗ってと言われれば、躊躇なく行くタイプなのです。
なので基本的には誰の誘いでも前向きに受け取るつもりですが、最近1人、会いたくないなぁと思ってしまう人がいます。
それが現在、目の前にいるJK、香月乃亜ちゃんです。
昨日突然、相談したいことがあると連絡してきたのです。
初めは妹ができたみたいだぁ、と呑気に喜んでいましたよ、私も。
しかしこのJK、とんだ曲者なのです。
会うたびに、梶野さんとのエピソードを自慢してくるのです。
やれ頭を撫でられただの、唐揚げを美味しいと言ってくれただの。
しまいには誕生日サプライズされた喜びを、電話で一晩中語る始末ですよ。
知ってるっちゅーねん。いたっちゅーねん、その場に私も。
その上、お茶代などは私持ちですよ。未成年に払わせるわけにはいかないのでね。
お金払って恋敵の自慢話聞くって、それなんて苦行?3回聞くごとに都民税が減免されるくらいじゃないと割に合わないんですけど。
しかも今日はなんかJKが1人増えてるし。
神楽坂ちゃん。誕生会で1回会ったことあるけど、同席するとは聞いてないですよー。
「日菜子さん、すみません……おごってもらっちゃって……」
「全然良いよー気にしないでー」
まぁ神楽坂ちゃんは良い子だし、王子様みたいな容姿で眼福だし、良いんですけどね。
問題は乃亜とかいうギャルJKですよ。
何やら浮かない様子にも見えますが、私は騙されませんよ。
どうせ相談っていうのも、どうやって合法的に梶野さんのパンツを盗もうとか、そんな内容に決まっています。
私は心の中で乃亜ちゃんへ向けて生卵を振りかぶりながら、尋ねました。
「それで、相談って何?」
「話は長くなるんですけど……実はアタシ、前にパパ活やってて……」
「……おおう」
いや重っ。イントロ重っ。
私は姿勢を正したのち、心の中の生卵を一度。冷蔵庫に戻しました。
その後、私と神楽坂ちゃんは乃亜ちゃんの吐露を余す所なく聞きました。
梶野さんとの出会い、吉水さんとやらからの連絡、そして梶野さんとの仲違い。
わりかしガチめの告白に初めは気圧されましたが、乃亜ちゃんが心から辛そうにしていることから、流石に同情心が芽生えます。
神楽坂ちゃんも心配そうです。
「それでアタシ、どうしたら良いか、分からなくて……」
乃亜ちゃんは涙声でそう締めました。
ひとまず、私の中で噛み砕いて、冷静に考えてみました。
正直、梶野さんの気持ちも、乃亜ちゃんの気持ちも分かります。
知り合いの女の子がパパ活相手と再び会おうとしているなら、大人として止めたいと思うのは普通のことでしょう。梶野さんの葛藤が頭に浮かびます。
ただ乃亜ちゃんは乃亜ちゃんで、思う所があるのでしょう。
「つまり乃亜ちゃんは、吉水さんのことは自分で処理できるのに、またパパ活するんじゃないかって梶野さんに少しでも疑われたのが嫌だったの?」
「……ちょっと、違う……」
「え、じゃあ、スマホの通知を勝手に見られたのが嫌だったとか?」
「……違くて……」
乃亜ちゃんは噛み砕くように説明します。
それは、この件が発覚する直前の、えみりちゃんも交えたやり取りです。
『(パパ活の相手と)まだ連絡取り合ったりはしてるの?』
梶野さんのこの質問に、とっさに乃亜ちゃんはこう答えてしまいます。
『な、無いよ!もう連絡も来てないから!』
これがウソであると、梶野さんはこの時点で知っていたということです。
それでも梶野さんはこう応えたのでした。
『……そっか』
「……え?今のシーン、梶野さん何か悪いところあった?」
乃亜ちゃんは頷き、震える声で言います。
「アタシっ、ウソついたじゃん……」
「うん」
「カジさんもウソって分かってるのに……なんで怒らないのって……」
「……うん?」
「アタシのことっ、ちゃんと怒ってくれなかったのが、悲しかったの……」
「…………」
明らかになった心情を前に、私は「そっか……」とひとまずの相槌を打ちつつ、心の中の冷蔵庫から生卵を取り出します。
「(メンドくさ〜〜〜〜い!!!)」
力一杯投げつけました。
心の中で。
いや本当にメンドくさいなコイツ。
変な子だとは思ってたけど、彼氏にそういうの求めるタイプのメンドくさ子だったのか。ていうか梶野さん、彼氏でもねえし。
そんなどうでも良いことで相談されるなんて、たまったもんじゃないよ。
せっかくできた友達も、離れていくよ?
