第9話 いざ都へ

 文化祭が終わった11月中旬。


 俺は、ふとあることを思い出して、放課後の部室で、みんなに聞いてみた。

「みんな。バイクのオイル交換って、ちゃんとやってます?」

 すると。


「オイル交換? ってなんだっけ?」

 いきなりズッコケるような回答が高坂先輩の口から洩れた。


「バイク買った時に、バイク屋で言われたでしょう?」

「えーと。言われた気がするけど、忘れた」


「わ、私も……」

「あー。なんか、ありましたねえ」

「だな。あった気がする」


 高坂先輩に続き、楢崎先輩、藤原先輩、そして本郷まで。


 俺は、大きな溜め息をつきながら、ホワイトボードに、オイル交換の重要性について、マーカーで書きながら説明した。


「いいですか。バイクにとって、オイルってのは、人間の血液みたいなものなんです。交換しないと大変なんです」


 しかし、高坂先輩は、

「でも、人間は血液入れ替えたりしないよ」

 と、呑気な口調で反論する。


「物の例えです!」

 俺が大きな声で制すると、みんなは渋々ながら黙って聞くことにしたようだ。


「オイルを交換せずに走ると、バイクはどうなると思います?」


「ど、どうなるの?」

 楢崎先輩が、おずおずと尋ねてくる。


「エンジンに負担がかかって、最悪エンジンが焼きついたり、壊れます」

「えーと。バイクに乗れなくなるってこと?」

 一応、バイクに乗るのが好きだと言っていた、藤原先輩だ。


「そうです。でも、初心者は、いきなり自分でオイル交換なんて、できないから、とりあえずバイクを買ったディーラーか、バイク用品店に行って、交換を頼んで下さい」

 俺がそう指示すると、渋々ながらも、みんなは納得したようだった。


「ちなみに、新しくバイクを買った場合、最初のオイル交換は、大体1000キロ。それ以降は3000キロに一回程度、必ず交換して下さい」

 念を押すように説明した。


 さらに、もう一つ。

 ついでに、聞いておくべきことがあった。


「あと、みんな自分のバイクがリッターで何キロ走るか、そして何キロで給油すべきか、ちゃんと考えてます?」


 しかし、これにも驚くべき回答が。

「わかんなーい」

「い、いつも適当に給油してるから」

「私もー」

「俺もー」


 みんな適当すぎた。

「ざっくりでいいので、ちゃんと計算して下さい! 何もない山道でガス欠になったら、どうするんですか」

 全く、初心者にも程がある連中だと、改めて不安になるのだった。


 しかも、そのくせ、長距離を走りたがるし、ガンガンスピード出す奴らが2名ほどいるし。

 ちなみに、VTRは、リッターで大体30キロ前後。タンク容量が12リットルくらいで、10リットルで給油ランプが点灯するから、おおむね300キロ前後で給油することになる。


 バイクは、物にもよるが、車のような給油メーターがないので、自分でどのくらいで給油すべきかを計算する必要があるのだ。


 と、いうことで、まずはバイクのメンテナンスをしてもらうことになった。


 そして、1週間後。

 同じく部室で、やっとオイル交換が全員終わったという報告を受けたのだった。

 なお、ウチの姉も、同じくオイル交換を忘れていたから、ついでにやってもらった。



 11月下旬。

 いつものように、部室に行くと。

 その日、高坂先輩が、やたらと張りきって、ホワイトボードに書き込んだ文字は、


「冬休み」


 だった。

 なお、我が校の冬休みは12月下旬のクリスマス前後から1月20日くらいまで。


「みんな、バイクにも慣れてきたし、今度は京都に行こう!」

 大きな声で宣言すると、反応が良かったのは、やはりこの二人だった。


「ついに上洛じょうらくできるんですね!」

 「上洛」という、古い言葉で喜びを表現する藤原先輩。


「や、やっと京都か。長かった……」

 と、感慨深げに呟く楢崎先輩だった。


「スケジュールは、せっかくだから思いきって3泊4日くらい。1月の初めに行くよ。ついでに奈良に行ってもいいね」


 と、うきうきしながら、ホワイトボードに日程や場所を、早くも書き込む高坂先輩だった。


「ところで、みなさん。『上洛』って、なんでそう呼ぶか知ってます?」

 珍しく藤原先輩が自ら発言していた。


 みんなが首を振る中、珍しく得意げに彼女は説明を始めたのだった。

「元々、『洛』っていうのは、中国の都、『洛陽らくよう』を指した言葉ですが、平安京がこの洛陽を真似して作ったので、平安京のことも指していたんですね。やがて、その一字を取って、『洛』だけでも京都のことを指すようになったんですわ」


