第12話 美少女との出会い?

 森を抜け、一息つく。

 時刻は十七時を回ったころ。そろそろ辺りが暗くなり始める時間。


 都市へとつながる道を歩きながら、俺は今日の成果を確認するためにステータスを開いた。


 ヤマナカユウト

 職業 平民

 レベル 27

 HP 81

 MP 27

 ちから 83

 かしこさ 13

 みのまもり 13

 すばやさ 83

 かっこよさ 13


 スキル E 底力 レベル2(体力が10以下の時に攻撃力+15)

     D 逆境 レベル3(相手の方が能力値が高い場合、全ステータス+10)

     A ど根性 (HPが2以上の時、1日に1度だけ致死量のダメージを受けてもHPが1残る)

     S 死してのちむ (HPが1の時、ちからとすばやさのステータスが倍になる)

     S 孤高 レベル1(1人で行動する時、全ステータス+20)


 『レベルアップポイント 40』


 森に入る前と比べてレベルは四上がっていた。

 お金も7700G貯まり、オーガなどモンスターを倒して得た素材もたくさん増えていた。これらは売れば最低2000Gにはなるだろう。


 これは、十分な成果と言えるのではないだろうか。

 現在、一日を過ごすのにかかる費用は二人合わせておよそ6000G。

 いける! これならこの世界でも生活していける!!


 軽く頭をなでる。

 木に頭をぶつけるという作戦は無事成功をおさめた。

 HPは1だったが、やはり攻撃判定の場合こちらにダメージは入らなかった。対象の硬さなどが影響しているのだろうか。今まで手応えがなかったのに、最後だけオーガの首が切れたのもひっかかる。ステータスに『みのまもり』があるということは、この値と『ちから』の関係が重要になってくるのか? それとも、部位によって耐久値みたいなものがあるのか?


 これからいろいろ試していくか。

 今はこの成果を桜に早く披露したい。


 桜が喜ぶ姿を想像しながら、俺はレベルアップで得たポイントを割り振った。


「ちからにポイント15、すばやさにポイント15」


 よく見るとスキルのレベルも上がっていた。どうやらレベルが上がれば効果も強くなるらしい。逆にいえば、レベルがないスキルはもう成長しないのか?


 ……ん? なんだこのスキル?


 『S 孤高 レベル1(1人で行動する時、全ステータス+20)』


 この能力は……。


 桜の顔が頭をよぎった。


 このスキルはあまり使うことがないな。

 おまけ程度に思っておこう。


 俺はステータスを閉じ、帰る足を早めた。


ーーーーーーーーーー  


 次の日も、俺は桜と別れて森へ向かった。


 昨日の成果を喜んでくれた桜。ただ、突然の大きな成果に、桜は俺が無理をしているんじゃないかと心配していた。「HPが1になったら、戦わずにすぐ逃げてくださいね」と何度も念押しされた。


 そんなこともあり、俺は今日の目標を『HPが1になることなく昨日の成果をあげる』ことにした。そもそもHPが1になるのは、俺が致死量のダメージを受けたとき。通常ならば、この時点ですでに死んでいるのだ。そんな生活を毎日送ることはできない。


 森に入った。

 慣れた道を迷うことなく進んでいく。


 この日、俺はオーガを倒しながらも目標を達成した。


ーーーーーーーーーー


 あっという間に一週間が過ぎた。


 俺は狩りを、桜は勉強を続ける日々。朝挨拶をして、夕方一緒にご飯を食べる。お互いの成果を報告しあい、たわいない談笑に花を咲かせる。幸せな日々だった。俺はこんな生活がずっと続けばいいと思っていた。だが、変化は必ず起こるものだった。


 はじまりは、そう、安定した生活を送れるようになり、俺がそろそろ少し質のいい宿屋に代えようかと、考え始めたときだった。その日もいつも通り森へ行き、オーガを二体倒し桜の部屋へ。ノックし桜を呼ぶ。声が返ってきたので、俺はドアを開けた。


「おかえりなさい!」


 見知らぬ美少女がそこにいた。

 体が固まる。


 ……。


 どうやら部屋を間違えてしまったみたいだ。

 俺は一度ドアを閉め、部屋番号を確認した。

 二○六号室。間違いなく桜の部屋だった。


 あれ、おかしいな?


 もう一度、ドアを開ける。


「どうしたんですか? なにか忘れものですか?」


 目の前にきた美少女が、不思議そうに問いかけてきた。

 くりっとした目に長いまつ毛。

 セミロングのサラサラとした黒い髪は綺麗に整えられていて、いい匂いがした。


 誰、この美少女?


