第9話 もう限界だ!
俺と桜は装備を揃え、森へ向かっていた。
げっ! 最悪だ・・・
この道を通るとあいつらと出会うって決まっているのか?
目の前に、楽しそうに談笑する海斗たちが歩いていた。俺は急いで顔を伏せたのだが、あっけなくバレてしまった。
「あれ? お前らパーティ組んだのかよ?」
「いいじゃん! お似合いよ」
「役立たずどうし気が合うんじゃないか?」
3人は俺たちを見つけると、当然のように茶化し始めた。
はぁ、こんな奴らを相手にしていたらきりがない。俺は気にせず、立ち去ろうと歩みを進める。
「悠斗いいのか? 桜なんかと組んで。
そいつ想像以上に役立たずだぞ。あ、お前もか」
海斗が煽ってくる。
あー、くそっ!
イライラする!!
俺は拳を握りしめた。
「悠斗君、行きましょう」
桜は、いつの間にか俺の袖を掴んでいた。
そして、首を小さく左右に振る。
俺はダメな奴だな。
ここで喧嘩をすれば桜にも被害が出るかもしれない。俺のちっぽけなプライドのために桜を傷つけるわけにはいかないな。
「分かった、行こうか」
俺は平常心を取り戻し、桜の手を引いて通り過ぎようとした。
「バカだよな。せっかくSランクのスキルを持ってるのに火が怖くて使えないって」
海斗がわざと、俺たちにも聞こえる声で喋り始めた。
俺の中で、先ほどとは違う、怒りの感情が生まれる。こいつ、桜のことを何も知らないくせに、よくもぬけぬけと。
「どうせ火が怖いのもしょうもない理由なんだろ」
仁が海斗に同調する。
俺の中で、その怒りがどんどん膨れ上がっていく。
「火が怖いって可愛こぶってるんじゃないの?」
朱音が笑いながら言った。
もう限界だ!
「おい、今の取り消せよ」
「悠斗くん。私は気にしてませんから」
桜が俺の手を掴む。
「なんだって?」
薄ら笑いを浮かべた海斗が振り向く。
「取り消せって言ったんだよ!」
「なんで取り消さなくちゃならないんだ?
事実だろ」
俺は桜を振り払って、海斗に向かって殴りかかった。
海斗は俺のパンチをあっさりかわし、カウンターで俺の頬を殴る。
俺は1メートル後方へと吹っ飛んだ。
「悠斗くん!」
桜が俺に駆け寄ってくる。
「弱すぎなんだよ、お前!
平民のお前が勇者の俺に勝てるわけがないだろ!」
海斗は高らかに笑った。
やはり勇者の一撃、一発が重いなぁ。
まあ、俺にとっては好都合だが。
HPが一気に減り1を示す。その瞬間、体が異常に軽くなった。
「なに笑ったんだよ」
俺の表情が気に食わなかったのか、少し不機嫌になる海斗。
「そうだよな。勇者のお前が、役立たずで平民の俺なんかに負けるわけがないよな」
俺は立ち上がりながら海斗を睨みつける。
「当たり前だろ。これ以上恥を増やす前にさっさと帰った方がいいんじゃないのか?」
海斗が笑う。仁と朱音も海斗に同調して笑っている。しかし、その笑いも長くは続かなかった。
「がはっ!」
海斗の腹に、俺の拳が食い込んだのだ。
海斗は白目になり、一瞬、宙に浮いた後、地面に倒れた。
桜、仁、朱音は、今起こっている状況が飲み込めていないようだった。3人とも目を丸くしている。
先程まで俺を殴って笑っていた海斗が、今では俺の側でぴくりとも動かずに倒れているのだ。
「仁! 朱音!
もう2度と俺たちの前に姿を現すな!!
海斗にもそう伝えとけ」
俺はそう言って桜の手を掴んで森へ向かった。
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