第8話 危ない、危ない
「どうして火が怖いんだ?」
俺は興味本位で聞いてみた。
桜は少し、表情を曇らせる。
しかし、一呼吸おくと、決心したように話し始めた。
「私、生前にお姉ちゃんが強盗に殺されたんです。
お姉ちゃんは私を庇ってお腹を刺されました。私はお姉ちゃんのおかげで家から出て助けを呼びに行けたんですが、戻った時には家が燃えていたんです。
あの時の火が頭から離れなくて。あの中でお姉ちゃんが燃えていると思うと、もう震えが止まらなくなって・・・」
・・・思っていた以上に話が重いな。
興味本位で聞くんじゃなかった。
なんて声をかければいいんだ?
数秒、沈黙が生まれる。
「すいません、こんな重い話をしてしまって」
うっ、気を遣わせてしまった。
「いや、こっちこそごめん。気軽になんで火が怖いんだとか聞いて」
また沈黙が生まれる。
「でも、お姉さんは君のことを救えて嬉しかったと思うよ。
何にも知らないやつが何言ってるんだと思うかもしれないけど、それは間違いないと思う」
その言葉を聞いた、桜の目から、急に涙が溢れ出す。あれ、俺まずいこと言っちゃったかな?
「ごめん、適当なこと言って」
「違うんです。そんなこと言われたの初めてだったから。
お姉ちゃんは私と違って、美人で明るくて優しい人でした。モデルもしていたんです。
強盗の後、なんで死んだのがお前じゃなくてお姉ちゃんなんだって周りから言われ続けていたので。
その、悠斗さんの言葉が嬉しくて」
なんだそれ! 周りの奴ら最低だな!
悪いのは強盗だろうが!!
「あの、もしよろしければ、私とパーティを組んでくれませんか?」
桜は相当勇気を振り絞って言ったのか、少し手が震えていた。しかし、すぐに両手を横に振る。
「いや、やっぱりいいです。
あ、今のいいですは嫌だってわけじゃなくて、その、私なんかがおこがましいという意味で、その、あの・・・」
「いいけど・・・」
「え、いいんですか? 私、火は怖いし戦うこともできませんよ」
「知ってる、今聞いたし。その上でオッケーしたんだよ」
俺は桜に向かって手を差し出した。
桜とならこの異世界での生活も楽しくやっていけそうだ!
桜は涙を流しながら俺の手を握った。
「でも俺の職業は平民なんだ」
「えっ、勇者じゃないんですか?」
「笑えるだろ。それでもいいのか?」
「はい! もちろんです。
強い人よりも優しい人の方が私は好きなので!」
そう言う桜の顔には先程の涙はなく、嬉しそうな笑顔があった。
あ、やばい。今のキュンときた。
危ない、危ない。惚れそうになったぜ。
恋愛は好きになったほうが負けなのであるって誰かが言っていたしな。
「よし、じゃあ今日も森に行くぞ!
武器を買ったら今日の宿代がなくなるから、稼ぎに出発だ!!」
「はい!」
俺は、異世界で活躍することを諦めた。
もうチヤホヤされなくてもいいや。
桜と一緒に、異世界でゆっくり暮らすのも悪くない。そう思ったのだ。
まあ、そんな簡単にことは運ばないのだが・・・
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