ドロイドの谷

第31話 新たな刺客

 ヤマナカユウト

 職業 平民

 レベル 44

 HP 107 

 MP 53

 ちから 178

 かしこさ 13

 みのまもり 13

 すばやさ 178

 みりょく 13


 スキル E 底力 レベル3(体力が10以下の時に攻撃力+20)

     D 逆境 レベル5(相手の方が能力値が高い場合、全ステータス+17)

     A ど根性 (HPが2以上の時、1日に1度だけ致死量のダメージを受けてもHPが1残る)

     S 死してのちむ (HPが1の時、ちからとすばやさのステータスが倍になる)

     S 孤高 レベル2(1人で行動する時、全ステータス+25)

     A ステルス レベル 2(透明化)持続時間3秒 消費MP40

     S イリーガルセンス (超感覚、第六感)


『レベルアップポイント 20』


 馬車に揺られながら、ステータスを確認する。

 ダンジョンに挑む前と比べて、レベルは13も上がっていた。

 もちろん、レベルアップで得たポイントは『ちから』と『すばやさ』に全て振っている。スキルのレベルもそれぞれ上がっており、自分の成長が実感できた。


「あと三十分でドロイドの谷に入る。

 皆、気を引き締めろ!」


 エルの檄が飛ぶ。


ーーーーーーーーーー


 夕食後の作戦会議。

 エルはこのドロイドの谷に入る直前と、谷を抜けた直後が最も刺客が襲ってくる可能性が高いと、俺たちに話した。

 刺客から見れば、谷に入る直前にターゲットにダメージを与えれば、後は谷のモンスターがターゲットを倒してくれるし、もし無事に谷を抜けても、そのターゲットはかなり疲弊しているので、楽に倒すことができる。

 刺客も被害は最小限に抑えたいため、街で仕掛けて下手に問題を起こすよりは、人が誰も寄りつかないドロイドの谷近辺の方がやりやすい、ということだった。


「敵も俺たちが文書を持ってると確信してるわけじゃない。

 隙は見せるなよ」


 エル曰く、スカンビアからジークリード王国へ向かうパーティーは俺たちだけではないらしい。いくつかのパーティーがダミーとして、俺たちとは違うルートでジークリード王国へ向かっているようだった。さすがミリオム。これなら、敵も戦力を分散せざるをえない。


「敵は一つじゃない。

 いろんな都市や街の奴らが俺たちを狙っている。

 一度、本格的に疑われれば、俺たちに休まる暇はなくなる」


 前言撤回。

 ミリオムはなんて無謀なことをしているんだ。

 もっといい作戦はなかったのか。


「ミリオムさんのために死ぬ気で頑張れ」


 作戦会議の最後、鋭い目つきで放ったエルの言葉に、桜がごくりとつばを飲みこんだ。


ーーーーーーーーーー


 ドロイドの谷に向かって、馬車は変わらず走り続ける。


 突然、レジーナが叫んだ。


「二キロ後方、馬二頭!

 時速は約四十キロ!!」


 緊張が走る。

 こちらの速度は七キロ。

 桜と目配せし、馬車の後方へ。

 じっと目をこらす。

 長い直線の道。敵の姿が見えた。

 馬にまたがった敵が二人、ぐんぐんと差を縮めてくる。


「これ以上スピードは上げられないんですか!?」

「だめだ! 今はこれが最速だ!!

 なんとか三十分耐えきれ!!!」


 ドロイドの谷には底に大きな魔石があり、それに引き寄せられる形で強力なモンスターが集まっている。対して、谷の斜面は底での争いに敗れたモンスターの巣窟。強さはそれほどでもないが、数が多い。

 そこで俺たちは、昨夜、斜面をエルのスキルで一気に駆け抜けるという作戦を立てた。この作戦を実行するために必要なことは、谷に入る直前で敵に妨害されないこと。

 つまり、刺客が現れたのなら、倒すか振り切らなければならない。


「あたしに任せな!!」


 馬車から飛び降りようとするレジーナ。

 そんな彼女を、俺と桜は慌てて止めた。

 

「待ってください!

