5、

まさかの、大失敗を犯してしまっていた。

彼からの手紙は鞄の中にいれたまま姉に渡すことを、今の今まで失念していたのだった。


「ごめん、まだ読んでないと思う。返事を聞くのは、明日以降にしてほしい」

「ええ?読んでないと思うってどういうこと?」

彼は、言い捨てて行こうとするわたしの手を掴んだ。

「ごめんなさい。本当は、まだ渡せていないの」

「いや、手紙はあなたにちゃんと渡した」

「もう、だから、わたしが姉に渡せていないから、姉は読んでないのよ」


どうも話がかみ合っていない気がする。

わたしも彼も必死だった。

振りほどこうとしても彼はわたしを離さない。


「ちょっと待って。お姉さんがどうして登場する?僕が手紙を渡したのは山吹さくらさん、あなただ。

僕は毎日、運動場を走るあなたを見ていた。

何人も走っているのに、自然と追ってしまうのはあなただった。

雨の日だって、風の日だって、カンカン照りの日だって、走るあなたを見た。

僕は図書館での勉強の合間に、数式を解く合間に、あなたを見続けてしまった。

問題を解いても、何をするにしても、あなたが結び付いてしまっている。

こんなに苦しい思いをしつづけるのなら、せめてあたってくだけようと思って手紙をかいたんだ。

読んでくれたのなら、少なくとも、ぼくという存在を知ってくれるだろ?

手紙を書く前には、話したくて、あなたの後を追ったこともある。

駅まで走る後を追って、、、息がきれて、、、追いつけなかった。

人生初の、僕の完敗だった。だから今度は待ち伏せすることにした。

手紙を渡してからは、あなたが、図書館の僕を見上げるのを待った。

だけど、いちども見上げられなかった。今日も待ったけど同じだった。

もう待てない。直接、あなたから、返事を聞かせて欲しい」


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