「へえ。さすがみやこちゃん。平安マニアだね」

 高坂先輩が、少し大げさに驚いている。


「ちなみに、京都では、左京さきょうを洛陽、右京うきょう長安ちょうあんって呼んだという説もありますね。でも、右京は居住に適さない地域が多かったので、結局、京都の中心は左京になって、市街地が左京=洛陽になったという話ですわ」

 俺も知らない話で、なかなか興味深い話だった。


 まあ、平安京のモデルが洛陽だったという話は聞いたことがあったが。


「では、せっかくですので、今回は、私が京都観光プランを考えますわ」

 と、張り切っている藤原先輩。


「じゃ、じゃあ私も」

 と、同じく幕末が京都がメインだからか、張り切って手を挙げる楢崎先輩だった。


 と、いうことで、この二人をメインに京都観光プランが練られることになった。


 完成したプランをざっくりと眺めると。


 1日目: 移動、京都観光

 2日目: 京都観光

 3日目: 京都観光、奈良観光

 4日目: 伊勢神宮観光、移動


 という感じに決まった。

 なお、突然、伊勢神宮に行きたいと言ったのは、意外にも高坂先輩だった。



 で、この京都観光のことを、家に帰って、夕食時に姉に報告すると。

 なお、両親はいつも残業して帰りが遅いので、夕食はほぼ毎日リビングで姉と二人きりだった。

「えー。京都に行くの? いいなあ。あたしも行きたい!」

 と、また子供のように駄々をこねる姉だった。


「何言ってんの。姉ちゃんは去年、修学旅行で行ったでしょ」

 そう、姉の修学旅行は高校2年生の時。当時は、まだ東京にいたから、東京の高校だったが、行き先は京都だった。


「修学旅行なんて、決められたルートしか回らないし、つまんないよ。ちゃんと回りたい」

「ダメだって、姉ちゃん。家で大人しくしてろよ」

「えー。つまんない。あたしも『歴研』入って、一緒に行く」

 ついに無茶を言い出す姉。


「もう卒業まで3か月くらいしかないのに?」

 と、俺が言うと。

「じゃあ、一瞬だけ入って、すぐやめる」

 と、また変なことを言い出す姉だった。


「バカなこと言ってないで、受験勉強しろ。土産は買ってきてやるから」

 そう言ったのが、失敗だった。

「え、お土産買ってきてくれるの!」

 目を輝かせて、喜ぶ姉だった。


 結局、

「じゃあ、八ツ橋と、扇子と、がま口のポーチと、手ぬぐいと、かんざしと、椿油つばきあぶらと……」

 全部言い終える前に、俺は呆れていた。

「どんだけ買わせる気だよ。バイクじゃそんなに積めねえって」

「ケチぃ」

 と、口を尖がらせて、可愛らしく、不平を言ってくる姉だったが。

 そんなことをしても、無理なものは無理だ。



 そして、もう一人。

 姉や高坂先輩との仲直りの件で、仲裁してもらい、代わりに勉強を見る約束をしていた、りっちゃんだった。


 いつものように、本郷家に行って、りっちゃんの勉強を見ていたら。

「鹿之助さん。冬休みに京都に行くって、お兄ちゃんから聞きました」

 やたらと、張り切きったような、期待のこもる眼差しを向けてきた。

「うん。まあ、そうだけど……」

 なんか嫌な予感がした俺は、ちょっと言い淀んだ。

「いいなあ。私、京都って行ったことないので、行きたいです」

「じゃあ、お土産買ってこようか? あ、でもお兄ちゃんに買ってもらえばいいのか?」