 レジーナさんがいないと、ドロイドの谷には入れません!!

 行っては駄目です!!」

「だぁぁ! くそっ!!

 そうだったな。悪い」


 落ち着きを取り戻したレジーナを見て、思わず安堵の息が零れる。

 俺の『イリーガルセンス』を凌ぐレジーナの超感覚。

 これがないと、ドロイドの谷をまともに通ることはできない、とエルは言っていた。


「桜! 『ディファンド』の準備はできてるか!?」

「はい! いつでもいけます!!」


 ドロイドの谷まで残り三キロ強。

 敵は馬に乗った二人。

 ここが正念場だ。


「敵が近くまできたらこちらから仕掛けましょう。

 左の敵をレジーナさん。右の敵を俺が。

 桜は俺たちとエルさんの援護を」

「わかった!!」

「はい!!」


 ナイフを出現させる。

 狙いは敵の馬。

 罪悪感はあるが、これが一番確実だ。

 

 敵との距離はあっという間に十メートルほどに。

 ナイフを構える。

 隣には石を持ったレジーナ。


「あと二メートル近づいたら仕掛けます」


 俺の言葉にレジーナが頷いた。


 こちらにはしっかりとした足場がある。

 さらに、敵は進行方向から攻撃が飛んでくる位置。

 通常よりも、物がより速く感じるはずだ。

 地の利はこちらにある。


 敵もそれが分かっているのか、十メートルより迂闊に距離を詰めてこない。

 膠着した状態が続く。


「どうしましょう。

 このまま谷に行っていいと思いますか?」

「いや、こいつらはここで始末する。

 何か嫌な予感がする」


 敵に鋭い視線を向けるレジーナ。

 その言葉が、ただ戦いたいがために言ったことではないと感じ、悠人は覚悟を決めた。


 ならば、まだ距離はあるが仕掛けるか?

 もちろん、外す可能性は高い。

 しかし、この状況が谷の目前まで続くよりいいかもしれない。

 一発で仕留める必要はないんだ。

 外れても、その後たたみかければいい。


「分かりました。

 では、五秒後に攻撃をしかけましょう」

「いや、待て。

 もう少し様子を見よう」


 その言葉に、悠人は思わずレジーナに顔を向けた。

 レジーナの視線は変わらず、二人の敵に注がれている。

 そこに、いつもの陽気で狂気な笑顔はなかった。


 もしかして今、俺が思ってるよりもヤバい状況なのか??


 思考を巡らせたのも束の間、左の敵が動いた。


「来るよ!」


 レジーナの声。俺と桜の気が引き締まる。

 俺は本能的にナイフをしまい、腰の剣に手をかけた。


 左の敵が右手をマントに隠れた腰に当てる。

 その右手が、ゆっくりと前に出された。

 俺と桜は目を疑った。

 ありえないものが、そこにはあった。


「……銃」


 桜が呟く。

 『イリーガルセンス』が、激しく反応した。


「下がって!!」


 レジーナを押しのけ、前に出る。

 

 敵の親指が銃口の奥にあるパーツを下げる。

 カチリと音が鳴った。

 人差し指が引き金に掛かる。

 次の瞬間、地を這うような重い音と共に、拳銃から弾が発射された。


 弾が見えたのはほんの一瞬。

 軌道を予測し『イリーガルセンス』が激しく警告を上げる箇所に剣身を合わせる。

 もちろん、これで防ぎきれるとは思えない。

 だが、威力を少しでも下げ、その後は俺の体で受け止める。

 俺にはスキル『ど根性』がある。

 一発ならどんな攻撃でも耐えられる。

 後ろのみんなには、ダメージを与えさせない。


 弾が剣身に当たった。

 重い感触が両手に伝わってくる。

 だが、それも一瞬だった。


 弾が床に落ちる。

 弾は数回跳ねるとコロコロと転がり、馬車の外、地面に落ちていった。


 それは銃弾であり、銃弾ではなかった。

 それはプラスチック製のBB弾だった。

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