99人の勇者と平民の俺

甘党むとう

プロローグ

第1話 俺、平民なんですけど!?


 異世界


 今の時代、誰しもが憧れるもの。

 異世界で無双するもよし、ハーレムを作るもよし、スローライフを送るもよし。

 そんな経験を一度でいいからしてみたい!

 

 当然ながら、俺も数秒前まではそう思っていた。

 そう、数秒前までは……

 

ーーーーーーーーーー


 目を覚ます。


 なんだ? 眩しい。

 俺の家の光ってこんなに眩しかったっけ?


 俺は光を遮るように、右手で目の前を塞いだ。そして、残った左手で上体を起き上がらせる。

 床は硬く、身体中に軽い痛みが走る。

 どうやら、ベッドで寝ていたわけではなさそうだ。


「やあ、起きたのかい?」


 うわっ!


 目の前にいた青年が話しかけてきた。


 誰だ? こいつ。

 全く見覚えがない。だが、俺の敵であることは間違いなさそうだ。

 なぜかって? それは青年がイケメンだからだ!

 青年の顔は小顔で鼻が高く、目もキリッとしている。女子から相当モテてるんだろうな・・・

 けしからん!!

 

「急にごめんね。俺は暁海斗。

 気がついたらここにいたんだ」


 海斗と名乗る人物はそう言って立ち上がった。

 

 気がついたらここにいた? どういうことだ?

 

 俺は周りを見渡した。

 そこには、俺の全く知らない光景が広がっていた。


 見渡す限りに、真っ白な空間が永遠に続いている。しかも、俺たちの他に、100人ほどの若者がいた。床は透明で、どうやら俺たちを含めた100人の若者たちは、その透明な板の上に乗っているようだ。

 

「君、ここがどこか知ってる?」


 海斗が俺に聞いてきた。

 

「ごめん、知らない」

「やっぱり知らないか・・・

 なんで俺たちはここにいるんだろう?」

 

 海斗は考えるように、手を顎に当てた。

 俺も少し考えてみたが、何も思い浮かばなかった。周りにいる人たちとの共通点といえば、同い年ってことぐらいか?


「こほん、こほん。諸君、聞こえているかな?

 突然のことで皆、驚いていると思うが聞いて欲しい。わしは神じゃ。今、諸君らの頭に直接語りかけておる」


 突然、頭の中でしわがれた声が響いた。

 海斗を見る。どうやら海斗にも聞こえているみたいだ。

 

「なぜ諸君らはこんなところにいるのか不思議に思うているじゃろう。実はな、諸君らは先の地震で死んでしまったのじゃ」


 何言ってるんだ、この自称神は?

 そんなことあるわけないだろ?

 

 そう思っていたのも束の間、俺の頭の中に死ぬ間際の記憶が流れ込んできた。


・・・・・・


 今日から夏休み!

 クラブ活動がある人、友達がいる人、そして、

リア充にとっては最高の休みなのだろう。

 

 まあ、俺にとっては縁のない話だが・・・

 

 終業式が終わり、あっという間に家に着く。

 予定をたてることがないので、教室から出るのも1番だった。


 自室に入り、エアコンをつける。

 涼しい風を浴びながら、俺は思った。


 暇だ。暇すぎて死にそう。

 ラノベでも読むか。


 俺は本棚から、お気に入りのラノベを取り出そうとした。何十回、読んだのだろう。そのラノベは、ヨレヨレでカバーもボロボロだった。

 もちろん内容も完璧に覚えている。

 しかし、ついつい手に取って読んでしまうのだ。


 ラノベに手をかけたその時、俺はふと、あることを思い出した。

 そういえば、昨日の夜に買ったアイス、まだ食べてないな。その瞬間、幸福感が俺を包み込む。

 なんだろう、この得した気分は!

 俺は一旦ラノベを本棚に戻した。

 その直後だった。

 

 ゴゴゴゴゴッ


 急に、地面が激しく左右に揺れ始めたのだ。


 うわっ! 

 なんだ、地震か?

 ヤバイ!!