 そう言うと、途端に目を輝かせる、りっちゃん。

「そんなことないです! お兄ちゃんはセンス悪いし、私は鹿之助さんに買ってもらいたいんです!」

 その純粋な、けがれのない、眼差しと勢いに、ちょっとたじろぐ俺に対し、

「でも、バイクって、そんなに荷物積めないですよね。だったら、私……」

 遠慮がちにそう言って、彼女は机の上に置いてあった、雑誌を手に取って、とあるページを開き、俺に見せるのだった。

「これだけでいいです」

 そこに書かれてあったものは。


 毛筆の和文具や、扇子が描かれた、京都にある雑貨店のようだった。雑誌には、雑貨店に売っている、和物の雑貨の写真が飾られていた。

「これ?」

「はい。この中から、鹿之助さんのセンスで適当に一つだけ選んで下さい。私はそれだけで十分です」


 相変わらず、この娘は、小さいのにしっかりしているというか、きっと、俺に気を遣って遠慮しているのだろう。


 ウチのワガママな姉とは大違いだった。


 何とも可愛らしくて、素直で、放っておけないところがある、この娘の願いを俺は聞き届けることにした。

「わかった。買ってくるよ」

 そう告げると。

「わぁ。ありがとうございます」

 深々と頭を下げてきた。


 相変わらず礼儀正しくて、可愛らしい。まさに姉が言うように「最近のスレた女の子にはいない」タイプだった。



 そして、あっと言う間に、冬休みがやってきて、年が明けて、1月5日、火曜日。

 俺たち「歴史研究部」が、ついに京都に旅立つ日がやってきた。


 待ち合わせは、いつもの最寄りのインター近くのコンビニ。

 ただ、今回は、「時間がもったいないから」という、藤原先輩の提案で、待ち合わせ時間が、なんと早朝の5時だった。


 いくらなんでも早すぎるだろう、と思いながら、早起きして準備。

 まだ眠っている姉や、両親を起こさずに、そっと家を出て、コンビニに向かった。


 季節は冬。さすがに冬の早朝は寒い。

 なので、俺は、ヒートテック上下を着込んだ上に、父が持っている山登りに使うような分厚いコートを借りて羽織り、ジーンズ姿で、カイロも装備していた。

 直前にバイクに取り付けた、リアキャリアに着替えなどの荷物が入ったリュックを入れて出発。


 午前4時45分。

 冬の早朝の真っ暗な街、眠っている街を駆け抜けて、コンビニに到着。


 すでに待っていたのは。

 ライダースジャケット、黒のジーンズ、緑色のフルフェイスヘルメット、そして防寒用グローブ、ショートブーツ姿の高坂先輩。


 そして、革ジャンに、濃い青色のジーンズ、赤いジェットヘルメット、同じく防寒用グローブにブーツ姿の楢崎先輩の二人だった。


 二人は、親友らしいから、一緒に来たのだろう。

 ライムグリーンのニンジャと、白のマジェスティが仲良く並んで停まっていた。


 その横にバイクを停める。

「おはようございます。寒いですね」


 俺がヘルメットを脱いで挨拶すると。

「お、おはよう」

 と楢崎先輩いかにも寒そうに、手をすり合わせ、

「おはよう! 寒いけど、いい天気になりそうだよ」

 と、朝から元気のいい、高坂先輩が声を上げた。


 待つこと5分。

 さすがに今日はスカジャンではなかったが、冬用の分厚いコートに、黒いジーンズ、白いジェットヘルメットに、防寒用グローブ、スニーカー型のバイク用シューズを履いた、スカイウェイブに乗った、本郷がゆっくり入ってきた。

