第17話 足手まとい

 死ぬ間際ってこんなに時間がゆっくり感じるのか。桜、大丈夫かな?


 ブンッ!


 なんだ、今の音?

 何かスキルでも獲得したのか?

 まあ、今さらって感じはするが・・・


 俺は期待をせずに目を開けた。


「スキル S イリーガルセンス レベル1 (異常な感覚で危険を察知する)」


 イリーガルセンス?

 なになに、危険を察知するだと?

 

 目の前に現れたスキルを読み終わった瞬間、俺の脳に電気のようなものが走った。その電気は、俺の体を無意識に動かした。

 男の拳が、俺の顔の横を物凄い勢いで通り過ぎていく。


 なんだ? 体が勝手に動いた。


 男は驚きで目を見開いていた。

 その表情を俺が見たのも束の間、男の姿が一瞬で目の前から消えた。

 直後、また同じように俺の脳に電気が走る。

 後ろ! 瞬時に膝が曲がる。

 俺の体はまた無意識に動いていた。

 男の攻撃は空振りに終わる。

 

「どうなってる?」


 男が呟いた。

 俺が知りたいよ!


 男は俺のことを危険だと認識したのか、距離をとっていた。

 いつの間に移動したのだろうか?

 俺と男には20メートル以上の距離があった。


 しかし、また男の姿が消えた。

 同時に脳に電気が走り、俺はバク転をした。

 うおっ! 初めてバク転した!!

 一瞬、自分がバク転をしたことに驚いたが、すぐに構えをとる。

 どうやったのか分からないが、男は目の前にいきなり現れて、足を振り上げていたのだ。しかも、攻撃がかわされたというのに、とても嬉しそうな表情をしている。

 なんだこいつ。気持ち悪っ!


「初めてだぜ。

 人間にここまで攻撃をかわされたのは。

 お前、イリーガルセンスを身につけたな?」


 男はニヤニヤしながら言った。


 嘘だろ? なんで分かったんだ?

 

「まさかこんなにも楽しめるとは。

 感謝するよ。さあ、もっとやりあおうぜ!!」


 くる! そう思ったが、あの電気は走らなかった。男は一歩踏み込んだ後に立ち止まっていた。


 どうしたんだ?

 男の表情から、先程の気持ち悪い笑顔が消えている。代わりに、眉がつり上がり、怒りがあらわになっていた。


「くそっ! あのじじい!

 さっさと終わらせろだって?

 お前のミスだろうが!!」


 男は急に文句を言い始めた。

 意味不明なことを言っていた男だったが、1つ大きなため息を吐いた後、残念そうに俺に言った。


「すまねぇな。

 戦いは終わりだ」


 そう言って、男は右手を前に突き出した。


「カタルシス」


 男がそう呟くと手のひらから白い光が生まれた。それは男の前方にあったフロア一面に解き放たれた。


 俺の脳に電気が走ったが、俺の体は動かなかった。


・・・・・・


 くそっ!

 楽しい時間がもう終わっちまった。あいつとならもっとギリギリの戦いができただろうに。


 光が消えた。もちろん俺の目の前に、あの平民の姿はなかった。

 スキル、カタルシスは全ての生物を浄化するスキルだ。この光に触れた生物はどんなものでも消え去ってしまう。

 こんな狭い場所じゃ回避は不可能だろう。

 本当に残念だ・・・

 

 まあしょうがないか。これも仕事だしな。

 さっさと帰るとするか。


「イ・ゲラ・ヴァン・バベル・・・」


「まてまてまて!

 あの平民はまだ死んでおらんぞ!!」


 急にしわがれた声が頭に響いた。

 

「はぁ? 何言ってるんだよじじい!

 カタルシス使ったんだぞ?」

「カタルシスを使ったのか?

 まさか他の人に見られておらぬよな?」


 まだそんなこと言っているのか。


「だから大丈夫だって。

 メティスを持つような奴なんてそうそう現れねぇよ! それより、平民が死んでねぇってどういうことだ?」

「そやつはまだこっちにきておらんのじゃ」

「またじじいがミスったんじゃないのか?」

「それはない! 

 確実に組み込んだはずじゃ!!」


 急に声に怒気が含まれた。

 声が脳内で反響する。

 

 うるせぇ!!!


