99人の勇者と平民の俺
甘党むとう
『99人の勇者と平民の俺』
第1話 俺、平民なんですけど!?
異世界
今の時代、誰もが憧れるもの。
無双するもよし、ハーレムを作るもよし、スローライフを送るもよし。
そんな経験を一度でいいからしてみたい!
当然ながら、俺もこの世界に来るまではそう思っていた。
そう。本当に、この世界に来るまでは……
ーーーーーーーーーー
目を覚ます。
なんだ? 眩しい。
光を遮るように、左手を前に出す。
残った右手で上半身を起き上がらせると、背中に軽い痛みが走った。
真っ白で固い床。どうやら、ベッドで寝ていたわけではなさそうだ。
「やあ、起きたかい?」
突然、目の前にいた青年が話しかけてきた。
誰だ、こいつ?
すっとのびた鼻筋に、澄んだ二重の瞳。
文句なしのイケメンがそこにいた。
「急にごめん。俺は
気がついたらここにいたんだ」
海斗と名乗る人物がそう言って、手を差し伸べてきた。
戸惑いながらも、その手を握る。
腕をひく海斗。俺は立ち上がった。
「ありがとう」
海斗を見る。
その時、俺は思わず目を丸くした。
海斗の背後に広がる真っ白な空間。
急いであたりを見渡す。
変わらない。四方を、延々と続く不思議な空間が満たしている。
だが、そんな謎の空間には、俺と海斗以外にも人がいた。
「君、ここがどこか知ってる?」
海斗が俺に尋ねる。
「……ごめん、知らない」
「やっぱり知らないか。
なんで俺たちはここにいるんだろう?」
考えるように顎に手を当てる海斗。
俺も少し考えてみたが、何も思い浮かばなかった。
見たことのない真っ白な空間。いつ俺はここに来たのだろうか。もしかして、ここに移動している間、俺はずっと寝ていたのか? 俺、まぬけすぎないか。
もう一度、あたりを見渡す。
周りにいる人たちとの共通点といえば、年が近いってことくらい。よく見ると、俺の通う高校の制服を着た人が何人か見えた。他にも見たことのある制服がちらほら。私服の子もいる。
『おっほん。諸君、聞こえるかね?
突然のことで皆、驚いていると思うが聞いて欲しい。
わしは神じゃ。
今、諸君らの頭に直接語りかけておる』
突然、頭の中でしわがれた声が響いた。
海斗を見る。頷く海斗。
どうやら、海斗にも聞こえているみたいだ。
『なぜ諸君らはこんなところにいるのか、不思議に思うておるじゃろう。
実はな、諸君らは先の地震で死んでしまったのじゃ』
何言ってるんだ、こいつ?
地震?? そんなの起こってなんか……
そう思っていたのも束の間、俺の頭の中に死ぬ間際の記憶が流れ込んできた。
ーーーーーーーーーー
今日から夏休み!
終業式が終わり、皆、これからの日々に期待をよせ、会話に花を咲かせるなか、俺は今日配信される最新ゲームのことばかり考えていた。
チャイムが鳴り、最後のホームルームが終わる。
ガヤガヤと騒がしくなる教室。俺は一人、足早に教室を出た。
階段をくだり、昇降口を抜け自転車小屋へ。街を駆け、家の鍵を開ける。全力でこいだおかげか、家まではあっという間だった。はやる気持ちを抑えながら、ジュースとお菓子を準備する。やはり、新作のゲームをするなら、万全の体勢を整えなければ。全てが整い、俺はパソコンを起動させた。
その時だった。
激しい音と共に、全ての物が激しく揺れた。
飛び散るお菓子、こぼれ落ちるジュース。俺は目の前のパソコンを守ろうと必死に覆い被さった。隣の本棚から物がなだれ落ちてくる。大切に集めた漫画や小説、フィギュアがぐちゃぐちゃに積み重なっていく。俺は悲しみに打ちひしがれながらその様子を見ていた。そして、残された本棚も他と同様、大きく動いていることに気がついた。
「……おいおい。まってくれ」
母親の言葉を思い出す。
『危ないから、本棚は固定しておきなさいよ』
後悔先に立たず。
本棚が俺に向かってくる。
俺は、身動き一つとれなかった。
ーーーーーーーーーー
回想終了。
えっ、もしかして俺、これで死んだの?
