第20話  海の世界

 意思のある海の世界は、僕たちの世界から

、そんなに遠いわけではなかった。

 すぐに海のある星を肉眼で確認出来るところまで行く。


 七白さんもゴウライさんも宇宙だろうが、水中だろうが、まったく平気だ。

 僕も自分がどうにかなってしまったのか、まったく平気だった。


「これも竜の力かな?」


「違うわ。越える者が、本来持っている力よ。子供から大人に近付いたので、本当の力が、覚醒を始めたようね」


 壁を越える者の力は、人間の科学力では、まだまだ計り知れない。

 最も、僕の理科の成績は、とても褒められたものでは、ないけどね。


 ひとつの惑星から、大きな動物の舌の様に宇宙にまで海が、せり上がってきた。


 ゴウライさんが、全身から火球を噴き出し、水を吹き飛ばしている。


 僕は、水をよく観察してみた。とても綺麗な水だ。意思は、何処に潜んでいるのだろう?


 海のせり上がった、根元の部分。星の大気の層のいちばん外側。舌の付け根の様な形状の部分に、火球を叩き込み、引きちぎってみた。


 引きちぎられた水を回収しようとして、星に残った水が猛スピードで伸びてきた。水を伸ばしたため部分的に細くなったので、膜の穴があいたようになり、地表が見えた。


「あれが、囚われの大陸かな?」

 

 七白さんに、尋ねる。


「そうよ。あの大陸の何処かに姉さんは、囚われているの」


 さて、どうしたものか?

 七白さんの姉のツキヨさんを救出しないと

何も出来ない。その昔、七白さんたちは、ツキヨさんを救出した後、星ごと砕いてしまうという物騒な事を考えていたらしい。


 目の前に、学校のプール1杯分くらいの海水の固まりが流れてきた。これくらいだと意識は、まだあるが、上手く動けないらしい。


 僕は、手を伸ばし、その水の固まりに触れて、振動を送り込んでみた。

 それだけで海本体の意思から外れ、ただの宇宙を浮遊する海水になった。


「やはり集合しているから、あの力という事らしいですね。戻って、ツキヨさんの救出を考えましょう」


 黒の森では、ベクターが待っていた。僕が、頼んで、来て貰ったのだ。

 七白さんのお姉さんである、ツキヨさんは、月の女神様だ。

 女神様に、体臭は無い。周囲の臭いも消える。つまり、臭いの無い場所を探せば、幽閉場所を見つけられるという事だ。


 ライオンや、虎も、臭覚は鋭いが、匂いの無い場所を探すという複雑な事をするには、やはり分析型である狼の姿をしたベクターが、適任だ。


「大陸の大きさは、ほぼ南極大陸と同じ、この大きさをベクターだけで探すの?」


 七白さんの疑問は、当然だ。しかし、


「海が、起こした津波は、大陸が覆われそうな大きなものだったと言ってたでしょう。あの、のっぺりした大陸の形状で、一カ所だけ津波を避ける事が、出来る場所がありましたよね」


「そんな場所があったか?」


 ゴウライさんは、首をかしげていた。


「七白さんたちは、これまでに、自分が進む道を大河や山に阻まれる事は、無かったでしょう?」


「もちろんだ」


 障害を正面突破する事は、ゴウライさんの信条だ。


「人間では、そうはいかないので、地図や地形図が、あります。だから僕も注意深く大陸を観察していました。周囲100キロを高い山に不自然に囲まれている場所がありました。ツキヨさんを隠すつもりなら、おそらく、その津波を避けられる何処かに、洞窟でもあるはず。ツキヨさんが幽閉されているとすれば、高い確率で、そこでしょう」


「なるほど。それくらいの範囲から、臭いの消えた不自然な部分を見つけるなら、僕にも出来そうです」


 ベクターは、納得した。


「当然、洞窟は、海と繋がっている可能性が、高い。見つけても、慎重に行動する必要があるが、そんなに大量の水は、入り込めないだろう。量が無ければ、海の力は、たいした事が無い」


 聞こえ慣れた、ベルが、鳴った。


「次は、海の世界へ」





 

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