第14話 湖の底の世界
結局、意識を失いながらも僕は、短剣の光を当て続けていたらしい。
しかし目覚めた時は、立場が逆転していて僕が看病されていた。
目覚めた僕を見る雪乃さんの目は、優しい光が宿るようになった。
虹色の魚たちをこの世界に残していくわけには、いかないので、大きなプールにみんなを放し、プールごと移動させる事にした。
黒の森が焼かれては困るので、ドラゴンたちの住む岩山に移動する事になった。
「君が跳び越えるのよ」
「七白さん。僕は、自分がどうして移動する事が出来るのすら分かりません。何か、呪文でもあるなら教えて下さい」
「無いわよ。君が本来持っていた力と、風の竜の力が合わさっているから、跳び越える力は、私より大きいわ。だからはじめが移動するのよ」
どうすれば良いのだろう?
ドラゴンたちの岩山を強くイメージしてみたが、何も起こらず。
魚たちは、お腹が空いたのか、僕を見てパクパクしている。
困った。
僕の中に吹き込んだ風の竜と会話出来ないかと目を閉じて集中してみたが、何も聞こえてこなかった。
もう半分あきらめて、プールを触りながら眠くなった目をこすっている。
魚たちは、相変わらずパクパクしている。お腹が空いたのだろうか?僕を励ましているのだろうか?
少しウトウトすると、唐突に移動した。
いきなり姿を現した僕の姿にパイが、驚いていた。
「君は、誰だ?」
「何言ってんのパイ?もう僕の顔わすれたの?」
そう言ってから今は、現実の小学生の姿だと気づいた。
「僕は、はじめだよ。いつもと違って現実の世界からの移動だから姿は、こんなだけど」
その時、七白さんが移動してきた。
「はじめの薄情者。勝手に移動して。多分ここだと思ったが」
「済みません。まだ上手く移動をコントロール出来ないです」
その場にいたパイと、まだ子供の姿のイマジナに事情を説明して、少しの間、魚たちを預かってもらう事にした。
「魚たちも火を吹くなら、メトロですか?」
パイが、七白さんに質問した。
メトロって、鉄道のことかなと思って尋ねてみた。
「この付近にも地下鉄があるの?」
「はじめの世界の地下鉄とは、少し違う。魚たちが好むだろう火の谷へ最も速く連れて行ってくれるが、やや荒っぽいかな。しかし火の谷には、魚たちに、たくさんの食べ物を与えてくれる火娘もいる」
火娘というのは、身長が30センチくらいで、絶えず炎の中に浮いている、女の子の姿をした妖精みたいなものだ。
雪娘たちと同じように可愛い女の子の姿をしている。
火娘や雪娘は、どんな世界にもいるらしい。ただ、人間は、ほとんどの人が、見ることが、出来ない。
火の谷の国の火娘の数は多く、娘たちは優しいので、虹色の魚たちのエサになる、たくさんの火の粉をくれるということだ。
僕たちは、メトロの駅に向かった。黒の森の反対側のドラゴンたちの国の外れに、その駅はあった。ドラゴンたちは、飛翔能力が高いので、利用する事はないが、列車を曳く者は、ドラゴンたちと仲が良く無理矢理ここに駅を作ったそうだ。
ホームで待つ僕たちをこの世界の火娘が、興味深そうについてきた。
虹色の魚たちを見つけると火の粉を出してくれ、魚たちは、美味しそうに食べた。
轟音とともに、列車はホームに侵入してきた。驚いた事に列車を引いていたのは、白銀に輝く毛皮をまとい、黄金の牙を持つ巨大なイノシシだった。
黒の森のグルンよりも巨大なイノシシは、炎の息を吐き、蹄はどんなに硬いものを踏み割り、その走る姿を見た者たちには、流星を見たと思わせた。
「ゴウライ久しぶりだな」
「七白か。姿を見つけたときは、まさかと思ったが、本当に久しぶりだな。そっちの人間は、なんだ?」
「彼は、跳び越える者。そして風の竜の最後の風に吹かれた者だ」
「そうか、奴が逝ったという噂は、本当だったのか」
この巨大なイノシシは、風の竜と旧知の仲だったらしくて、涙を流していた。見かけとは違って優しいらしい。
火の谷の国へ、魚たちを送り届けるため事になった経緯を話すと、月の石を浮かべるシャンパンをくすねて飲んだ遠く過去の事を話し出した。
「その頃は、風の竜も若くてな、七白とわしとで、世界を跳び越えて駆け回ったものさ。天界の争いに巻き込まれたり、女神を救うために死の国の軍を全滅させたり、いろいろと楽しい思い出が、たくさんある」
「ゴウライ、あまりはじめに変な事を吹き込まないでくれ」
「ハッ、ハッ、ハッ。そのうち七白が、女神をこらしめた話を内緒で教えてやるぞ」
七白さんを見ると、顔が赤くなっていた。
魚たちを運び終えると、七白さんが自ら結界を張った。何故そうしたのかは、ゴウライが走り出した瞬間分かった。
ゴウライは、イノシシの姿をしている。どんなときも彼は、真っ直ぐ走る。山も川も海も星屑も、彗星だって気にしない。
走っている間中、大きな振動や窓やドアのすき間から入ってくる、星の欠けらや、見たことも無い生き物に驚かされたが、おかげで火の谷の国には、そんなに時間がかからず着いた。
火の谷の国は、名前ほどではなかった。溶岩しかない着地するところも無いところならどうしようかと思ったが、人の身でも平気で立てた。
「何故ここが火の谷なのですか?」
確かに火娘たちは、たくさんいるみたいだが、炎が、見当たらない。
まるで木の枝のように伸びた岩があるだけだ。
「彼等は、お寝坊さんだからね」
七白さんが、また分けのわからない言葉を言った。
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