第17話  火の谷の子供

 家に戻ると、窓から飛び出した時間だった。しかし僕のポケットには、火の鳥の雛が気持ち良さそうに眠っていて、今までの事が

現実であった事は、分かった。


 母親に鳥を飼いたいと火の鳥の雛を見せると、何故か二つ返事で、許してくれた。


「何て可愛い鳥なの」


 普段動物嫌いな母親からは、信じられない様な言葉が聞けた。

 火の鳥には、特別な魔力が宿っているのだろう。


 僕の部屋で、机の上にクッションを置いて火の鳥をそっと移した。


「さてと、君たちは、何を食べるのかな?」


 地上の鳥のエサでも買って来ようかなと立ち上がると、開きっ放しの窓から、クーマが現れた。


「はじめさん。火の鳥の雛は、地上の鳥のエサは、食べません。ネムルちゃんが炎の固まりを七白様に届けてきたので、持って来ました」


「炎の固まり?」


「その雛が、満足するまで少しずつ与えて下さいとのことです。それから、これは、マツリ様からです」


 とても綺麗なつくりで、鳥の大きさに合わせて大きくなる鳥カゴ、何処にでも、取り付ける事が出来る止まり木を持って来てくれた。


「マツリさんには、会ったこともないのに、とても親切な方なんですね」


「あの方は、みんなに優しいです、それよりはじめさん、この子の名前は、もう決まりました」


「うーん、まだなんだよ。考えておくよ」


「火の鳥たちの知能は、とても高いので、名前をつけるのは、なるべく早い方が良いですよ」


「じゃあ、ハルちゃんにしよう。あれこの子は、女の子かな?男の子かな?クーマには、分かるの?」


「いいえ。火の鳥たちは、謎が多くて」


「そうか。ところでクーマは、どうやって境界を越えてきたの?確か、黒の森とドラゴンたちの世界の行き来しか出来ないと言っていたよね」


「七白様が、火の鳥を育てる事に戸惑いがあるだろうと、心配していたので、僕がお目付役をする事になりました。8本の尾と引き替えに越えて来ました」


「大切な尾を無くしたの?」


 クーマ自身が、尾と言っているが、あれは、魔力の固まりだ。それを8本も使うとは。


「いいえ。尾は、再生します。時間はかかりますが…。再生した尾と引き替えにすれば、また境界を越える力が身につくので、みんなの所へ戻れます。その頃には、ハルちゃんも大きくなっているでしょう」


 クーマの外見は、中型日本犬の大きさで、柴犬の子供の様な顔をしているので、両親は一も二もなく飼うことに賛成した。


 両親は、クーマに、美味しいと宣伝している、ドッグフードを大量に買ってきて、与えていた。


 もちろんクーマは、物を食べた事が、無かったが、実際に食べてみると美味しかったらしい。以来僕のポケットには、小分けのドッグフードが、いつも入っている。


 ハルの成長は、人間とは大きく違っていた。身体は、いつまでも小さい。火の固まりを少しずつちぎって、与えるのだが、そんなにたくさん食べない。


 火の鳥の成長は、まず脳が先行するようだ。僕が宿題をしていると机の上で、先に問題を解いてしまう。


 両親の前では、しゃべらなかったが、僕の家に来て、3日もすれば、すでに普通の会話は、可能だった。


 ハルは、秋まで身体が大きくならなかった。


 その間にも、もちろん、欠けら探しは、続いていた。

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