第18話 海の世界
自分が、大人の姿をしていたので、これは、夢の中なのだろう。もっとも夢の中も現実でも月の欠けら探しが、重要な事には、変わりない。
「はじめ、欠けらのある世界が、分かったわ」
「そうですか。では、行きましょう。ところで、次はどんな世界ですか?」
七白さんの返事は、めずらしく少し間があった。長い髪が揺れるとようやく口を開いた。
「今度は、海の世界よ」
「海?僕たちの世界も本当は、ほとんどが、海で、海の世界と言っても良いそうです」
「そうね。はじめの世界なら良かったのだけど」
声も心なしか沈んでいる。いつもの白いワンピースも影になっている部分が多くて、灰色に見える。
「どうか、しましたか?七白さんらしくもない。元気ないですよ」
「そうね。海の世界は、海が、意思を持っている世界なの。昔は、太陽の光を吸収して、大人しく生きていたの。でも、あることがあって、海は、積極的に食べ物を求める、この宇宙において、とても獰猛で、最も危険な存在になった」
海に襲われるとは、ピンと来ない。
「つまり、僕たちが行けば、海に襲われるということですか?」
「そうよ。相手は、とても大きな海。今までの様には、いかないわ。あの風の竜でさえ、意思を持つ海には、注意していたわ」
風の竜とは、小さな街ほども大きさがある竜のことだ。そして、死の瞬間、僕の中に文字通り風になった竜が吹き込んできた。
以来、僕は、風の竜の力を少しだけ使えるようになった。
「その世界の星は、海だけなのですか?地上部分があれば、試しに降りてみて、それからどうやって探すかを考えるしかないとおもいますが」
「あるわ。囚われの大陸が」
七白さんの表情が、より曇った。その海に何かあるのだろうか。
「僕だけで、とりあえず大陸に降りてみましょうか?危険を感じれば、クーマに頼んで目覚めれば良いことですし」
「やっぱり止めましょう。新しい月は、マツリに作ってもらっているの。今までの集めた欠けらの光とシャンパンで十分に、輝き始めると言っていたし」
僕は、驚いた。およそ七白さんとは、思えない発言だ。
「七白さん。どうかしましたか?いつもと違い過ぎませんか?それともこれは、いつもの異世界でなく、ただの夢かな」
「そうかも知れないわね」
突然、まったく別の方向から声がした。
「はじめさん、七白様お久しぶりです。お元気ですか」
火の鳥のネムルだ。ハルの卵を温めてくれた火の鳥だ。
不死の火の鳥の繁殖は、謎だ。地上の感覚では、ネムルがハルの親という事になる。なのに、躊躇なく僕に預けた。
「はじめさん。あの子は元気ですか?」
「元気だよ。もらった火の固まりをモリモリ食べている。大きさは、変わらないけど」
ネムルによるとそういうものらしい。
「今、聞いてしまいましたけど、意思のある海ですか?恐ろしい相手ですね」
「そうね。諦めるしかないようね」
「でも、七白様。囚われの大陸には、まだあの方が」
「やむを得ない。勝機は、ゼロだ」
隣で、聞いていると、どうやら七白さんと関係の深い人が、海の星にいるらしい。
「ネムルちゃん、誰が囚われの大陸にいるの?」
ネムルは、つられて答える程には、まだ口が軽くなかった。
「七白様から直接お聞きになった方が、良いかと思います」
「と、いう事らしいです。話して頂けませんか?」
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