 しかも、何故か格好をつけたかったのか、黒いサングラスをかけているから、傍から見たら、柄の悪い兄ちゃんに見えた。


「おはようっす。つーか寒ぃ! 冬のバイクはマジ、ツラいっす」

 と、俺たちの気持ちを代弁するように、声を上げた。


 そして、最後。

 時間ギリギリに到着したのは。


 派手なエンジン音を響かせ、相変わらず、荒い運転で、タイヤがロックするような勢いでブレーキングして入ってきた、KTM RC250に乗る、藤原先輩だった。

 しかも、今日もやはりライダースーツの上下を着て、オレンジ色のフルフェイスヘルメットをかぶっている。


「すいません。遅くなりましたわ」

 と言いつつ、笑顔の彼女。


 今日の主役は、ある意味彼女なのだが。



 とりあえず、メンバーが揃ったところで。

 俺たちにとって、初のロングツーリングになりそうなので、俺はみんなに説明をすることにした。


「みんな。今日はかなりの長距離を走ります。なので、一応、バイクの知識が多少はある、俺が先頭を走ります。2番目以降は楢崎先輩、本郷、藤原先輩、そして最後尾が高坂先輩です」


 ところが、

「えー、一番後ろなんてヤダ!」

 早くも不満を漏らす高坂先輩と、

「ですよねー。スピード出して、ちゃっちゃと京都に行きたいですわ」

 と藤原先輩が文句を言ってきたが。


「だからこそです! あなたたち、二人は飛ばしすぎです。今日は、長距離なので、ゆっくり行きますからね」

 俺は有無を言わせない口調で、そう告げる。


 ここから、京都までおよそ370キロはある。高速道路を使っても、時間にして、4時間半はたっぷりかかる。

 それも休憩を挟んでいれば、さらにかかり、5時間以上はかかるはずだ。


 事故だけは起こしたくないから、慎重を期して、俺が先頭を走ることにしたのだ。


 とりあえず、さすがに高速道路を使わないと、短縮できないので、全員了承の上で、高速道路を通るルートを、全員に示した。


 途中休憩は、時間配分を考え、中央高速道路の辰野たつのPA、恵那峡えなきょうSA、東名高速道路の守山もりやまPA、そして最後に名神高速道路の大津おおつSA、とした。


 燃費がいいスクーター組には不要かもしれないが、途中のSAで給油もする予定。



 と、いうことで、俺が先導して走り始めたが。

 寒い。


 まあ、当たり前だが、真冬の1月の早朝だ。

 しかもバイクというのは、カウルやウィンドシールドの有無によっても、多少は違うが、基本的には、吹きさらしの中を生身で走るから、当然風が直接当たって、寒さが体にこたえる。


 バイク乗りは、夏は暑いし、冬は寒い。

 その過酷な環境に耐えて、それでも走らないといけない。


 おまけに、俺のバイク、VTR250がそもそもネイキッドという、いわばエンジンむき出しのバイクで、カウルも何もないし、ウィンドシールドもないから、風の影響をモロに受けてしまい、寒すぎてスピードが出せない。


