第15話 化け物だ!

 おいおい、嘘だろ??

 ということは、親玉以外にもカメレオンのモンスターが他にいるってことか???


「ヒール!」


 桜が叫ぶ。

 俺のHPが77まで回復する。

 

「ありがとう、桜!」


 桜が頷いたのも束の間、今度は桜の体が俺のところまで吹っ飛んできた。俺は桜を受け止める。


 やばいな。これで入り口から2人とも遠ざけられてしまった。逃がす気はないってことか。


「大丈夫か?」

「はい、なんとか」


 意外にも、桜はあまりダメージを負ってはいないようだ。


「当たる瞬間にディファンドでガードしたので」


 どうやら、敵の攻撃を感知した瞬間にヒアリングをやめて、ディファンドを使ったみたいだ。

 結構、器用だな。

 とにかく、ダメージが少ないようでよかった。


「ヒアリング。

 悠斗くん。右2メートルと左斜3メートルに小さいモンスターがいます!」


 とにかくやるしかないか!

 俺は桜が指示した右2メートル先の場所に向かって剣を振った。何かが当たったのを感じる。

 すると、1メートルほどのカメレオンがその場に急に現れて倒れた。


 雑魚モンスターもでかいな。

 だが、雑魚モンスターなら1発で倒せるぞ!


「しゃがんで!」


 桜が急に叫んだ。

 俺は反射的にしゃがむ。

 直後、俺の後ろの壁にひびが入った。


 危ねぇー! 間一髪ってところか?


「悠斗くん! あまり私から離れないでください!

 ヒアリングの範囲外になるので!!」


 桜は目をつむっていた。

 どうやら、ヒアリング以外の情報を遮断しているようだ。


 ここにきて桜が頼し過ぎる!

 

「そのまま左に7歩進んでください!

 そして前に3歩です!」


 雑魚モンスターを倒しながら、親玉の攻撃をかわす時間が続く。見えない敵に神経をすり減らし、俺も桜もぎりぎりの状態で戦い続けた。

 額から汗が流れ落ちる。

 しかし、同時に2人の息はどんどんと噛み合っていった。


 いける! この調子なら、あのでかい親玉まで近づいて攻撃できる! 


 やっと勝機が見え始めたその時、桜の震えた声が希望を絶望に変えた。


「悠斗くん。ごめんなさい。

 MPが切れてしまいました」


 マジで!!!

 

「MP回復薬は?」

「もう使いました」


 桜の目に涙が浮かび、汗と一緒に頬を伝う。


「ごめんなさい」

 

 頭を下げる桜。



 俺は一体何をしてるんだ?


 桜は慣れない戦闘ながらも、目をつむりながら戦い、実力以上の力を発揮してくれた。

 俺は桜の指示に従うだけ。ただそれだけしかしていない。なのに桜を泣かせたうえに、頭まで下げさせて・・・


 急に腹に強烈な痛みを感じる。

 そして、俺は後ろの壁に叩きつけられた。

 壁に今までで1番大きなひびが入る。


「悠斗くん!!!」


 桜の叫ぶ声が聞こえる。

 俺のHPが1を表示した。


「つかまえた」


 俺は左手で、がっしりとモンスターの舌を握った。モンスターの舌が戻っていく。同時に俺の体は宙に浮き、モンスターへ向かって物凄いスピードで一直線に向かって行った。

 俺は剣を持った右手を前に突き出した。

 

 左手を離す。しかし俺の勢いは止まらない。

 剣先に何かが触れた。それでも止まることなく俺は進んでいく。


 急に重みが消えた。

 俺の体も勢いを失い、地面に衝突した。

 

 やばっ! ダメージくらったか?

 いや、生きてる。大丈夫だ。

 

 ボスは?


 俺は急いで体を反転させる。

 しかしボスの姿は何処にもなく、変わりにお金と不思議な球がフロアの真ん中に落ちていた。

 どうやら無事に倒せたみたいだ。


 よかったぁ。


「悠斗く〜〜〜〜ん!!!」


 涙でくしゃくしゃの顔で桜がこっちに向かって走ってきた。

 桜はどんな顔でもかわいいな。


「死んじゃったかと思いましたよ〜」


 桜は両手を広げて飛び込んできた。

 俺はひょいと桜をかわす。

 桜は勢いそのまま、地面にヘッドスライディングをした。


 ごめんな、桜。やっぱりHP 1の時に来られると怖いんだ。

 

「さては今、HP 1ですね?」


 桜はすぐに振り向き、俺を指差した。


 うっ、鋭い。


「でも、今回はそのスキルに感謝ですね!」


 はぁ、もうかわいすぎ!

 世界一、いや宇宙一だよ。



「おぉ、こいつを倒したか!」


 突如、後ろから声がした。

 俺と桜に緊張が走る。一瞬、顔を見合わせた後、急いで声がした方を見た。

 

 そこには、1人の男がいた。

 歳は20代前半くらいだろうか。

 筋肉質で引き締まった体に、整った顔立ちをしていたが、鋭い目つきのせいで悪人にしか見えない。赤い瞳が爛々と輝いていて、その瞳には、先程ボスを倒した時に生まれた不思議な球が映っていた。


「やるじゃあねぇか。ほらよ!」

 

 男は不思議な球を俺に向かって放ってきた。

 俺は危なげに受け取る。


「少し、力を加えて握ってみろ」


 男はそう言って、自分の手を握って見せた。

 

 こいつのことを信用していいのか?

 俺の予想通りなら、これはスキルを獲得できる球だが、なぜそれを俺に渡した?

 どんな意図があるんだ?


 俺が握ろうとしないのを見て、少し苛立ったのか、男の目つきがより鋭くなり殺気が漏れた。


 こいつはヤバイ! 化け物だ!!

 

 力が入る。その瞬間、右手に持っていた球が割れた。俺の目の前にスキルが表示された。

 [スキル A ステルス レベル 1 (透明化させる 持続時間:2秒)消費MP30]


「それでいいんだよ」


 そう言って、男は嬉しそうな表情を見せた。

 先程の殺気は消えていたが、あれは簡単に忘れられるようなものではなかった。

 俺は右手を桜の前に出し、臨戦態勢をとる。

 桜の俺の袖を掴む手は震えていた。


「久々の依頼だからな。わくわくするぜ!

 俺を楽しませてくれよー」


 男は、まるで今から軽く運動でもするかのように、体をほぐし始めた。


「お前は誰なんだ! 目的はなんなんだ!!」

「まあ、すぐに分かるよ。

 とりあえずお前、死んでくれ」

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