「なにか具合でも悪いんですか?」


 美少女が首を小さく傾けた。

 その仕草に、俺は思わず声が漏れた。


「……桜?」


「はい。桜です」


 信じられなかった。

 あのボロボロの眼鏡と前髪で目元が隠れた桜は、いったいどこにいってしまったのだろう。髪も腰まであったのに、肩ほどで綺麗に揃えられている。服装も今まで簡素な布の服だったのに、白のロングワンピースを着ていて、とても似合っていた。


「部屋に入らないんですか?」


 桜と目が合った。

 思わず顔を背ける。


「ああ、入るよ」


 俺は急いで夕食の席に着いた。


ーーーーーーーーーー


 気まずい時間が流れる。

 俺はあの後、一言も喋ることなく桜が用意してくれたご飯を食べていた。


 食べ物を口に運びながら、ちらちらとこちらを窺う桜。

 だが俺は、桜のあまりの変化に、心がまだ追いついていなかった。


 どうしよう。もともとかわいいなと思っていたが、身だしなみを整えるだけで、こんなにもかわいくなるなんて。あまりにかわいすぎて桜の顔が直視できない。心臓が飛び出そうなくらい鼓動している。

 顔を少し上げる。桜と目が合った。小さく微笑む桜。心臓の音が、一段と大きくなった。慌てて視線を外す。おかしい。いつもみたいに、今日あったことを話せばいいだけなのに。それだけなのに、口が開かない。


 この沈黙を破ったのは、桜だった。


「……きょ、今日はどれだけモンスターを倒したんですか?」


 やっとでた話の種に、ほっと安堵の息を漏らす。

 目はまだ合わせられなかったが、いつもの話題に、口はつつがなく動いた。


「……ああ、オーガを二体とオオカミを四、五匹かな」

「すごい! さすが悠人さんです!!」

「ありがとう」


 再び訪れる沈黙。


「……まあ、いつもと同じくらいだけどね」

「そ、そうですね」


 し、しまった!

 話を続けたいあまりに、俺はなんてひねくれたことを!!


 落ち着け。

 次だ。次の話題だ!


「……そ、そういえばさ、桜、すごく変わったね」


 俺は勇気を振り絞り、桜に声をかけた。


「分かりますか!?」


 体を前に乗り出す桜。

 俺は言葉を続けた。


「分かるよ。その、なんというか、あれだよ。

 その、あれ……」


 桜が身を乗りだす。

 その視線はじっと俺を見つめていた。


「うん……その、かわいく、なった」


 桜の口がぽかんと開いた。

 直後、桜の頬が真っ赤に染まっていく。

 俺の顔も、きっと真っ赤になっていただろう。


「……ありがとうございます。

 その……とても嬉しいです」


 それから俺たちは、無言で食べ物を口へと運びつづけた。


ーーーーーーーーーー


 次の日の夕食。

 桜の姿に少し慣れた俺は、桜といつものように軽い談笑をかわした。

 その後、思い切って桜に昨日あったことを聞いてみた。


「実は昨日、街の美容師さんにカットモデルを頼まれたんです」


 ご飯を食べる手を止め、桜の話に耳を傾ける。


「お昼ご飯を食べようと図書館を出たときでした。『お金を払うから君の髪を切らせてほしい。まだお店を始めたばかりでお客さんがいないから、切った後の君の姿を写真に撮って、それを広告として使いたい』って言われたんです。今、お金は全部悠人さんが稼いでくれているので、少しでも足しになればなと思って、私はそのお願いを受けました」


 少し恥ずかしそうに話す桜。

 俺はその美容師さんの見る目のよさに感心した。


「切り終わったら、美容師さんが急にメイクもやってくれて。それに、服も用意してくれたんです! かれ……じゃなくて、あなたの連れを驚かせるならこれくらいしないとって」

「いや、本当に驚いたよ。

 一瞬、部屋を間違えたのかと思った」

「でも、今日はうまくメイクできていないので、あまり見ないでくださいね」

「そんなことないよ。

 桜は……桜だよ」


 『かわいい』という言葉がでかかって、あわてて口を濁した。

 たった四文字の言葉なのに、簡単に言うことができない。

 どうしても恥ずかしさが勝ってしまう。


「ありがとうございます」


 少し頬を染めながら、桜が頭を下げた。

 変わらない謙虚さに胸を打たれながら、俺は名も知らない美容師に感謝の念を送った。


 どこかの駆け出し美容師さん、ありがとう。

 桜も少し自信がついたのか、前より喋ってくれるようになりました。

 おかげで、毎日がより楽しいです。

 いつか、お礼に行きますね。


「……その、悠人さん。

 一つ提案があるんですけど、いいですか?」


 あわてて思考を現実世界に引き戻し、桜の言葉に耳を傾ける。

 俺の頷く仕草を見た桜は、一呼吸おいたあと、意外な言葉を発した。


「ダンジョンに挑戦してみませんか?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る