 従って、法定速度ギリギリの100キロ出るかどうかというスピードで、中央高速を走った。


 さすがに、強気の運転をする高坂先輩と、スピード狂の藤原先輩はダルそうにしていたが。



 やがて、出発から4、50分ほどでようやく諏訪湖を抜ける。

 岡谷おかやJCTをそのまま真っすぐ進む。

 以降の道は、俺たちの誰もが走ったことのない、未知の領域だった。


 右手に木曽山脈、左手に南アルプスの山々を見ながら、ようやく明るくなってきた道をひた走る。


 最初の休憩を辰野PAで取った後、出発から2時間ほどで、恵那峡SAに到着。

 各々バイクを停めて降りる。


「寒い寒い! トイレトイレ!」

 と言って、真っ先に本郷がトイレに駆ける。

 俺や他のみんなもトイレ休憩だ。


 そう、冬のバイクの天敵、寒さ。当然、トイレが近くなる。


 みんながトイレから戻ってくるのを待って。

「とりあえず、先に朝食を食べますか」

 と言って、朝食コーナーを探したが、まだ午前7時台なので、ほとんどやっていなかった。


 俺は、女子が3人もいるから、気を遣って、シャレたカフェにでも入ろうとしたのだが。


 その前に、

「あるじゃん、朝食。あれでいいよ」

 高坂先輩が指さしたところにあったのは、24時間営業の立ち食い蕎麦屋だった。

「あんなんでいいんですか? もっとシャレたところの方が……」

 と言いかける俺に、


「ああ、そんなの気にしないって。寒いから、蕎麦食べたいし」

 と言って、彼女は女子2人を連れて、さっさと立ち食い蕎麦屋に入って行った。


 だんだん、彼女たちの女子力落ちてる気がするなあ。と、いうかバイク乗りらしくなってきたというか、男らしいというか。


 そして、みんなで、素早く蕎麦を食べた後、ベンチに座っていると。

「ここ、もう岐阜県ですね」

 と、俺が口にすると。

「そうなの? ついに来たね、美濃国みののくに。斎藤道三の本拠地まであと少し!」

 やたらテンションが高い高坂先輩だった。


 斎藤道三といえば、司馬遼太郎の小説「国盗り物語」などでも有名で、戦国時代に下剋上げこくじょうを体現した、典型的な人と言われる武将だ。

 娘の帰蝶きちょう濃姫のうひめ)が、織田信長に嫁いだことでも有名だが。



 この恵那峡SAで、念の為に給油し、再出発。

 散々、文句を言ってた割には、後ろの藤原先輩と、最後尾の高坂先輩は、大人しくついて来ていて、無理な追い越しはしていなかったので、少し安心した。


 高速道路はやがて、東名高速道路に入り、左手に、巨大な名古屋市の市街地を見ながら、岐阜県を横断する。

 守山PAで一旦、休憩に入る。


 再び出発し、名神高速道路に入り、やがて、山あいの小さな集落の近くを通るが、ここに来た時、最後尾の高坂先輩のスピードが落ちた。


 マシントラブルか、と心配したが、そうではなかった。


 この辺りの地名は、「関ヶ原せきがはら」だったからだ。

 そう、かつて東西両軍に別れて、天下分け目の戦が行われた場所だ。

 高坂先輩の横顔は、その盆地を見つめていた。


 あれは、絶対「見に行きたい」と思っている顔だな、と思った。


 旅程は順調で、午前9時45分頃。

 最後の休憩スポット、滋賀県の大津SAに到着した。


 ここは、かなり大規模なSAで、巨大なフードコートや、土産物店が多数ある。


 そして、俺たちはテラスに上ってみる。

 そこからは、道路の向こう側に、うっすらと青い水をたたえた琵琶湖びわこが見える。そう、日本一大きい湖である。


「おお! あれが琵琶湖か。初めてみたけど、海みたいね。でかいなあ」

 高坂先輩が、大げさなくらい大きな声で、感激しているようだった。


「京都まで、あと少しね。長かった……」

 と妙に感慨深げに、楢崎先輩が、


「そうですね。憧れの京の都、堪能しますわ」

 と、藤原先輩も、期待に胸を膨らませているようだった。


 本郷は、

「にしても、バイクって寒いなあ」

 と、風情もへったくれもない一言を上げていたが。


 再度出発。

 そこから京都までは残りわずかだった。


 京都東ICで、高速を降りた俺は、とりあえず、近場のコンビニに入った。

 藤原先輩に聞くためだ。


 彼女のところに行って、

「ここから先はお任せしていいですか?」

 と尋ねると、嬉しそうな笑顔で、


「うん。任せておいて」

 と言って、先頭を交代した。


「ついに来たね、京都」

 と、感慨深げに、辺りを見回す高坂先輩。


「いろは。ここ、まだ山科やましな。つまり、まだ京都の全然はずれだよ」

 と、たしなめるように言ったが。


「いいんだよ、蛍。京都に来たっていう実感が持てれば」

「ふふふ、そっか」


 本郷は、

「京都って、どうも古臭いイメージあるのと、あと修学旅行生と、観光客でごった返してるイメージなんすよね」

 と文句を言っていたが。


「大丈夫よ、本郷くん。有名なところも行くけど、ちょっとマニアックなところも行く予定だから、あんまり人がいないかもだし」

 藤原先輩が、張りきって、明るい声を上げていた。


 そして、出発する俺たち。

 藤原先輩が最初に向かったのは、超有名な、あの観光スポットだった。

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