第2話 絶望的なステータス

 山中悠人、高校二年生。

 自宅で死んで、異世界に飛ばされました。


 自称神は、異世界で勇者となって魔王を倒せ!

 と言っていたような気がするんだが……


ヤマナカユウト

 職業 平民

 レベル 1

 HP10

 MP2

 ちから 1

 かしこさ 1

 みのまもり 1

 すばやさ 1

 みりょく 1


スキル


 だめだ。なんど表示してもステータスの表記は変わらない。

 俺はスキルを持たない、最弱の平民なんだ。


 ……。


 ……詰んだ。

 俺の異世界生活、お先真っ暗だ。


 というか、平民ってなんだよ!

 全員勇者じゃなかったのかよ!?

 

 ぶつけようのない怒りが込み上げてくる。

 だが、俺にできることは何も無かった。

 だって、平民なのだから……。


 こんな異世界、最悪だ!!!



「おぉーい! 悠斗ーー!!」


 突然、聞き覚えのある声が響いた。

 名前を呼ばれて思わず顔を上げる。

 信じられないことに、前から海斗が走ってきていた。


 おいおい、まじかよ!

 こんなことって本当にあるのか!!


 海斗が俺の前で立ち止まった。


「悠斗、良かった。一緒の街だったな!」


 息を荒げながらも、嬉しそうに笑う海斗。

 先ほどまで絶望の底にいた俺の気持ちが、すこし浮き上がった。


「ステータス、どうだった?」


 その言葉で、またもどん底に引き戻される気持ち。


「まあ……ぼちぼちかな」


 平民でステータスが全て1だなんて、恥ずかしくて口が裂けても言えない。


「そうか、俺は結構良かったよ」


 そう言って、海斗はステータスを見せてくれた。


アカツキカイト

 職業 勇者

 レベル1

 HP47

 MP28

 ちから 21

 かしこさ 35

 みのまもり 20

 すばやさ 32

 みりょく 50


 スキル S  水神 レベル1 (水を自由に操る)


 俺は開いた口がふさがらなかった。

 高水準のステータスに、Sランクのスキル。たとえ俺が勇者であったとしても、ここまですごいステータスではなかっただろう。あの自称神も、適正にあったスキルを与えると言っていた。ということは、海斗にとってこのSランクスキル『水神すいじん』は、適性があったということだ。


 こいつ、完璧超人すぎる!


「これは……すごいね」

「運が良かったよ。ついでに所持金で木刀を二本買ったんだけど、一本使う?」

「所持金?」

「ステータスを開くと見られるよ」


 海斗がステータスを開き、画面を見せてくれる。

 よく見ると、画面の左上に数字とGという文字が表示されていた。おそらくGはゴールドの略だろう。平民だったことに気をとられて、ステータスに表示されていることをちゃんと確認できていなかった。また後で確認しないと。


 ちなみに、現在の海斗の所持金は0Gだった。

 つまり、海斗は全ての所持金を使って買った物の一つを、俺にあげようとしてくれているのだ。こいつ、本当にいいやつだな。


「その……木刀、もらってもいいかな?」

「もちろんだよ!」

「……ありがとう」

「向こうにある森にモンスターが出るらしい。そこで一狩り行こうぜ!」

「おう」


 海斗がいるなら、この異世界も悪くはないかもしれない。

 俺はほんの少しだけ、でも、本気でそう思った。 


ーーーーーーーーーー


「おらっ!」

「どう? スライム倒せそう」

「もうちょっとでいけそう。くらえ!

 よし、倒せた。そっちは」

「うん、三体ぐらい倒した」


 はぁ。俺、完全に足手まといだな。

 

 高い城壁に囲まれた街から歩いて三十分ほど。俺たちは森に入り、その森の入り口でスライムを倒していた。海斗はワンパンでスライムを倒していくのに対し、俺は四、五発殴らなければ倒せないという悲しい現実。それでも、海斗は俺がスライムを倒すのを静かに待ってくれた。


「初日だし、今日は無理せずいこうか」


 海斗の優しい言葉に、頷くことしかできない俺。

 あまりに自分が惨めで、涙がこぼれ落ちそうだった。


ーーーーーーーーーー


 森に入ってから二時間ほど。

 スライム以外にも襲ってくる獣や植物を倒しながら森を散策した俺たちは、少しひらけた場所で休憩をとった。


 道中、ときおりでてきたレベルアップの表示。

 海斗についていくので精一杯だったので、ステータスを確認することができていなかった。さて、能力値はどれくらいあがっただろうか。


「ステータス!」


ヤマナカユウト

 職業 平民

 レベル 4

 HP 16

 MP 6

 ちから 1

 かしこさ 1

 みのまもり 1

 すばやさ 1

 みりょく 1


 スキル 


 『レベルアップポイント 30』


 上がったレベルは三か。

 しかし、ステータスがHPとMP以外一つも上がっていない。

 『レベルアップポイント 30』を見るに、もしかしたら振り分ける仕様になっているのかも。試しにやってみるか。


「ちからにポイント10」


 ステータスのちからが1から11に変化した。

 なるほど! こうやって強くなっていくのか。


「どうした、悠斗?」

「レベルが上がっていたから、ポイントを割り振ったんだ」

「レベルが上がったのか!? ステータス。

 うーん、俺は上がってないな。ちなみにどれくらい上がったんだ?」

「三かな」

「三も! すごいな」


 いやお前の方がすごいから。

 俺のステータスを見たら幻滅するぞ!

 

 羨ましがる海斗をよそ目に、俺は自分のステータスを改めて確認した。


 連なる1の数字。

 本当にこんなのでやっていけるのだろうか。


 ……まあ、今考えてもしょうがない。

 とりあえず、残りのポイントは振り分けよう。

 今すぐ全てを使う必要はないから……。


「ちから、かしこさ、みのまもり、すばやさ、みりょくにポイント2ずつ」


 ステータスが変化する。

 海斗に追いつくのは、まだまだ時間がかかりそうだった。


「水神!」


 突然、海斗が叫んだ。


 なにもない海斗の右手から水が生まれる。

 それはどんどん大きくなっていき、海斗は生まれた水の照準を、離れたところにいたスライムに合わせた。「いけっ!」という海斗の声とともに、海斗の手から水の塊が放たれる。それは凄まじい勢いで空を切り、スライムを跡形もなく吹き飛ばした。


「やったぁ! 俺もレベルが上がったよ!」


 子供のようにはしゃぐ海斗。

 

 確信した。俺が海斗に追いつくことは一生ないな。

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