No.3 不死鳥


 そうそう、僕は語り部の役割があるらしい。不思議な気分だね。

 語り部と言ったら読者と登場人物の隙間にいる様な存在だと思っていたけど、

 僕がれっきとした登場人物であり、語り部であるなんて。

 ほぼ全て知っているからかもしれない。


 皆んなに会う前に、何が出来るだろうか?

 そうだ、僕らを見ている君達に、ある鶏の話をしよう。



 ある鶏たちは、ある家で飼われていた。

 鶏たちは過去、外で寒く、雨に濡れて凍えるような経験をしていた事もあり、その安定した生活を謳歌していた。

 外は散々だった。

 毎日適量与えられる食料。安定した室温。彼らはそれを喜ばしいものとして疑わなかった。


 数か月後、クリスマス・イブの日、

 鶏たちは仲間の叫び声を聞いて目を覚ました。

 「なんだなんだ?」と動揺していた。

 鶏たちは一匹ずつ部屋に連れられた。

 そこで彼らは悟った。

「僕らは人たちに愛されていたわけではない。

これまでの事は全て、人たちのためだった。

僕らは「食料」として育てられていたのだ。」と。

 鶏たちの断末魔が聞こえる。

 鶏たちはクリスマスパーティーのプレートの主役になったとさ。



 「七面鳥の寓話」。怠惰による帰納法に飲み込まれていった者の末路。アダムとイブの楽園追放みたいだね。

 「いつも通りの生活」がいつまでも続くと思っているのかい? 

 そんなの虚構でしかない。


 でもそうだね、これじゃ暗いね。

 それじゃあ、僕らにぴったりな様に書き加えてしまおう。



 それ以来、残された鶏達は日々恐怖に震えていた。

 運命は、僕らを飼っている人間達が握っていた。人間が、誕生も、運命も、死も、司っていた。彼らに選択肢は無かった。

 その繰り返しの後、その子孫らはその現実を受け入れた。

 この世は残酷な物である、それが常套句になった。

 ある日、神達が突如決めた。

「この鶏達の何羽かに、この世を支配させよう」

 この馬鹿げた考えが、鶏達の運命を打ち壊した。

 鶏達の何羽かが不死鳥となった。

 その不死鳥達が鶏小屋を飛び出し、空を駆けた。

 するとたちまち天地がうごめき、他の生物達はその力と荘厳さに圧倒された。

 運命となったのだ、かつて運命の奴隷であった鶏が運命そのものとなったのだ。


 これは、この26羽の不死鳥達の物語の、残酷な始まり、希望の始まり。


 「⛎」 第〇話 星座と不死鳥

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る