第16話  火の谷の子供

「ネムルちゃんいる?七白様が、来てくれたわよ」


 僕は、サンダルの翼を広げて、まだ若く見える火の鳥の傍に着地した。豪華な乗り物は、少し離れた所にある開けて安定の良い場所に停めた。


 七白さんは、僕が風で包み、抱き抱える格好になっているが、重さは感じなかった。


「まあ、七白様。こんなところまでようこそおいで下さいました」


 どうやら、この火の鳥も七白さんと会った事があるらしい。


「久しぶりだな、ネムル。どうして、子供が欲しくなったの?」


「分かりません」


 僕は、彼女の巣の中を覗いてみたが、確かに、卵以外に何かが巣の中にあった。月の欠けらというよりも、プラスチックの様なものだ。


 七白さんは、月の欠けらについて、ネムルに説明し、巣の中に飛び込んで来たものを見せてほしいと言った。


「ぜんぜん、良いですよ。でもこれは、卵を産んだときに、同時に私の中から出て来た物で、飛び込んできたものでは、ないですよ」


 どうやら、事前の情報とは多少違ったみたいだが、とにかく短剣の柄の底を開いてみた。短剣が、その異物を吸い込む事は無かった。欠けらでは、無かったようだ。

 

 その時、ネムルは、七白さんに挨拶するため立ち上がっていた。むき出しになった卵が、突然揺れ出し、短剣が卵吸い込んでしまった。


 火の鳥の雛は、残ったので、正確には、カラだけを吸い込んでしまった。

 すでに、殻を割り、生まれ出る寸前だったその雛は、殻と一緒に吸い寄せられたため最初に僕を見てしまった。


 いかに、知能の高い鳥と言っても刷り込みにより、その雛は、僕を親だと認識してしまったようだ。


 ネムルは、月の欠けらが姿を変えた殻が、消えた瞬間、子供が欲しいという、気持ちが消えたようだ。


「どうやら、ネムルちゃんの身体の中に、飛び込んでしまった欠けらが、外に出ようとして、ネムルちゃんに卵を産ませようとたみたいですね」


 僕は、早くも甘えてくる火の鳥の雛を撫でながら言った。


「欠けらが卵の殻になれば自動的に外に出る事が出来るというわけね」


 七白さんも納得したようだ。


「あら、あなたの事がとても気に入ったみたいね。七白様この方はどなたですか」


「彼は、風野はじめという人間だ。月の欠けら探しを手伝ってくれる者。そして風の竜の最後の風を受け止めた者だ」


 ネムルは、とても驚いた顔をした。それにしても火の鳥たちは表情豊かだ。


「はじめさん。その子は、あなたの事をすごく気に入っているようです。出来ればあなたが、育ててやってくれませんか?」


 全ての火の鳥たちは、世界の境界を越える事が出来るので、それから、その雛は、僕が育てる事になった。

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