第3話 そんなのおかしいだろ?

「あんまり狩れなかったな」

「ごめん、海斗。俺が足手纏いだったせいだ」

「そ、そんなことないよ。俺は楽しかったぜ」


 はぁ、海斗って本当にいいやつ。

 初めに声をかけてくれたのが海斗でよかった。


 モンスターを倒すとお金らしきものがその場に生まれた。神ってやつは異世界だとか言っていたが、どちらかというとゲームの中に入った感じだ。

 

 俺たちは狩りを終え宿屋へと向かった。


「その所持金だと、うちでは泊まれないね。他をあたってくれ」

「お前らなめてるのか? それで泊まれるのは豚小屋だけだよ」


 俺たちは訪れる宿屋全てから断られた。

 初めの町は宿屋の値段が安いはずだろ?

 どうなってるんだ?

 

「悠斗、この世界に来た時、どれくらいのお金を持ってた?」

「ごめん、俺、一文無しだったんだ」


「チッ」


 ん? 今、舌打ちしなかった?

 海斗の方を見る。


「それは災難だったな。

 しょうがない、今日は野宿でもするか」


 優しい笑顔を向けてくれる海斗。

 海斗がそんなことするわけないか。


「そうだな」


 俺は、海斗に対して生まれた疑念を振り払うように返事をした。



 流石に街の中で野宿することはできないので、俺たちは都市から出ることにした。

 狩りで得た金額はショボいもので、2人合わせて水2本しか買えなかった。

 俺たちは腹が減り、無言で都市を歩いていると、突然、後ろから声をかけられた。


「君たち、もしかして転移者?」

「はい、そうです」


 海斗が答える。


「俺たちもなんだよ!」

「そうなんですか!」

「俺は平山仁、こいつは・・・」

「山口朱音です。よろしく!」

「俺は暁海斗、よろしく!」

「山中悠斗、よろしく」


 明るい挨拶に、淀みない握手。

 この漂う陽キャ感、俺にはキツイな。


「もう宿屋は決めた? 決まってなかったら俺たちのところで一緒に泊まらないか?」

「いや、俺たちお金がないんだ」

「お金ぐらい貸すよ。せっかくの転移者同士、仲良くしようぜ」

「本当に! ありがとう」


 滞りなく進む会話。

 海斗、やっぱお前はすげぇよ。

 俺だったら、すぐに返事が出来ずに、あたふたしてキモがられてただろうな・・・

 あ、やばい。涙がでそう。


・・・・・・


 宿屋に着いた後、俺たちは様々なことを話し合った。

 間違えた、俺を抜いた3人は様々なことを話し合っていた。もちろん俺も一応は参加してたよ。

 話の内容はこの世界に来る前のことがメインだった。何のクラブに入っていたかとか、どれくらい勉強ができたか、などだ。


 そんな話、俺ができるわけないだろ?


 だが、ここでも海斗のイケメン振りはいかんなく発揮された。会話の途中、さりげなく俺に話を振ってくれるのだ。しかも答えやすい質問をしてくれる。なんでもできすぎて逆に怖くなってきた。


 たわいもない話だったが、さすが高校生といったところか、皆ノリがよくまあまあ盛り上がってその日は終わった。


・・・・・・


 次の日、俺たち4人は森へ向かった。

 仁と朱音は躊躇なく、奥へ進んでいく。

 しかも、俺たちを守りながら。

 途中で出てきたカラスやオオカミは、一瞬で倒していた。


 いくらなんでも、この世界に順応し過ぎだろ!

 まだ異世界に来て2日目だぞ!

 俺は心の中で、叫んだ。

 恨み半分、羨ましさ半分の気持ちで。


 ブンッ!


 急に、俺の目の前にステータスが現れた。

 一言も、ステータスとは言っていないのに。

 なんだか嫌な予感がする・・・


ヤマナカユウト

 職業 平民

 レベル 13

 HP 45

 MP 10

 ちから 13

 かしこさ 3

 みのまもり 3

 すばやさ 3

 かっこよさ 3


 スキル なし


 レベルアップ『ポイント100』

 (ポイントが上限に達しました。今すぐポイントを割り振ってください)


 なになに? ポイントが上限に達した?

 なんだ、それだけか。よかった。

 後で割り振ろう。


 そう思って、俺はステータスを閉じようとした。

 しかし、いつもは右上にばつ印があり、そこを押せば消えたのに、今回はばつ印が無かった。

 

 あれ? おかしいな。


 ステータスの右上を押す。

 もちろんステータスは消えない。


 やばい、やばい、やばい!

 みんなに俺のステータスが見られてしまう。

 急いでしまわなければ。


「悠斗、またレベルが上がったのか?」


 最悪だ!

 海斗が俺のステータスを覗きこんできた。

 海斗の表情が一瞬で変わる。


「ぷっ、あっはっはっは!」


 海斗は腹を抱えて笑い始めた。

 俺は自分の顔が赤くなっていくのを感じた。


「悠斗。お前、平民だったのかよ!

 そりゃ、弱いはずだわ!!」


 海斗はまだ笑っていた。

 海斗があまりにも大きな声で笑うので、奥へ進んでいた仁と朱音が戻ってきた。


「どうしたんだ?」

「何か面白いことでもあったの?」

「仁、朱音、ちょっとこれを見てくれよ」


 海斗は仁と朱音を手招きしながら俺のステータスを指差す。2人は言われた通りに俺のステータスを見る。その瞬間、2人も腹を抱えて笑い始めた。


「嘘だろ!? 平民じゃん!!!」

「めっちゃうけるんですけど!!」


 俺の顔は更に赤くなっていく。

 

「はぁ、今までお前に気をつかってきて損したわ。

 強いスキルを持ってたら、頼りになるかもって思ってたんだけどな。

 まさかの平民だとは。しかもスキルなし」


 海斗がまた笑い出す。

 くそっ! 何か言い返したいが何も言えない。


「はー、笑った笑った。

 それじゃあな、悠斗。

 俺たちは、このまま森の奥に進んでいくから、お前は気をつけて帰れよ」


「えっ? それってどういうこと?」


 海斗は驚いた様子で俺を見た。


「どういうことって、ここでお別れってことだよ。

 当然だろ。平民と一緒に冒険なんかできねぇよ。

 ましてや魔王討伐なんて夢のまた夢だ」


 まてまてまて!

 全然理解できないんだが・・・


「じゃあな! 悠斗。

 また会えたらいいな」


 そう言って、3人はその後、笑いながら森の奥へと進んで行った。


 俺は1人、森に置き去りにされた。

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