第4話   黒の森で

 気がつくと、目の前に大きなライオンがいた。

 恐ろしげな姿とは違って、そのライオンは心配そうに僕を覗き込んでいた。


「大丈夫かい?はじめ」


 徐々にハッキリしていく頭の中で、ライオンの名前を思い出した。


「キズミ君。すまない。また意識がとんだみたいだね」


 頭を振り、起き上がると、ライオンは、元気付けようとしているのか、身体を擦りつけてきた。


 大きな身体から、大きな優しさが伝わってきた。


「ここが、グルン君を最後に見た場所なのね。最後に見たのは、どなた?」


「キツネのクーマ君です。あのふたりが、一昨日のパトロール担当だったので、栗の木のしたで待ち合わせをしていたのに、来なかったらしいです。生真面目なグルン君に限ってあり得ない事なので、クーマ君はグルン君の匂いを追跡すると僕に言ってから、追って行きました」


 それならと僕は、思った。


「つまり僕らは、クーマ君についていけば良いという事になります」


 クーマ君が何か目印を残していないか、周囲を探してみた。

 

 最初は、見逃していたが、よく見るとちょうど目線の高さの枝に黄金の毛が、ご数本結びつけられていた。

 僕は、気さくで話しやすいライオンに聞いてみた。


「キズミ君。これは、何だと思いますか?」


「クーマ君のシッポの毛だろうと思います。彼のシッポは、9本もあって全てが、金色に光輝いてますから」

 

 どうもクーマというのは、9尾のキツネらしい。


(良い印象は、無いな)


 しかし、僕たちは、クーマ君が残した目印を追跡していく事にした。


 その時僕は何かに躓き、転んだ。

 木の根っこにでも躓いたかなと思って、座って覗き込んでみると、ペットボトルのような物が、落ちていた。


 拾い上げてみたものの、何か分からず悩んでいると、ライオンのキズミ君が、それを見て驚いた。


「グルン君の爪だ。この大きさは、グルン君以外あり得ない」


「君たちの爪は、生え替わるのかい?」


「分かりません。爪が、落ちたことは、今まで無かったので」


 それは、たいへんだ。グルンというトラは、大ケガをしているかも知れない。僕は、その爪をデイバッグに入れて、七白さんと、キズミ君とで、追い始めた。


 クーマ君が残してくれた、目印を見逃さないように、ゆっくりと進んだ。


 この森を進んで行くと、誰しもがたぶん持つだろう疑問が出る。

 黒の森と名前が付いているが、森と名前をつけるほどには、木々の密度は、濃く無い。

 

「七白さん。ここはどうして、黒の森と名前がついているのですか?どちらかというと森というよりは林に近いですよね」


「そうね。ここは、やっぱりあなた達から見ると、異世界なのよ。その昔ね」


 この森の向こう側には、樹も生えない岩山が広がっている。異世界らしいが、僕たちの世界と黒の森の様に、はっきりとした、境界があるわけでは無いらしい。準異世界とでも呼ぶしかない世界の様だ。

 そしてその岩山だらけの世界には、ドラゴンたちが住んでいたが、森には、入って来なかった。


 ある日、岩山に黒いドラゴンが生まれた。そのドラゴンにも越える力があった。

そのドラゴンが成長すると、森に飛んで行き、森の生き物を襲った。

 その頃はまだ、樹木がうっそうと生えている深い森だった。


 たくさんの森の樹が、動物たちをドラゴンから守った。苛立った黒のドラゴンが、火を噴き、森を焼き払った。


 小動物たちが、仲良く暮らしていただけのこの森の生き物に、黒のドラゴンに対抗する力は無かった。


 岩山の他のドラゴンたちが黒のドラゴンを止めようとした。しかし、ドラゴンといえど、境界を越える事が出来る者は、少なかった。


 悪に染まり、巨大な姿に成長したかつての仲間をとめることは、出来なかった。

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