 俺は急いで本棚を掴んだ。

 しかし、本棚は俺の体重を支えきれず、俺に向かって倒れてきた。


 あっ、終わった・・・


 目の前で、お気に入りラノベが宙を舞った。


・・・・・・


 回想終了。

 えっ、もしかして俺、これで死んだの?

 嘘だろ!?


「皆、思い出したはずじゃ。地震は自然災害じゃからの。どうしようもないことじゃ。

 しかし高校生という若さで死んでしまうのはどうも可哀想じゃと思い、諸君らにはもう1度生き返るチャンスをやろうと思ったのじゃ。しかし、命というものはそんな簡単に生き返らせたりはできん。

 そこでじゃ。これから諸君らには異世界に行ってもらい、魔王を倒して、その世界を救ってもらおうと思うておる。

 見事、その世界を救えたものには生き返らせることに加え、自由に3つの願い事を叶えてやろう。

 なんでもよいぞ。大金持ちになりたい、スポーツ選手になりたい、美男美女になりたいなど願い事への制限はない」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の沈んでいた心は一気に浮上した。


 マジか! これ異世界転移ってやつじゃないのか?

 しかも願いを叶えてくれるだって! 最高じゃないか。

 

「異世界ではステータスと唱えればよい。自分の能力が表示されるからの。皆の職業はわしが決めておいた。勇者じゃ。

 そして各々にスキルを与えておる。スキルにはEランクからSランクまであり、ランダムに割り振っておいた。ハズレのスキルから始まる人もいるが最強のスキルから始まる人もいるということじゃな。

 ワッハッハ!」

 

 何笑ってんだよ、このジジイ!

 設定、適当すぎだろ!!


「そうそう、言い忘れておった。スタート地点は10人1組でバラバラの都市に転送する。諸君らの活躍を祈っておるぞ! それではの」


 頭の中で響いていた声は、軽い労いの言葉を残すと、あっさり消えた。それと同時に俺たちの体もどんどんと薄くなり始めた。

 どうやら、異世界転移は始まったみたいだ。


 あの自称神は気に食わなかったが、異世界転移に関して文句はない。

 ワクワクしてきた!!!


 体が消えかかる中、海斗が突然、俺に聞いてきた。


「君、名前はなんていうの?」

「山中悠斗」

「悠斗っていうのか。よろしく!

 俺、1人で心細かったんだ。悠斗に会えて嬉しかったよ。

 俺たち、同じ都市に転送されるといいね!!」

 

 満面の笑みを向けてくる海斗。

 あれ? こいつ、案外いい奴かも・・・


「そ、そうだな!」


 少しどもりながらも、俺はなんとか返事をした。

 直後、俺の視界は光で包まれた。

 

 この時の俺は、人生で一番テンションが上がっていた。

 そう、なんでも良いように解釈してしまうぐらいに。


・・・・・・



 突然視界が開ける。目の前には、当然ながら異世界が広がっていた。

 中世ヨーロッパのような雰囲気だ。


 本当に異世界に来たんだ!

 全身に喜びが駆け巡る。

 よっしゃー! やってやるぜ!!

 ここから始まるんだ、俺の新しい人生!!!


 正直に言うと、俺は魔王なんか倒すつもりはない。魔王を倒して元の世界に戻るよりは、この異世界を楽しむ方が100倍マシだと思うからだ。

 だから、俺は勇者としてモンスターを狩りまくって、周りからチヤホヤされるのを目指すんだ!


 よし! そうと決まれば、早速、ステータスを確認しますか。

 できればいいスキルを持っていてくれよ。

 まあハズレスキルなら、それはそれで異世界を楽しめそうだが・・・

 とりあえず確認しないと始まらないな!


「ステータス!」


 俺がそう言うと、

 

 ブンッ!


 目の前に長方形のデータが現れた。


ヤマナカユウト

 職業 平民

 レベル 1

 HP10

 MP2

 ちから 1

 かしこさ 1

 みのまもり 1

 すばやさ 1

 かっこよさ 1


スキル なし


 えっ? ちょっと待て??

 俺、平民なんですけど⁉︎

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