「乃亜……」
神楽坂ちゃんは、乃亜ちゃんの肩をポンと叩き、一言。
「分かる〜」
え、分かるの?
なんで?類友なの?
もしくはそれが今のJKなの?
私の考え方が古いの?
「怒られたい時ってあるよねぇ。時には理不尽な理由でも良いから、ビシッとキテほしいよねぇ。打ちのめすくらいに……」
いや違うな。
さてはこの子もなんか患ってんな。
おかしいもの、言動と口調が。
ゲンナリしていた私でしたが、ここで悪知恵が働きます。
「(このまま乃亜ちゃんがメンドくささ爆発でいてくれれば……梶野さんともギクシャクしたままになるのでは……?)」
乃亜ちゃんは、友達です。
妹みたいなものです。
でもそれ以前に、恋敵であることを忘れてはいけません。
ここまで仲良くしてきたのも、乃亜ちゃんと梶野さんの動向を知るため、隙あらば邪魔するため。そんな邪な感情が無かったと言えば、ウソになります。
今がまさに絶好の機会です。
このまま乃亜ちゃんの考えを肯定し、メンドくささを助長させれば……。
「アタシっ……このままカジさんと変なカンジのままで終わっちゃうのかなぁ……」
「大丈夫だよ乃亜、そんなことないって」
「カジさんだってっ……こんなメンドくさい女、嫌だよね……」
「…………」
メンドくさい自覚あるのかよ。
じゃあ自分で何とかしろよ。なんだコイツほんとに。
「……あのさ、乃亜ちゃんって、大人の男の人って完璧だと思ってない?」
「……え?」
ため息と共に、不必要なお世話が漏れます。
「乃亜ちゃんから見て一回りも上の男の人ってなるとさ、自分じゃ想像できないくらい立派で、正しい考え方を持っていると、勝手に思っちゃってるでしょ」
「……全員じゃないけど……カジさんとかは、そうかも」
「でもね、大人って案外そうでもないよ。大人だって間違うし、けっこうアホだよ。女心が分かる男なんて、大人でもほんの少ししかいないよ」
「……そうなの?」
「そう。だから梶野さんにだって、ちゃんと言わなきゃ分かってくれないよ。何が嫌で、何が嫌じゃないか。きっと梶野さん、それが分からなくて今モヤモヤしてるよ」
乃亜ちゃんは最後まで聞くと、自分の中でひとつひとつ飲み込んでいくように、何度も頷いていた。
傍から見ていた神楽坂ちゃんはというと、何か私を見る目が変わっています。
「日菜子さん、大人ですねぇ……カッコいいです」
「いや、そんなことは……」
「今度、私の相談にも乗ってください」
「何言ってんだ神楽坂!日菜子さんはアタシのお姉ちゃんなんだぞ!」
「何それ!乃亜ずるい!」
私を取り合うJK2人を前に、苦笑いしか出てきません。
「(何やってんだろ……)」
お金を払って、想い人と恋敵の仲違いエピソードを聞いた挙句、恋敵に助言。
何がしたいのか。
何を同情心に負けているのか。
これだけ慈善活動したのだから、誰か何か恵んでください。
都民税5割減額とかでいいんで。
私に幸せあれ。
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