第5話 あぁー、これはない

 俺は街に着くと先ず宿屋へ向かった。

 昨日海斗と回った中で1番安かった宿屋だ。

 仁と朱音が道中に倒したモンスターからとった少しのお金とオオカミを倒してとったお金でやっと一泊できる程度だった。


 はぁ、腹減ったな。昨日は仁と朱音に奢って貰ったからな。あいつらを思い出すと、なんだか腹が立ってきた。

 明日も森に行ってモンスター倒さないといけないんだ。あいつらのことはさっさと忘れて寝ないと。


 これ、寝たらちゃんとHP回復するよね?


 明日への不安で頭がいっぱいになりながら俺は眠りに落ちた。


・・・・・・


 次の日、HPはちゃんと回復していた。

 しかし、当然だがお腹が減ったままだった。

 こんな状態でモンスターを倒せるのか分からないがやるしかない。


 街を歩いていると、前方から海斗と仁と朱音が歩いてきた。


 うげっ!

 最悪だ。ここは顔を合わせずに通り過ぎよう。

 俺は顔を伏せながら進んだ。


「あれ? 悠斗じゃないか!」


 海斗は俺に気づいたらしく声をかけてきた。

 やっぱりこうなるか。


「大丈夫だったか?」


 薄ら笑いを浮かべる海斗。

「どの口が言ってるんだ!」とは言えず、


「ああ、大丈夫」


 と、海斗に反抗するわけでもなく、ただただ苦笑いを返す俺。

 自分が情けなくなる。


「そういえば悠斗、お前お金に困ってないか?

 俺たちはあの後、森の奥でオーガを倒したからお金はたんまりあるんだ。少し分けてやるよ」 


 海斗は右手いっぱいに持った金貨を、俺に差し出してきた。もちろんそんなお金は死んでも受け取る気はない。

 

「大丈夫。金は自分で稼ぐ」


「あはははは! 自分で稼ぐ? 

 平民のお前がどうやって稼ぐんだよ?」


 3人が笑う。


 くっそーー!!

 いつか目に物見せてやる!!!


 海斗たちはそのまま、笑いながら通り過ぎていった。


 海斗たちの後ろには、先ほどまで隠れていて見えなかったが、知らない女の子がいた。

 眼鏡をかけていて、前髪が目にかかっている。

 ボサボサな髪が四方八方に伸びていて、根暗な感じの子だった。


 この子も使いものにならなかったら森に置いていかれるのかな。

 そんな考えが浮かび少しその女の子が可哀想だと思ったが、平民の俺よりはマシだなとも思った。


 そうだ! 平民だったら仲間になってもらおう。

 そんなくだらないことを考えながら俺は森へ向かった。


・・・・・・


 スライムはもう1発で倒せるようになっていた。森は、奥に進むにつれてモンスターも強くなり、その分報酬も豪華になった。経験値もたぶん多くもらえているはずだ。

 そろそろ、昨日オオカミが出てきたところに着く。レベルはどれだけ上がったのだろう? まあ、スライムやカラスを倒しただけだ。たいして上がってはいないと思うけど。


「ステータス」


ヤマナカユウト

 職業 平民

 レベル 16

 HP 54

 MP 10

 ちから 43

 かしこさ 13

 みのまもり 13

 すばやさ 33

 かっこよさ 13


 スキル E 底力 レベル1(体力が10以下の時に攻撃力+10)

     D 逆境 レベル1(相手の方が能力値が高い場合、全ステータス+5)


レベルアップ『ポイント30』


 えっ!! スキルゲットしてる!!! 

 なんで!? オオカミを倒したときかな。

 レベルも3上がってる。平民だからレベルが上がりやすいのかもしれない。

 良かった! スキルはこれからも獲得していけるようだ。少し不安だったんだよな。


 とりあえず、ポイントを振ろう。HPとMPはレベルアップで一応上がるけど、あまり伸びないな。だが、俺にはスキル、底力がある。HPを高くするのはあまり良くない。いつも通りポイントを均等に振るか。


 俺は、ちからからかっこよさまでのステータスを2ずつ上げた。

 正直、かっこよさを上げる必要は無いと思ったが、一応上げておく。一応ね。


 よし、今日は宿代と飯代を稼ぐぞ!


・・・・・・


「今日はこんなもんかな」


 俺はステータスを振った後、カラスを5匹、オオカミを3匹倒した。やはりオオカミの報酬は大きい。2匹で宿代、1匹で今日の飯代だ。

 もちろん、1番安い宿に、1番安い飯だが。


 本当はもっと多くのモンスターを倒したかったが、もうお腹が空きすぎて倒れそうだ。明日はカラスの報酬で朝ごはんをしっかり食ってから森にこよう。

 そう思い、森から出ようとした時、


「きゃーーーー!!!!」


 森の奥で叫び声が聞こえた。


 これは絶対に助けに行ってはダメなやつだ。俺はもう体力が限界だし、今の叫び声でモンスターも集まるだろう。助けに行ってはダメなんだ・・・


 俺は無意識に、叫び声が上がった方に向かって走っていた。


・・・・・・


 あぁー、これはない。


 眼鏡をかけた女の子が腰を抜かしている。今朝、海斗たちと一緒にいた子だ。


 あいつら使い物にならないことが分かって、また置いていったな。


 女の子の目の前には熊がいた。でかい熊が。

 今の俺じゃ絶対に敵わないと一瞬でわかる相手だった。せめてオオカミなら、颯爽と女の子の前に現れて助けようと思ったのに。


 熊は女の子から目を離さない。今なら攻撃が当たるかも。いや、まず攻撃が通らないだろう。2人ともまとめて殺されるだけだ。

 

 熊が女の子に照準を当てる。

 どうやら突進を決める気のようだ。

 大勢を低くして、前足で地面を削っている。


「きゃーーー!!!」


 助けろ


 突如、頭の中に、その言葉が浮かんだ。

 体が勝手に動く。

 俺は知らぬ間に、木の影から飛び出していた。


 そこからは無我夢中だった。

 女の子を突き飛ばし、熊の突進を受ける。木刀で一応ガードはしたが、関係なかった。木刀は折れ、俺は吹っ飛び木に激突した。


「がはっ!」


 俺のHPは一瞬で減り、0を表示した。

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