転生したら公爵家の《養女》な《幼女》だった件
カボチャマスク@ろじうら11月29日発売
第1話 追放、そして転生
まず最初に視界に映ったのは魔法使いのローブを纏い白骨化した人間の死体だった。
その白くひび割れた手は眼孔ほどの大きさがあるルビーの鉱石が納められたブローチを握っている。
「どうやら術式は成功したようだな」
妙に細い自分の"新しい手"で長らく連れ添ってきた"かつての身体"をどかす。相当長い時間が経ったのか部屋は蜘蛛の巣と埃に支配されている。
さて、この身体からは長きに渡って私を苦しめ続けたあの忌々しい呪いが感じられない。
となれば、することは決まっている。
「《ライト》」
手のひらに蛍の光ほどの明るさを持つ焔を発生させ、机に山積みされた古本のページを開く。
あの忌々しい呪いの為に魔導書に必要なクリスタルサーペントの紙が手に入らず、やむなく《置換魔術》でそこら辺の紙を魔導書に作り変えただけだからか劣化が酷くなってはいる。
が、この程度なら気にすることはない。
一見するとミミズが這った跡のような文章に手をかざし、それから生前に開発していた魔法を残らず新しい身体に再入力する。
低級魔法だけなら感覚とその名前を覚えておけばいくらでも行使できるが、最上級魔法ともなると魔力回路の接続・切断等々発動するのに様々な工程が必要だ。
形にして残しておかないと、さしもの『
「再入力はおおよそ終わった、なら。《クリーン》」
では、この薄汚れた部屋とはおさらばしよう。
廃屋の中央に発生した小さな竜巻は蜘蛛の巣や埃などのこの部屋を埋め尽くしているゴミを吸い尽くすと、回転を強めて壊れた窓から何処かへと飛び去っていく。
「よしよし、これで綺麗になった」
鏡のように奇麗に磨かれた机を指でなぞる。無論そこには埃一つない。
魔力回路も前の肉体とほぼ同格、あとはこの新しい身体の動かし方を熟知するだけだ。
♢♢♢
恵まれていた、とは言えない人生だった。
両親からはマトモな愛情を何一つとして受け取らず屋敷にあった書物から全てを学び、いつしか人への興味は消え失せ魔法の研究のみが全てになっていく。
王立魔法アカデミーに特待生として入学し、学年主席で卒業しても人付き合いは殆どなく魔法学者となっても独りで魔道の研究に明け暮れる毎日。
【魔力回路の効率的な開発】【呪文詠唱に代わる新たな魔法行使】【混成魔法の開発】
疑問に思ったことは徹底的に調べ上げ、やりたいことが出来るよう徹底的に研究する。
いつしかアストラという名は賢者として王国中に知れ渡るようになったが、その反動として回りには権力を欲する下賎な者ばかり集まっていた。
だがそんなもの私の知る所ではない。賢者アストラが求めるのは真理だけだ。
そしてこの世界に存在するもので解明できないものはない。
この世界を創造したとされる唯一神、その神体を解明すれば全てが解明できるはず。或いはその存在を証明することでまた新しい真理を見つけられるかもしれない。
根源元素たるマナの動きを観測できるよう開発した魔道具【ボンベ】、これを用いれば
真理を追い求めること、それこそが自分が生きる唯一の理由だった。
後はこれを世界中に設置するだけ、そんな時だ。奴らが現れたのは。
「異端者アストラに追放の罰を与える。邪神域の森で己の罪を悔いながら死ぬまで主に謝罪し続けよ」
突如研究所を襲った教会騎士団と聖女、そしてアカデミーの老害共は国王暗殺を企てたという全く身に覚えのない罪状で私を捕らえ、魔力回路封印など様々な呪いをかけて人里から追放した。
まともに魔法を行使することも出来ず、凶悪な魔獣がうろつくと言われるその地でろくに鍛えていない人間が生きていくことは不可能。
何より生き残れたとしても研究所に帰ることは出来ないし、ボンベを再び製造することは出来ない。
そこで考案したの『転生術式』だ。己の魔力回路全てを暴走させ放出されたマナで新たな肉体を再構築しそこに魂を移すという古典的な術式。
呪いに引っ掛からず発動できるこの儀式に全てをかけ、私は命を散らした。
♢♢♢
「あの世から唇を噛み締めて見ているがいい老害ども。このアストラはお前らが妬んだ魔法を以って真理にたどり着いて、見せる、ぞ……?」
机に反射される形で現れたのは見知らぬ少女だった。
どういうことだ? この廃屋には私以外誰も入ることは出来ないはず。
何処からか事情を知らない田舎娘が入り込んで来たのか?
いやその可能性はない。いま私がいる森には幾重もの人払いと認識阻害の魔法がかけられているから廃屋に入ろうという発想すら思いつかないはず。
何より、この少女は
とりあえず追い出してしまおう。とりあえず牽制の意味も込めて《マジックソード》の魔法を行使する。
その時、机に反射されて映る少女もまた自分と同じように《マジックソード》を行使したのだ。
「……まさか」
ベタではあると理解してはいるが、一応と思って自分の頬をつねる。
案の定、机に反射された少女も同じく頬をつねっており痛みと『致命的ミス』を知覚したことで泣き顔になりかけていた。
まさかこの私が
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