第25話 タヌキ顔ぼっちギャル vs キツネ顔ぼっち王子
映画館から出た乃亜は釈然としない表情。
「(なんか、金かけただけって感じだったなぁ……)」
楽しみで前売り券まで買っていた新作映画が、お眼鏡に適わなかったらしい。
「(まぁいいや。カジさんに愚痴ってタクトをモフモフしてスッキリしよ)」
だが梶野家を訪れても梶野&タクト不在。
散歩に行ったのだと瞬時に理解した乃亜。待っていても良かったが、一刻も早く梶野に愚痴りたく、再度マンションを出た。
散歩コースを逆から進んでいても、なかなか遭遇しない。
だが土手に着いたところで、発見した。
梶野は、女子高生と談笑していた。
「…………」
乃亜は彼女を知っている。
毎日クラスで見かけるノッポ。中性的でキリッとした顔だからか、一部の女子からキラキラした目で見られている存在だ。
名前は確か、神楽坂。
よく見れば神楽坂の腕の中には、気持ち良さそうな顔のタクトもいる。
自分でない女子高生が、梶野の隣にいる。
プツーン、と脳で何かが切れた。
「ぐぉらぁぁぁァァァ!!!」
「え……きゃあぁぁぁ!!?」
突進すると、神楽坂は悲鳴を上げながら土手を転げ落ちていった。
「キサマ何しとんじゃオラアァァ!!!」
乃亜の怒りは収まらず、目を回している神楽坂に咆哮。
そこへ梶野が制止に入る。
「いや乃亜ちゃんが何してるの!?」
「カジさんこそっ!こんな子供と仲良くするなんて!」
「君たち同級生でしょうが!」
乃亜がここまで取り乱す理由はもう1つ。
梶野の元カノ・キョーコが関わっている。
キョーコの外見についてえみりは「カッコ良い感じ」と証言した。
そして神楽坂もまた、高身長でシャープな目のキツネ顔美人。
心がざわつくのも無理はない。
「やっぱこういう系なんか!?アタシみたいなナチュラルに可愛いタヌキ顔はアカンのかーーー!?」
「1人で何言ってんの!?」
梶野と乃亜がやりあっていると、遅れて神楽坂がノソノソと土手を登ってきた。
「いたた……何するの香月さん……」
「アンタもとんだ曲者の民だねっ!神楽坂とか言ったかいっ!?」
「何その口調……」
乃亜を相手にすると神楽坂は普通に話し、まるで噛まなくなった。
男の梶野と話している時と別人のようだ。
「アンタ、クラスじゃ男嫌いマインドで振る舞ってるくせに、初対面のカジさんに対してはグイグイいくんだねぇっ!?」
「えっ、いやそれは……梶野さんはなんか話しやすくて……それに半分タクトくんと話していたようなもんだし……」
「何わけ分かんないこと言ってんだい!ボソボソしゃべってさ!だからクラスのクソギャルどもにバカにされるんだよ!」
「う、うぅ……」
険悪なムードだが、梶野は意外なことに気づいた。
「(乃亜ちゃん、クラスで孤立してるわりによく分かってるんだなぁ)」
先ほど神楽坂が言っていたクラス事情。
孤立している乃亜も、その空気感をはっきり把握しているらしい。
意外とクラス全体をよく見ているようだ。
「タクトもっ、そんな見かけ倒しのつまようじ女と一緒にいないで、アタシのとこに戻ってきなさい!」
「ちょっとリード引っ張らないで!タクトくんかわいそうでしょ!」
「思い出せタクトッ、アタシとの思い出を!もう耳モグモグしてあげないよ!」
「耳モグモグって何!普段何してるの!?」
先ほどまでは乃亜に気圧されていた神楽坂だが、タクトを巡る争いになると急に張り合いだした。
犬好きの血がそうさせるらしい。
ちなみにタクトは「僕のために争わないで!」といった顔で右往左往している。
「はいはい落ち着いて2人とも。タクトは僕が預かります」
梶野が間に入り仲裁。
元はと言えば乃亜と神楽坂が仲良くなればと思って行動したはずが、なぜこんな事態になってしまったのか。
「2人ともクラスメイトなんだからさ、仲良くしなよ」
「できませんねぇこんなビッチとなんて!」
「ビッ……そっちの方がビッチでしょ!」
「ビッチじゃないです〜ゆめかわ系です〜」
「どこがっ?『ゆめ』の要素も『かわ』の要素も無いじゃん!」
「『かわ』はあるんですけど〜〜〜!!?」
低レベルの口喧嘩に梶野は辟易。
正直、もはや面倒臭くなっていた。
「もう、ぼっち同士ケンカするなよ」
「あぁーカジさんがひどいこと言ったー!ぼっちって言ったーーー!」
「ひ、ひどいでしゅ梶野しゃん!これだから男子ってイヤ!」
結局この日は収拾がつかず。
乃亜と神楽坂は険悪な状態のまま別れるのだった。
「明日覚えてろよ!下駄箱にタクトのうんち入れてやるからな!」
「えっ、それはちょっとヤダな〜」
「なんでちょっとまんざらでもない顔してんだ!なんだこいつ!」
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