嘘だろ!?
『皆、思い出したかの?
地震は自然災害じゃからな。どうしようもないことじゃ。
しかし、わしはお主らが高校生という若さで死んでしまうのは可哀想じゃと思い、生き返るチャンスを与えようと思った。そこでじゃ。これから諸君ら百人には異世界に行き、魔王を倒してその世界を救ってもらおうと考えておる。見事、その世界を救えたものには生き返らせることに加え、自由に一つ願いを叶えてやろう。
なんでもよいぞ。大金持ちになりたい、スポーツ選手になりたい、美男美女になりたい。願い事への制限はない』
頭の中で自称神と名乗る者の声が響く。
状況がうまくのみこめない。死んだって本当なのか?
記憶も意識もはっきりしてる。手と足も実態がある。
だが、本棚が倒れてきて以降、記憶は全くない。
『異世界ではステータスと唱えればよい。自分の能力が表示されるからの。
皆の職業は勇者じゃ。そして、各々には見合ったスキルを与えた。スキルにはEランクからSランクまであるが、弱いスキルもお主らが成長していくことでいかようにも進化する。ぜひ、諦めずに頑張ってほしい!』
え、なに? ステータス?? スキル???
ちょっと待て! 少しでいいから状況を整理させてくれ!!
『そうそう、言い忘れておった。スタート地点は五人一組でバラバラの街に転送する。協力するもよし、それぞれで行動するもよし。自由に異世界を旅してくれ。
諸君らの健闘を祈っておるぞ! それではの』
頭の中で響いていた声は、軽い労いの言葉を残しあっさりと消えた。
それと同時に、俺の体はどんどん薄くなり始めた。
自称神の言葉から考えると、俺たちは今から異世界にいくようだ。
混乱する頭をなんとか落ち着かせ、周りを見る。
ほとんどの者が戸惑いを露わにしながら、自分の消えゆく体を見ていた。
そんな中、俺と同じように周りを観察する人がいた。
海斗だ。海斗は嬉しそうに、俺に話しかけてきた。
「君、名前はなんていうの?」
「
「悠斗っていうのか。よろしく!
俺、一人で心細かったんだ。悠斗に会えてよかったよ。
俺たち、同じ街に転送されるといいな!!」
満面の笑みを見せる海斗。
こいつは性格もイケメンなのか。
「ああ、よろしく」
言葉を返す。
直後、俺の視界は光で包まれた。
ーーーーーーーーーー
視界が開ける。
目の前にはまたも見知らぬ景色が。
中世ヨーロッパのような街並み。石畳の道がまっすぐのび、その両サイドには明るい色をした、三角の屋根の家が立ち並んでいる。
本当に異世界に来たのか?
まだ、心の整理が追いつかない。
視界の左上に見えるバー。
緑色は10/10、黄色は2/2と書かれていた。ゲームであればHPとMPのことだが、その考え方で正しいのだろうか。顔を左右に動かしても消えないあたり、俺の視界にだけ見えているものかもしれない。一つ言えることは、ここは日本じゃないということだ。
本当にこの世界が異世界で、スキル? というものがつかえるのなら、それは願ってもないことだ。誰もが夢見たことのある異世界。特別な力で皆から尊敬の眼差しを受ける。
……まてよ。
これはもしかして、本当にすごいことなんじゃないか?
謎の空間。神からの言葉。ヨーロッパ風の街並み。
本当に、俺は異世界に来たんじゃないのか?
おいおい。それって……
最高じゃないか!!!
想像しただけでワクワクしてきた!!!
どうしよう。俺TUEEEの無双系でいくか? いや、ハーレムものも捨てがたい。スローライフってのもありだな。まだ分からないことだらけだが、せっかくならこの異世界を楽しみ尽くしてやる。神よ、見てろよ。俺が魔王を倒してやるぜ!!
よし! そうと決まれば、まずは情報収集だ。
俺は自称神が話していたことを思い出し、ある単語を口にした。
「ステータス!」
目の前に長方形のデータが現れる。
ヤマナカユウト
職業 平民
レベル 1
HP10
MP2
ちから 1
かしこさ 1
みのまもり 1
すばやさ 1
みりょく 1
スキル なし
えっ? ちょっと待て??
俺、平民なんですけど!?
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