第9話 もう限界だ!

 時刻は八時過ぎ。人の行き来で賑わいを見せる街並み。

 俺と桜は装備を整え、森へ向かって街中を歩いていた。


「あれ? お前らパーティ組んだのかよ?」


 突然、後ろから聞き覚えのある声が響いた。

 俺は無視して先へ進んだ。


「いいじゃん! お似合いよ」

「役立たずどうし気が合うんじゃないか?」


 仁と朱音が声をあげる。

 俺は桜の手を握って、歩みを進めた。


「悠斗いいのか? 桜なんかと組んで。

 そいつ、想像以上に役立たずだぞ。……あ、お前もか」

 

 海斗が煽ってくる。

 俺は空いている拳を握りしめた。


「悠斗さん、森へ行きましょう」


 桜がいつの間にか俺の服を掴んでいた。

 そして、首を小さく左右に振った。

 俺は桜を見て、心を落ち着かせた。


「大丈夫。行こうか」

 

 平常心を取り戻し、桜の手を引く。


「バカだよな。

 せっかくSランクのスキルを持ってるのに、火が怖くて使えないって」


 海斗がわざと、俺たちにも聞こえる声で喋り始めた。

 俺の中で先ほどとは違う怒りの感情が生まれる。

 こいつ、桜のことを何も知らないくせに、よくもぬけぬけと。


「どうせ火が怖いのもしょうもない理由なんだろ」


 仁が海斗に同調する。

 俺の中で、その怒りがどんどんと膨れ上がっていった。


「火が怖いって可愛こぶってるんじゃないの?」


 朱音が笑いながら言った。


 ……もう限界だ!


「おい、今すぐその口を閉じろ」

「悠斗さん。私は気にしてませんから」


 桜が俺の手を掴む。


「なんだって?」


 薄ら笑いを浮かべる海斗と目があった。


「口を閉じろって言ったんだよ!」

「なんで俺が口を閉じなきゃならないんだ?

 事実だろ」


 俺は桜を振り払って、海斗に向かって殴りかかった。

 海斗は俺のパンチをあっさりかわし、カウンターで俺の頬を殴った。


 俺は後方へと吹っ飛んだ。


「悠斗さん!」


 桜が俺に駆け寄ってくる。

 道を歩く人々が足を止め、俺と海斗を中心に輪を作り始めた。


「弱すぎなんだよ、お前!

 平民のお前が勇者の俺に勝てるわけないだろ!」


 海斗は高らかに笑った。


 やはり勇者の一撃、一発が重いなぁ。

 HPが一気に減り1を示す。

 その瞬間、体が異常に軽くなった。


 さあ、反撃の時間だ。


「なに笑ってんだよ」


 俺の表情が気に食わなかったのか、少し不機嫌になる海斗。

 俺は立ち上がりながら、海斗を睨みつけた。


「なぁ海斗。勇者のお前が役立たずの平民なんかに負けるわけないよな?」

「当たり前だろ。

 これ以上恥を増やす前に、さっさと帰った方がいいんじゃないのか?」


 海斗が笑う。仁と朱音も海斗に同調して笑った。

 しかし、その笑いも長くは続かなかった。


 海斗の視界から、平民の姿が消えた。


「がはっ!」


 海斗の腹に食い込む拳。

 海斗は白目になり、一瞬宙に浮いた後、力なく地面に倒れた。


 桜、仁、朱音、そして群衆が、呆然とした様子でこの結果を見ていた。

 先程まで俺を殴って笑っていた海斗は、今では俺の横でぴくりとも動かずに倒れている。今起こっている状況が飲み込めていないのか、皆、目を丸くしていた。


「桜、行くぞ!」


 俺はそう言って、桜の手を掴んで森へ向かった。


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