第7話 岩山へ
気がつくと、みんなが僕を覗き込んでいた。
とても大きいグルン君がいちばん目立つ。
あわてて起き上がり、キズミ君と頭をぶつけしまった。
もちろん僕が、一方的に痛い。それでもキズミ君は、すまなそうな顔していた。
「ゴメンね」
「僕の方こそ。また、倒れたんだ」
起き上がると、腰の魔剣が、揺れた。
「そうだ。グルン君は?」
少し高い位置から心配そうに顔を覗かせていたグルン君がいた。
「はじめ君。ありがとう。おかげで、新しい爪もすっかり生えました」
まだ、少しボウッとする頭で、僕は、ゆっくりと身体を起こした。
「それは、良かった。痛みは無いかな」
「はい、もうすっかり元気です」
周囲を見回すと、見たこともない美しい獣がいた。おそらくあれが、ベクター。もっとも彼らは何かを襲って食べることはない。
「君が、ベクター君かい?」
「そうです。はじめさんですね。ヨロシクお願いします」
美しい声をしていた。
グルン君は、低くお腹に心地よく響く声だ。クーマ君は、声が高いのに心地良い。おそらく鈴を転がす様なとは、クーマ君の様な声をいうのだろう。
キズミ君は、話してるとまるで人間と話してると錯覚するほど自然だ。
ベクター君は、言いにくそうにモジモジした。
「構わないよ。岩山に、行った君の帰りが遅くなっていたことは、聞いている。ドラゴンに何かあったのかい」
岩山のドラゴンたちと定期的な話し合いをしていると、ドラゴンたちの長から深刻な相談があった、
「実は、風の竜の高度が落ちている」
キズミ君もグルン君もクーマ君も驚いた様子で、一斉に七白さんを見た。
大地の力を吸収して、永久に成長する寿命の長いドラゴンたちにも その命の器である肉体には限界がある。
長く生き続けると、内部のシステムが、上手く働かなくなったり、重力が巨大過ぎる肉体の負担になったりする。
ドラゴンたちは、自らの肉体が限界の時を迎えると、自身の身体を自分自身の炎で焼き、灰の中から子供の姿で蘇る。
たった1体、例外がある。世界で最初に生まれたドラゴンは、肉体の強さに特に恵まれていた。
そのドラゴンは、自らの肉体を一度も焼く事無く、永遠とも言える長い時間を生き続けている。
その巨大過ぎる身体は、地上に降り立つ事は、すでに無い。
永久に飛び続けるそのドラゴンは、翼が他のドラゴンより、大きく強くなり、上空の風の中で全ての時間を過ごしていた。
風の竜と呼ばれる理由だ。
高層の大気の中で、あまり高度変化せず、飛んでいたその竜が、最近少しずつ高度を下げて来ているとドラゴンたちが心配しているのだ。
「月の欠けらの影響かもしれない。しかしそうでなくても様子は見に行かないと」
七白さんは、即決だった。
僕は、魔剣を七白さんに差し出した。
「では、これを。それとも、もうひとつありますか?」
「無いわ。それに一度、はじめ君が使ったから、もう君にしか使えないわ。最初に使った人以外使えないようになっているの」
いやな予感がした。
「それって、僕も風の竜のところへ行くということですか?」
七白は、当然という顔をした。
「さあ、ドラゴンたち住む山へ、行きましょうか。空は広いですから、彼らの案内は必要です」
絵本にでも出て来そうな、木漏れ日と清らかな空気の森から一歩出ると足が止まってしまった。
いきなりとんでもない高さの岩山に圧倒されてしまった。
よほど僕が、頼りなさそうに見えたのだろう。自ら望んで、ついて来てくれた、キズミ君たちが心配そうに僕を見た。
「大丈夫よ。そのために弟のサンダルを無理やり奪ってきたの」
僕は、足元を見た。
「このサンダルは、弟さんの物でしたか?」
「大丈夫よ。弟に、水虫なんて無い事は確認済みよ」
隣で笑っていたグルン君が、そう言えばと切り出した。
「はじめ君は、まだ、抜け落ちた僕の爪を持っていますよね」
確かに僕の姿は、左の腰に魔剣という名前の物入れ、背中のデイバッグには、グルン君から抜け落ちた爪が覗いていた。
「七白様。はじめ君は、時々、気を失うようです。その状態の時にもサンダルが勝手に飛んでくれますか?」
「持ち主が、意識を無くせば翼も消えるわ」
「それなら僕から抜け落ちた爪をロープに変えてもらえないでしょうか?はじめ君と僕たち誰かの身体に結びつけておけば、彼が気を失っても大丈夫です」
七白さんを魔法使い扱いしている。そんな都合の良い事は、出来ないだろうと思った。
「こういうので、いいかな?」
すぐに出来た。彼女は、魔法使いなのだろうか?
七白さんが、作っ手くれた物は、ベルトになっていた。ベルトには、20センチ位の円筒状の刀の柄のような物が付いていて、そこから伸縮自在のロープが伸びる様になっていた。
空中や登山中は、伸ばしたロープの先を誰かに持っていて貰う事にした。
「最近は、気を失う前には、分かるので、多分大丈夫なんだけど」
しかし、キズミ君は、ロープの端をしっかりたてがみの一部に結びつけてしまった。
彼のたてがみは、人間に引っ張られた程度では、絶対に切れないらしい。
「心配性だな」
そう言った直後に、再びあの音が聞こえた。
確かに聞き覚えがある。
あれは、僕が使っている目覚まし時計の音だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます