新しき黙示録 The new Apocalypse
(本に挟まれた、一部が欠損している手記)
形だけの椅子とテーブル、椅子の上でしゃがんでいる僕とその傍らでティーポットを丁寧に持っている従者。
色の無い、シンプルな部屋。
コップに注がれた飲み物を、人間の持つ感覚を介して味わう。
『ダージリン・アールグレイ・ティー』、ミルクやシュガーは抜き。そのままが良い。無駄な装飾が無い方が僕は好きだ。
熱気によって持ち上げられる香りによって、僕の顔は赤らめる。
「アルコール飲料でも無いのに、何故顔を赤らめてらっしゃるのですか?」
従者の言葉の無粋さに、僕は直ぐにでも飲み込まざるを得なくなった。
飲み込んでから言葉をかける。
「ある意味酔ってるけど…なんだか『えっち』じゃない?」
分かりやすい物ではない。
人間は食べ物を前にすると味覚の受容の準備を始める。この飲み物のそれは他の飲み物と違って、妖艶さを孕んでいる。
その誘惑にそそられながら、口元にそれを運ぶ。
「『えっち』…ですか。その言語に当てはめる感性は理解しかねます。」
コップの中に広がる物理現象を眺めながら、呟く。
「そろそろ不味いんだ…。」
「口に召しませんでしたか?」
僕に茶を注いだ者がそう尋ねる。僕は静かなため息をついて、頭を抱えながらぽつりぽつりと話し始める。
「僕はただ退屈だっただけなんだ。
何にも無~い場所でただただ彷徨い続けて、何をするわけでもない。何も感じない、真っ暗な場。
そこで、ちょっと想像してみたんだ。
何でも良い、とりとめのない空想。
彩のある、ある意味での…そうだな、『仮の現世』。
それがね、案外面白かったんだ。ほら、それで君も生まれた訳じゃない?」
「そうですね。」
「…色んな概念、物を考えた。
それまで考えた事も無かった。『言葉』、『物』、『時空間』、『相関関係』…まあ大体そんなものだろうか…。」
僕は空になったコップをサーヴァーの方に向けて、紅茶を入れてもらった。そしてまた大きなため息をついた。
「楽しかったあぁぁぁ…。
まあ、今となっては大体出来上がったから見ているだけでも世界は回っているんだけどね。」
沈黙が訪れる。
「そこまでは良かったんだ。初めの頃の出来も良かったしね。」
お茶を啜る。そこから僕は愚痴を言う様に話していた。
ー(千切られた跡があり、欠損している)ー
を行った訳ですか。」
「そういう事。おっ。さて、そろそろ『時間』だ。」
「始まりますね。」
僕は椅子から降りて、『僕の世界』を見下ろした。
さて、始めようか。少し乱暴だろうけど、赦してね。
これから、今までにも無い、新しい黙示録をこの神の手で、つづるのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます