第9話 イマジナの山で
気が付いた時には、イマジナの山に着いていた。
「黒のドラゴン事件以来、警戒が厳重になって、イマジナには、ネイピアというドラゴンが取り次いでくれる」
山の中腹にある広い場所に音も無く着陸すると、パイは、呼んだ。
「ネイピア。ネイピア」
普通の声だ。おそらくドラゴン同士テレパシーでもあるのだろう。
一目で若々しいと見えるドラゴンが、すぐ近くに舞い降りた。
「パイさん、こんにちは。七白様、お久しぶりです。勇者の皆さん、ようこそ。彼は誰です?」
僕以外の事は、知っているようだ。もちろん僕の事は分からないだろう。
時々素晴らし反射神経を見せる七白さんが、簡潔に説明した。
「この人間は、越える者で、人間の風野〈かざや〉はじめ君よ。今から、風の竜を救いに行きます」
ネイピアといわれたドラゴンは、ハッとした顔をした。
「ベクターさん。イマジナ様の肉体は、既に限界を迎えて、再生が必要な時間まで、あまり余裕がありません」
「はい。しかし風の竜の居場所は、イマジナしか、わかり得ない事では?」
「その通りです…。分かりました。僕がイマジナ様の元へお送りしましょう」
僕は、思わず山頂を見上げため息をついてしまった。中腹に着陸したにも関わらず、山頂が見えないのだ。他の山々に比べ、群を抜く高さのこの山頂までは、少し時間がかかりそうだ。
「彼は、ただの人間だからね。ドラゴンのスピードが、速すぎて、肉体に負担が、かかるのよ」
「大丈夫ですよ。ゆっくり飛んで行きます」
ネイピアは、おかしそうに、笑いながら言った。
約束通りネイピアは、ゆっくりと飛んでくれた。頂上には、ネイピアやパイの倍はあるのでは、と思われるドラゴンが目を閉じて、僕たちを待っていた。
「七白様。はるばるこんな所まで、ご足労願いありがとうございます。この通り私の肉体は、限界です。既に再生の時を迎えていますが、風の竜の居場所を伝えるまでは、と待っておりました」
「すまなかった、よく今まで、我慢してくれましたね。一緒に連れて来たこの人間が、必ず風の竜を救ってくれるだろう」
また出た!七白さんの無責任発言。勘弁して下さい。
「それは、それはありがたい事だ。君は珍しい境界人らしいね。実際見るのは初めてだが、普通の人間と変わらない気がする。今回の事は君の世界にも関わる事なので、ドラゴンの長として、すまないと思っている」
「すると、風の竜は、北の外れ?」
「はい、当然、風の竜も境界を越える事が出来ます」
「はじめの世界が、危ないな」
珍しく七白さんが、表情の読めないあの微笑が消え、真面目な顔をしている。
「どういう事ですか?」
「君の世界とこの世界が違うということは、分かるよね」
「はい、なんとなく」
「普通は、君の様に、自由に他の世界に出入りする事は出来ない。ただし、例外はある。世界の境界を自由に越える能力を持った者が、まれにいる。その能力を風の竜も持っている」
「僕も持っている。だから、僕を境界人と呼ぶのですか?」
「そうよ。正確には、境界を越える者。風の竜が北の外れの空にいる。そのまま境界を越えると、君の世界に入ってしまう。彼が落下すると、場合によっては氷河期を迎える事になる」
つまり、隕石がぶつかった様なものか。それは、まずい。
しかし、どう止める?
「風の竜の異常が、欠けらに侵入されたからとして、彼も月の光をエネルギー源にしているのですか?」
七白さんも困った顔をしている。
「彼は、特に月の光だけに頼っているわけでも無い。月の光も吸収するが、星明かりや、太陽。またこの世界が産み出す嵐や雷。火山の噴火から地震のエネルギーまで、あらゆる物を吸収している。にもかかわらず、月の欠けらに侵入されたぐらいで、異常をきたすのだろうか?私も疑問に思っている」
つまり、月の欠けらは、キッカケに過ぎない。欠けらを風の竜から回収して完了には、ならない可能性が高い。
「とにかく、風の竜に会ってみるしかない」
僕の言葉に全員がうなずいた。
しかし、その時またしてもあの音が聞こえた。
(何故、僕の目覚まし時計の音なのだ?)
そして、僕の意識は、無くなった。
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