第5話 死
街に着くと先ず宿屋へ向かった。
昨日海斗と回った中で一番安かった宿屋だ。
オオカミを倒して得たお金と、森の入り口のモンスターを倒したお金、それらの素材を全部売って、やっと一泊できる程度だった。
飯はパサパサのパンと水だけ。一瞬で食べ終わり、横になる。
硬いベッドと布きれ一枚が、至福に感じた。
明日も森に行ってモンスターを倒さないと……
不安で頭がいっぱいになりながら、俺はすぐに眠りに落ちた。
ーーーーーーーーーー
次の日、HPは回復していた。
水を買うと所持金が底を尽きた。
今日は最低でも、あのオオカミを三体狩らなければならない。
「俺の命日は今日かもしれないな」と笑えない冗談を呟きながら、俺は宿屋を出た。
森にむけて街を歩いていると、前方から海斗と仁と朱音が歩いてきた。
いずれはどこかで会うと思っていたが、こんなに早いとは。
俺は気づかれないよう、道の端に移動した。
「あれ? 悠斗じゃないか!」
海斗がわざとらしい大きな声をあげた。
こいつ、こんな嫌なやつだったっけ?
「大丈夫だったか?」
薄ら笑いを浮かべる海斗。
『どの口が言ってるんだ!』とは言えず、
「ああ、大丈夫だったよ」
と、苦笑いを返す。
後ろでクスクスと笑う仁と朱音。
一昨日はあんなに優しかったのに。
「そういえば悠斗、お前、金に困ってないか?
俺たちあの後、森の奥でオーガを倒したから金はたんまりあるんだ。
少し分けてやるよ」
海斗が右手を前に出した。
その右手に、金貨がパンパンに入った袋が出現する。
ニヤニヤした顔で俺を見る海斗。
もちろん、こんな金は死んでも受け取れない。
「大丈夫。お金は自分で稼ぐ」
「あはははは! 自分で稼ぐ?
平民のお前がどうやって稼ぐんだよ?」
三人が大きな声で笑った。
通行人が不思議そうにこちらを見た。
「ま、せいぜい頑張れよ! 平民くん」
海斗たちはそのまま、笑いながら通り過ぎていった。
そんな三人を、俺は黙って見送った。悔しさで腸が煮えくりかえっていた。腰に差した木刀を、海斗に向かって投げつけてやりたかった。だがそんなことをすれば、俺の異世界生活は本当に詰んでしまう。木刀なしで、あのオオカミは倒せない。
拳を固く握り締め、踵を返す。
一瞬、海斗たちの後ろをついて歩く知らない女の子が見えた。服装が制服だったことから、おそらくあの子もこの都市に飛ばされた日本人だろう。
眼鏡をかけた女の子。ボサボサな髪は四方八方に伸びて、目はその髪のせいでよく見えなかった。冴えない、根暗な感じの子だった。
あの子も使えなかったら、森に置いていかれるかもしれない。
そんな考えが浮かび、少しあの女の子が可哀想だと思った。だが、平民の俺よりはマシだろとも思った。
人の心配をしている場合ではない。
まずは今日を生き延びなければ。
俺は心を引き締めて、森へと向かった。
ーーーーーーーーーー
スライムはもう一発で倒せるようになっていた。
森は奥へ進むにつれてモンスターも強くなり、その分報酬も豪華になった。
そろそろ昨日オオカミが出現したところに着く。
レベルはどれだけ上がっただろうか? レベルアップの表記はあったが、ステータスで確認していない。初日に確認したが、この世界はポイントの振り直しができなかった。なので、最適解を見つけるまではポイントをあまり振りたくなかった。
こんなゲーム脳でいいのかと不安にもなるが、先を考えれば無闇にポイントは振らない方がいいとも思っている。まあ、スライムやカラスを倒しただけだ。たいして上がってはいないと思うが。
「ステータス」
ヤマナカユウト
職業 平民
レベル 16
HP 54
MP 10
ちから 43
かしこさ 13
みのまもり 13
すばやさ 33
みりょく 13
スキル E 底力 レベル1(体力が10以下の時に攻撃力+10)
D 逆境 レベル1(相手の方が能力値が高い場合、全ステータス+5)
『レベルアップポイント 30』
「あれ?」
今まで空白だったスキル欄。
なんとそこに、二つのスキルが表記されていた。
思わずスキルを二度見する。
これ、間違いじゃないよな?
本当に俺のスキルだよな??
ステータスを閉じ、もう一度開く。
スキルは変わらず表記されていた。
やったぁーーー!!!
スキルだぁーーーーー!!!
レベルも三あがっているし、幸先良好だ。おそらくオオカミを倒したときにレベルが上がったんだ。達成感と疲労で気づかなかった。
とりあえずポイントを振ろう。HPとMPはレベルアップで勝手に上がるからおいといて、いつも通り他のステータスへ均等に振るか。
俺は、ちからからみりょくまでのステータスを2ずつ上げた。
正直、みりょくを上げる必要は無いと思ったが、一応上げておく。一応ね。
よし、今日の分の宿代と飯代を稼ぐぞ!
頑張るぞ! おーー!!
俺は意気揚々と森の奥へと足を進めた。
ーーーーーーーーーー
「今日はこんなもんかな」
ステータスを振った後、カラスを五匹、オオカミを三匹倒した。悪戦苦闘した甲斐もあり、オオカミの報酬は大きかった。二匹で宿代、一匹で今日の飯代だ。
今日は昨日よりまともな飯が食えそうだ。
弾む気持ちを抑え、森を歩く。
ここはまだまだ森の中、警戒は怠らない。
本当はもっと多くのモンスターを倒したかったが、もうお腹が空きすぎて倒れそうだった。明日はカラスの報酬を使って朝ごはんをしっかり食べてから森にこよう。そう思い、街へと続く道を歩いていた、その時だった。
「きゃーーーー!!!!」
突如、森の奥から響いてきた叫び声。
思わず足が止まる。
HPは8/60。次にダメージを食らえばおしまいだ。
これは絶対に助けに行ってはダメなやつだ。
俺はもう体力が限界だし、今の叫び声でモンスターも集まるだろう。
それに、平民の俺が行って何ができる?
目をつむる。
数秒後、俺は叫び声が上がった方向に向かって全力で走っていた。
ーーーーーーーーーー
あぁー、これはない。
眼鏡をかけた女の子が腰を抜かしていた。今朝、海斗たちと一緒にいたあの女の子だ。あいつら使い物にならないことが分かって、また森に置いていったな。
女の子の目の前には熊がいた。
二メートルはゆうに越える巨大な熊だった。
今の俺じゃ絶対に敵わないと、一目でわかる相手だ。
せめてオオカミなら、颯爽と女の子の前に現れて助けたというのに。
女の子から目を離さない熊。
今なら攻撃が当たるか?
いや、まず攻撃が通らないだろう。
二人まとめて殺されるだけだ。
熊が女の子に照準を定める。
どうやら突進を決める気のようだ。
大勢を低くして、前足で地面を蹴っている。
「きゃーーー!!!」
叫ぶ女の子。
だが、むりだ。
俺にはどうしようもない。
ただ犬死にするだけだ。
そう、犬死にするだけなんだ!
勝手に動く体。
俺は知らぬ間に、木の影から飛び出していた。
そこからは無我夢中だった。
女の子を突き飛ばし、熊の突進を受ける。
木刀でガードしたが、関係なかった。
粉々に砕け散る木刀。俺は吹っ飛び木に激突した。
「がはっ!」
俺のHPが、0を表示した。
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