第22話 がんばれ負けるな日菜子さん!
どうも皆さん、おはようございます。
花野日菜子と申します。
広告代理店でグラフィックデザイナーとして働いている、入社2年目の24歳です。
おかげさまで仕事にも慣れました。
人手不足のため仕事は多く、眉間に生卵を投げつけてやりたい上司も何人かいますが、基本的には充実した日々を過ごしております。
元気な体に産んでくれた親への感謝も感じるようになりました。
先月の母の日には、生まれて初めてカーネーションを送りました。
すると田舎の母から「○疋屋のゼリーの方が良かった」との返信があり、腹いせに青汁30包入り3箱を送りつけてやりました。
さて突然ですが、私には好きな人がいます。
同じくデザイナーとして働く同僚。
名を梶野了さんと言います。
人当たりが良く、優しい方です。
しかし仕事に対しては真摯で、時には頑固な一面を見せる時もあります。
それがまた素敵なのです。
そんな梶野さんが、なんと今、目と鼻の先にいるではありませんか。
もちろん社内ではありません。休日です。
生花やオブジェ、映像などで花を楽しむアート展。
楽しみにしていた展示会で、梶野さんと来れたらなぁ、なんて思っていました。
まさにそこでバッタリ会うなんて、普通は小躍りするところです。
ですが現状、小躍りもできなければ、声を掛けることさえ難しい。
なぜか?
彼の隣に若い女の子がいるからです。
「(あの子、前に会社に乗り込んできた……)」
少し派手めなメイクに、肩が露出したオフショルダートップスを身に纏う少女。
梶野さんの話では、最近仲良くしているお隣さんらしいです。
ただ休日に2人きりで出かける仲だとは聞いていません。
「(あの子、近すぎじゃない?梶野さんとの距離感バグってない?梶野さんも何ヘラヘラ笑っているんですか!)」
私は大きな桜のオブジェに隠れつつ、2人を見つめます。
「(あっ、今あの子嗅いだ!梶野さんの後ろに回りこんで、うなじの匂い嗅いでた!梶野さんその子変態ですよ変態!)」
JKの一挙手一投足に、ついヒートアップしてしまいます。
なぜ私は貴重な休日にこんなことをしているのでしょう。
梶野さんは女っ気がまるでない人なので、心のどこかで安心していました。
そのうえ犬を飼い始めたとのことで、お酒の付き合いも悪くなりました。
そこでいよいよ私の独壇場だと思い、デスクの隣の席から少しずつアピールしていたのです。
そこへ突如現れたリアルお隣さんのJK。
しかし梶野さんは分別のある方なので、まさかJKとガチ恋なんてしないだろうとタカを括っていました。
「(それがっ……なんてザマですか、梶野さん!!!)」
憤慨していると、ふと視線を感じました。
何やら小学生くらいの女の子が、梶野さんを覗き見る私へ怪訝な目を向けています。
「あ、あはは……」
笑ってごまかすと、彼女はスーッと離れていきました。
「(危ない危ない。流石に怪しすぎたか……ってちょっと!!!)」
なんと先ほどの女の子が、梶野さんたちの元へ駆け寄っていくではありませんか。
「(まさか梶野さんに私のこと言う気!?なんて正義感!マズい、このままだと……)」
私の頭に優しくない未来が浮かびます。
『休日に同僚男性をストーキングしたとして会社員の女を逮捕。女は「彼と一緒にいた女が変態的な行為をしないか監視していた」と容疑を否認。ネットでは女に対し「見苦しい」「変態はおまえや」「自覚がないタイプの変態」などの意見が挙がっている』
「(もう逃げられないし……あぁもうどうにでもなれ!!!)」
考え抜いた結果、私は意を決し、オブジェから飛び出しました。
「梶野さーーーん、偶然ですねぇぇぇ!!」
「うわぁぁっ、何ーーーっ!?」
突然のことに梶野さんは全身で驚きを表現します。
私を確認するとまた別の驚きを見せました。
「えっ、花野さん!?」
「そうです花野です!花野日菜子ですよ梶野さん!」
私も私で感情が高ぶり、不思議な口調になってしまいました。
JKもJSも目を丸くしています。
しかしこのJK、近くで見ると可愛いな……悔しいけど服のセンスも良い……。
通りすがりのJSは早めに退場してくれ。
「私と梶野さんは知り合いなんですよー、不審者じゃないですよー」とこれでもかとアピールしてるじゃないか。
その正義感は別の場所で発揮してくれ。
するとJSが、口を開きます。
「了くん、この人知り合いなの?」
えっ。
「うん、会社の同僚だよ。えみりはトイレ長かったな」
えっ、えっ。
「そんなこと女の子に言っちゃダメ!も〜了くんは〜」
「あぁごめんごめん。花野さん、この子は僕の姪っ子のえみりだよ」
いやJSもツレだったんか〜〜〜い。
心で盛大にツッコミながらも、無理やり笑顔を作って挨拶します。
「(ていうかじゃあ、JKと2人きりのデートでもなかったのね)」
一安心、と思ったのも束の間、ビリッとした視線が突き刺さりました。
微笑むJKが私を見る目。
愛嬌が表面に映りながらも、その奥には地獄の業火のような敵愾心が見えます。
JKはこの数秒間の私の態度や言葉、声色で気づいたのです。
私が、叩き潰すべき敵だと。
「それでこの子が前に話した、隣に住んでる香月乃亜ちゃんね」
梶野さんから紹介されると、彼女は頭を下げた後、舐めるように私を見つめます。
「よろしくお願いしますね、花野さん」
「よろしくね、乃亜ちゃん」
この瞬間の私の気持ちは、たった一言に集約することができました。
上等だよ。
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