 と言いたかったが、これ以上、機嫌が悪くなると帰ってからめんどくさいことになりそうなので言うのはやめた。本当にめんどくさいじじいだ。

 それより、平民が死んでないってどういうことだ? 確実に始末したはずだが・・・


 俺は周りを見渡した。

 

 おいおいマジかよ・・・


 なぜかあの平民はフロアの入り口にいた。

 先程逃げたはずの女と一緒に。


・・・・・・

 

 足手まとい


 この言葉が私の頭の中でこだまする。

 分かっている。私を逃すための口実として悠斗くんが言ったことは。でも、今のこの状況では、私が足手まといであることは確かだった。


 今の私なら、ピンチの時でも一緒に戦えると思っていた。悠斗くんの助けになれると思っていた。

 でも、それはただの自惚れだった。

 

 今思えば、モンスターと戦うのはいつも悠斗くんで、私は安全な後ろにいただけ。

 悔やんでも悔やみきれない。

 もっと勉強していれば。もっとスキルを獲得していれば。もっと私に知識があれば・・・


 ブンッ!


「スキル C 学ぶ者 → A ハイブロー(知識人。他人がもつスキルを3回連続で見た時、そのスキルを獲得する(常時スキルは獲得できない) MPとかしこさがより上がりやすくなる)に進化しました」


 うわっ!


 急に目の前にステータスのようなものが現れた。私は驚いて動かしていた足を止めた。


 何これ? 


 私は急いで目の前に現れたものを読んだ。

 どうやら持っていたスキルがレベルアップしたみたいだ。


 もしかしたらまだ悠斗くんの役に立てるかも。

 そんな希望が湧き上がってくる。

 私のできることを探そう。

 私は急いでステータスを開いた。


ワタナベサクラ

 職業 勇者

 レベル 16

 HP 52/115

 MP 50/245

 ちから 10

 みのまもり 55

 かしこさ 180

 すばやさ 74

 かっこよさ 3

 

 スキル S 炎帝 レベル1 (炎を自由自在に操る)

     E シャイン レベル9(光の玉を生み出す 明るさ範囲:9メートル)消費MP 5

     B ディファンド レベル6 (壁を生み出す 強度:120) 消費MP 25

     C ヒアリング レベル6(超音波で周りを認識する 範囲:6メートル)消費MP 10

     B ヒール レベル7 (HPを70回復させる) 消費MP 20

     A ハイブロー(知識人。他人がもつスキルを3回連続で見た時、そのスキルを獲得する(常時スキルは獲得できない) MPとかしこさがより上がりやすくなる)


 レベルアップ『ポイント30』


 そうだ! レベルアップでMPも上がっているんだった。

 いける! これなら悠斗くんの役に立てる!!


「MPにポイント30!」


 MPが112になった。

 私は振り返り、無我夢中で来た道を走った。


・・・・・・


 体が動かない。

 俺は瞬時に理解した。この攻撃はかわせないということを。


 今度こそ死んだな。

 2度あることは3度あるということわざがあるが、3度目の正直ということわざもある。

 今回はどうやら後者のようだ。

 死はどうしても俺を逃がしたくはないらしい。


 俺の右手を誰かが握った。

 もうお迎えが来たみたいだ。


「悠斗くん」


 小さな声が聞こえる。

 どこかで聞いたことがある声だ。

 いや、この声は・・・


 目を開けると目の前に桜がいた。


「桜!?」


 桜は急いで俺の口を塞いだ。

 そして無言でフロアの中心にむかって指をさした。

 そこには俺たちに背を向けているあの男がいた。

 誰かと喋っているかのように1人でぶつぶつと呟いている。


 なんであいつは俺たちに背をむけているんだ?

 桜はなんでここにいるんだ??

 なんで俺は生きているんだ???

 

 様々な疑問が俺の頭の中で飛び交った。

 そんな俺をよそに、桜は涙を浮かべながら、


「間に合ってよかった!」


 と小さな声だがはっきりとそう言った。

 そして急に俺をギュッと抱きしめた。

 俺の胸に柔らかい感触が伝わってくる。

 その瞬間、俺の頭の中で飛び交っていた疑問は全て吹き飛んでしまった。

 

 当たってる! 当たってるよ桜ー!

 やばい。何も考えられない。


「悠斗くん、聞いていますか?」

 

 いつの間にか桜は俺から離れていた。


 はぁ、至福の時間だったな。

 俺は今の一瞬のために異世界に来たのかもしれない。こんなに可愛い子にハグしてもらえるなんて・・・


「悠斗くん!」


 少し怒った表情で言う桜。

 俺はそれを見て、急いで気を取り直す。


「ごめん、ごめん。で、どうしたんだ?」

「1つ作戦があるんです」

「作戦? でも、あいつはおそらく瞬間移動ができるんだ。作戦を立てたところでかわされてしまう」

「大丈夫です。見てましたから。

 それを含めた作戦です!」


 そう言って桜は、真剣な表情でその作戦を話し始めた。


・・・・・・


 いける!


 桜の考えた作戦はシンプルだったが、あの男に

一泡吹かせるには充分な作戦だった。

 俺と桜は顔を見合わせる。

 失敗は許されない。一発勝負だ!

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