第11話 風の竜
意識が、蘇った時は、既に風の竜の頭部にいた。
「すみません。また意識を失っていたようです」
目を開くと、僕の顔を覗き込んでいたのは、星の子供と、七白さんだった。
「良いのよ。ゆっくりと起きてね」
風の竜の大きな目を見ると、笑っているようだった。
「風の竜よ。今言った通りだ。君の身体中を捜して見るから、ここで旋回してくれないか?」
七白さんが、竜に話しかけている。
「分かった、七白。しかし、もっと良い方法がある」
竜は、一息ついたが、静かな声で話しを続けた。
「ドラゴンの国に着陸するのだ」
僕たちは驚いたが、驚いた理由は、後から考えると、バラバラだった。
僕は、あの険しい岩山だらけの国に、この巨体が着陸出来る場所が、あるのかと考えた。
星の子供たちは、行ってみたいと思っていた地上世界に行く事が出来ると考えた。
七白さんだけは、風の竜の巨体は、1度着陸すれば、再び離陸出来ないと知っていた。
「七白。心配は要らない。永劫とも言える長い年月を生きていると、あなたでさえ知らない色々な能力を身に付ける事が出来る。みんなが、私の事を呼ぶ風の竜にふさわしい能力を見せてあげよう」
「どんな能力なのです?」
七白さんが、珍しく厳しい表情をして、感情が表に出ている。
「重力から解き放たれる方法です。しかし今回は良いチャンスなので、ずっと考えていたさらなる進化を考えています」
竜は、何故か僕を見ると微笑んだ。
「七白。私の身体に暮らしていた者たちをどうか地上世界で受け入れてもらえる様にしていただけるとありがたい」
「分かりました。あなたが何を考えているのか、私にもわかりませんが、その事は、約束しましょう」
七白さんは、優雅な動きで、少し顔を横に向けた。
「クーマ、聞いていましたね。ネイピアに、この事を連絡して、聖地の準備を手伝いなさい」
七白さんは、下界のクーマたちに会話をモニターさせていたらしい。さらに、僕に聖地の事を説明してくれた。
ドラゴンの国、険しい岩山の奥深く、とても平坦な土地が広がっている。四方100キロのこの土地に、ドラゴンは、普段近づかない。彼らは、岩山から飛び降りて、羽ばたき大空を駆けめぐるからだ。平地では、飛び立つ時、エネルギーの損失が大き過ぎる。
何故この土地を彼らは聖地と呼び、大切にしているのかを最初、七白さんにも分からなかったらしい。おそらくドラゴンたちにも分からなかったのだろう。
風の竜が、最後に着陸するための土地だったのだ。
イマジナが、この土地に関してだけ珍しく、仲間を厳しく律したのは、ドラゴンの長たる彼だけは、知っていたからだ。
「たしかイマジナさんは、再生していると言ってましたね」
「彼は無理ね。間に合わない。私から事情を説明しておくわ」
今度は、七白さんが、悲しそうだ。どうしたのだろう。風の竜は、進化する事が出来ると言っている。
風の竜が自ら説明した内容は、こうだ。
竜自身が風になり、空高く舞い上がり、上空で身体を再生する。さすがに、ドラゴンたちは、すごい能力を持っている。
気になるのは、説明を聞いた七白さんの悲しそうな表情だ。
ネイピアやパイと違い、風の竜は、乗っている僕や星の子供たちに何の違和感も与え無いで、着陸した。
多くのドラゴンたちが、集まっていた。ネイピアや他のドラゴンたちが、僕たちや植物までも含めて竜の背中の全ての命を優しく丁寧に引き取った。
集まったドラゴンたちの悲しみが、自然に伝わって来る。
星の子供たちが、僕に話しかけてくる。
「お兄ちゃん。どうして泣いているの?」
その時、初めて気づいたが、僕も涙を流していた。星の子供たちも泣いている。
風の竜は、再生しないと気づいたのは、その時だった。
僕は、駆けよろうとしたが、その時既に遅かった。
川の中で、握った砂が、手を広げると水に奪われていく様に、竜は、空気に溶けて、風に変わっていった。
「人間よ、同じく境界を跳び越える者よ。私のために泣いてくれてありがとう」
頭の中でそう声が聞こえた。
その時、竜の風の全てが、僕の身体に吹き込んだ。
あの音は、ならなかったが、僕は、意識を失った。
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